07
ローがリーシャの自宅にて仁王立ちしてる。
その理由はこちらが及び腰だからだ。
キスするかしまいか?という問いに対してします、と答えたから彼はここに居る。
「おれも出勤が迫ってるんだぞ」
額に怒りマークをこさえて怒気もた揺らせている。
「分かってるよ」
必死にへこへこと言う。
分かっている、分かっているのだ。
未だ前世の世界の価値観に罪悪感を持たせている己が未練がましいことくらい。
「う、くう。さようならヤマトナデシコ」
慎ましさを殴り捨てます。
今日からこの世界に突入します。
「もう何度もしてるだろ」
呆れたと溜め息を吐かれ、痛々しい事実に心へダメージが入る。
それは言うてくれるな。
「悪魔に魂を売る私をおゆぶあああ」
言葉の最中にギリリリリ、と頬のお肉を横に摘ままれる。
「悪魔とは誰のことだ。あ?」
「さ、さあ?」
誤魔化さないとリアルにほっぺが伸びる。
しかも当分後を引く痛さに苛まれるだろう。
ふるふると首を振り彼はそのまま唇へ寄せた。
「ん」
しよう、となってしたものはやはり捉えようが違う。
今までは突然のことばかりで心の準備などないようなものばかりだったのだ。
ただ慎ましいキスだが、長い。
一分たったんじゃないかと思って、ようやく離れていく。
受け身だよ、そうですよ?
こっちからいくとか無理無理。
「ど、どう?」
魔力を受け渡しなんて初めてなので仕組みは知っているけれど実感らしきものがない。
流れる感覚もなくスカスカした感じ。
実態がなくて上手くいったかも向こうしかわからない。
「足りないな」
首を捻り味見したあとのような顔でローは唱える。
「足りない?え?」
リーシャはあの僅かなキスで1日動けたのに今ので足りないとは?
彼はこちらを向くと体をキュ、と緩く抱き締めてきた。
「聞いたことがあるだろ。密着しながらキスすると行き渡りやすくなる」
聞いたことがあるが、あれは賛否両論のものだ。
「おれの知ってる奴がなんとか効果で相乗されて吸収しやすくなるって推奨してた」
ローの知ってる人なら権威的な人物かも。
信憑性があって否定材料もないので嫌と言いにくい。
近くてお互いが顔しか見えないのに。
「抱き締めるのは平気そうだな」
「ああうん。ま、まぁ。かなぁ」
内心凄く動揺していたけれど、これも日々の糧のためだとひたすら終わることを祈る。
早く済ませて欲しい。
「へ」
キスされるのかと目元に顔が近付いたが、触れたのは髪だった。
髪は効果がほぼない。
繋がっているが抜けるものなのだ。
「な、なにして」
「キスがそこばかりじゃ楽しめないからな」
合間のものを楽しむのだと更に抱き込められて心臓がギュワギュワと脈打つ。
やめて、慣れてないんだから!
「お前も早く慣れると良い」
口から色々出てきそうで言えない。
慣れるなんてあるもんか。
おでこに向かって頭突きしたくなる。
ゴチン!っと。
「は、はやく」
語尾が小さく震える。
「焦るな」
笑う声も今は気にならない。
初心者を苛めるのが楽しいらしく余裕そう。
「まだなのっ」
「そんなに待ちくたびれてたんだな」
いや待ちくたびれたわけでは。
反論を返せないままキスを受けた。
長い助長だった。