05
朝、起きると既に彼は起きていてソファを借りた礼を述べた。
その時の刺す視線にどうしたのだと聞く。
尋ねたことに目を開き驚いていた。
「昨日のことを覚えてるか」
「昨日の?」
「惚けてるんだったらころすぞ」
「!?」
唐突な暴言にビックリだ。
だって普通に認めるのも恥ずかし過ぎて言えないだろう。
相手はキスをしている男で、片や未経験。
認めるのも可笑しくないか?
嬉々として認めたらそれは性格破綻並みだと判断して距離を取るぞ自分は。
なので、この考え方は間違ってない。
可笑しいのはこの世界だ。
「お、ぼえてます」
しどろもどろに言えば男は満足したのか向こうへ行った。
その間に髪を手ぐしで整えているとローがコーヒー片手に戻ってきた。
リーシャはコーヒーが好きではないので寄越されないのはいつものこと。
あれには目覚まし効果や興奮する効果があるなどと浅い知識では知っているのに実際実感したことはない。
起きたばかりで起こさせるようなものを飲むのはしたくない。
飲むのなら水で事足りる。
「朝食作ってやる。なにが食いたい」
「え?ご飯を?ローが?」
今までそんなことしたこともなく、させていた側だった。
怖いぞ今日は。
まるで別人のようだ。
させていたというより率先してしていただけだ。
彼がやらねば自分がしなくては出てこなかった消去法。
なにが食べたいと言われても考えてもいなかったので悩む。
うーん、と唸りピロリン、と思い付く。
「ベーコンエッグ」
「なぜそれにした」
「ローでも成功するからかな」
料理できるイメージが欠片も思い付かなかったし想像も出来なかった。
どれだけ料理出来ないと思ってるんだ的な恨めしい視線を感じたが彼はキッチンに引っ込んだ。
彼のプライドを傷つけずに済むメニューはそれくらいしか思い付かなかったし。
彼はなぜか気遣ったのに怒った顔になったので男とは難しいのだなと内心思う。
暫く待ち、香ばしい匂いが漂う。
正しく作れたのだと子を見守る親の心境になる。
焦げずに作れて良かった良かった。
お皿を持ってきてくれて料理を目前に出される。
ありがとうと言うとドアップの男の顔があり、後ろに引く。
いやいや、今キスしかけた?
「なにし!?」
「作ったらやろうとした」
「ありがとうって言ったよ!」
「どういたしましてのキスだろ」
「いや、知らないってばっ」
「作ったって事は動いたんだ。互いに魔力を補給出来るしウィンウィンだ」
「私はいらないって」
「じゃあおれはどうなる」
そう言われてクッと喉が詰まる。
人は話すだけでエネルギーを使い、寝ている間も常に消費し続けている。
彼は今キッチンに立ち、エネルギーという魔力を体内で燃やした。
「で、でも」
ちら、とほかほかカリカリのベーコンエッグが目に入る。
料理人の側にもスポーツ選手の側にも補給人員が常に待機しているのをテレビで見たことがあり、町中でもそういう休憩所が至るところにあるのを知っている。
「このマンション、補給人員呼べたよね」
マンションは所謂御用達みたいな高めのところと知っている。
電話一本で事足りるような。
すがった言葉は彼の射す瞳により捨てられた。
「これは」
ベーコンエッグを浅黒い指が指す。
「お前のために、作った」
と、説教染みたことを。
「つまりは?」
答えを先生のように求められる。
ごくん、と喉が動く。
「私が人員の値段を払う?」
「不正解」
彼はスル、と下から迫り唇を寄せた。
「お前自身で補え」
お金に困っていないのは知っている。
重なるものを意識しながらも、それでも求められた事実に息が一瞬怯む。
これは朝御飯代なのだと己に強く言い聞かせた。