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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
01
世の中、上手くいかないなと微かに溜め息を吐きかけ、ギリギリに喉へ戻した。
図書館勤務歴三年。
平凡に生き、地味に過ごすことを目標として今日も働く訳だが非常に憂鬱なのだ。
図書館の中だというのにあちこちの男女がお熱いキスをしまくっている。
多分皆の中でそんなのわいせつ的な処置を持って追い出されるだろとなるかもしれない。
自分とてそういうものがあるのなら今すぐそこへ電話をして奴等をここから叩き出したいところ。
しかし、この世界の常識がそれを阻止している。
前世持ち、記憶持ちの辛いところはその時の世界観や価値観に染まり今の時代に染まれないことだろう。
こういうライトノベルあったなというのだけは覚えている。
キスが普通にまかり通る世界。
この世界には魔法があり、魔力を得るためには異性のキスを受け入れることが最大の効率だと。
主人公にめちゃくちゃ有利な世界。
女性からしたら地獄に投入されたようなもんだ。
あちこちからいちゃいちゃした雰囲気がして目を下にして見ないように仕事に集中する。
同僚に魔力を使えないことをバカにされつつ帰宅。
家に入ろうとすると隣から女が出てきて、その家の持ち主を思い出してから胃がむかむかした。
よりにもよって自分の隣に居る男は女を常に持ち歩くようなとっかえ男なのだ。
関係ないから良いやと思っていても不快な気持ちはなくならない。
キスが普通の世界では息を吸うのと同じ回数の行為を皆当たり前のようにしている。
とんでもないと怒鳴りたい。
そんな真似出来るかと。
好きな人としたいんだから他人と出来るか。
頬でも顎でも耳でも頭でも嫌だ。
部屋へ入り鍵を閉めると携帯が鳴りその表示された名前を見て顔を歪める。
出る必要はないとサイレントにしてソファに放り投げた。
この世界の体は魔力がないと常にダルさを感じる。
今日も、生まれたときからずうっとそのダルさを背負っている。
慣れたのは慣れたがエネルギーが足りないと体は欲しているのに嫌悪。
キスパックなるものがあるが、お高くて滅多に買えないのだ。

「しんどいな」

風邪を引いてるかのように疲れが酷い。
早く布団に入りたくて夜食を食べるのもやめた。
うとうとしていると玄関からチャイムが聞こえて息を吐いた。
無視したのにそれでも来るとはタフだ。
開けるわけがないとだんまりを決め込むとくぐもった声で「開けろ」と威圧感満載な声が聞こえた。

「嫌に決まって」

「一度しか言わない。早くしろ」

ちっとも嬉しくないやり方をされてもそもそと布団から出て扉を開けにいく。
ドアを壊してしまうだろうと観念した。
やるといったらやる男だ。
そんな方向性に育ったのだから止められない。
あくびを噛み殺し無理矢理気を奮い立たせてかちゃりとドアの鍵を開けると即開けられた。
危ない、鼻に当たって骨折したら殴ってやる。
音を立てて開けたのは鋭い眼光の顔の整った男。
何が嫌だって、この人と幼なじみなところだ。
キス嫌いの幼なじみはキス魔。
漫画なら良いシナリオとして絶賛受けそう。
どこのライトノベルですかってくらいの設定。
気だるげなのを我慢していると彼はそのままずかずかと部屋に入ってきて部屋を見回すと呆れた口調で言う。

「まだ補給してないのか」

その言葉にカチンとくる。

「ノーキスなのを知ってるのに干渉しないで」

ノーキスというのはキスという行為を嫌う人のことだ。
ほら、ベジタリアン的なニュアンス。
威圧的な彼に反論。

「おれがくれてやろうか」

「余計な世話」

断ったのにじりじりと攻めてくる。
少しずつ後ろに下がっていらないと言う。
キスなんていらない。
あんな、愛もない行為など。
美醜逆転とかの世界の方がましなのではないかとさえ最近は思う。

「キスは好きな人とじゃなきゃ」

ぽそりと呟き、それに勇気が湧いてきてローを追い出した。
不機嫌だろうとからかう為だろうと関係ない。
キスをそこら辺の人としたい人は合意してからすれば良いのだ。
キスという概念が雲よりも軽い世界で一人孤独を抱えていた。



図書館でいつもの光景を無視して仕事に専念していると男の人がやってきて本の場所を聞いてくる。
そこへ案内して戻ろうとすると男性はお礼を言ってくれた。
仕事なので。
それから普通にこなして帰宅しようとするとまた昼に案内した男の人が入り口付近に居て近寄ってくる。

「え?」

驚くと男の人はお礼がしたいと傍に来て手を持ち上げキスした。
お礼がキスとかやめてほしい。
汚いなと顔に出ているのを隠さないまま、男性を見る。
どうでもよくないからこそ気持ち悪い男にがくんと下げて後ずさる。

「やめてください」

警察に突き出してやりたいがただのキス程度では残念ながら突き出しても逮捕されない。
非常に嫌なことだが。
手を服で拭きながら思考を回転させていると僅かに体のダルさが緩和されていることに気付きその感覚に不味いなと感じる。
健康になってしまうとそれを求めてしまいたくなるではないか。
余計な真似をした男を睨む。

「おい」

しかし、その睨みは長く続くことはない。
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