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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
08
図書で仕事をしていると自然と本が身近にある生活だ。
それにより、入荷したニュースをまとめた記事の載っている雑誌も目に入る。
入荷した雑誌を見ているとローのことが記事にされていた。
思わず読み込んでしまう。
内容は仕事の中身とキスに関する予想だ。
ローのキスは一回あたり20万はするだろうというネタとしか思えない金額が書いてある。
そういう世界で生きる人のキスの価値とはそこまでなのかと目が痒くなった。
キスで20万なら10回で200万。
なんだかローとのキスが財布のお金が浮く感覚にズレてきた。
ぼんやり想像していると笑えてきた。
夢みたいなシステムだなと。
ローがカードのように見えて、ローとカードの融合を想像してしまい壺に嵌まる。

「あー、もう。仕事しなきゃなのに」

笑いの壺が収まるまで待ってから雑誌も閉じる。
20万なら自分は2円とかだろうか。
それとも値段など払う価値もないだろうかと深く邪推してしまう。

「この世界ではキスで対価を払ってる」

チップもキス。
キスはお金で計算される。
考えたら平和なのかもしれない。
でも、方法が人体同士なのはどうにかしてほしい。
せめて機械にするなどという配慮。
無機物ならキスをして皆と同じ風に過ごせただろうな。
潔癖の人とか本当にキスについて違和感を感じないのか。
世の中居るんだろうけど、キスだけは良いみたいな風に思っているのかもしれない。
そういう教育を受けていて、自然の摂理と同じ枠に入れられているから。
握手をすることに逃避することがないのならキスも逃避することはない。
いやいや、キスは全く別の行為だろ、と突っ込みたくてたまらん。
一人で雑誌を捲っていると頭上に影が出来て気配を薄く感じ、上を見る。
そこには働く場所が同じという他人が嘲笑った目でこちらを見ていた。
またノーキスのことをバカにするのかもしれない。
言うならば輪に入れぬ子をからかう寸前の心理か。
なにを言われるのか大体分かっているので向かっ腹を激しくのたうち回らせながらも、大人の対応でスマイル。

「ねぇ、この仕事手伝ってもらえない?」

「すみません、私まだ自分の終わってないので」

掃除を押し付ける時となんら変わらないニュアンスに大笑い。
別にキスを覗けば性格的に気弱でもない。
断るのは当然な内容に対応すれば、笑っていた顔が怒気を微かに匂わせる。
だから、なにに怒っているのか。
下僕は役に立てとこの人は勝手に思ってるのかね。
残念ながらこっちも働く人間なんでして。
人と違うと言うことは理由にならんのだ。

「ノーキスの癖に」

ポロっと言われたそれになんの反応も見せない。
ノーキスは他の世界じゃ珍しくないのだから、全然どうでも良いや。
ここの人達に同意を求めても帰ってこないのは既に知っている。
理解されない価値観でも染まれないものは無理。

「読む作業に戻らせていただきますね」

相手が去ることがなくとも、読む動作はやめない。
こんなことで時間を浪費する場所でないし。
人間社会はコミュニティ。
知っている、でも、キスは。

(皆放っておいてよね)

無視するときはして、好奇心を満たせるものがあると寄ってくる、そういうのはうんざりだ。
放っておいたのなら最後まで突き通してくれ。
ノーキスじゃなく、純愛派だ。
言い方や表現を是非変更したい。
60年連れ添った人は初恋なんです、とか言ってみたい。
ドキドキしました、とか語ってみたい。
でも、この世界でのキスシーンとやらは一人に絞られない。
ハーレム展開、逆ハーレム展開が通常運転。
ノーキスを主にした物語なんて探してさ迷わねば見つからないと思う。
あったとしてもコストを考えたら打ち切り確定だから誰も作りたがらない。
ノベルも映像も。



と、その考えを持って帰ったら、ローが映画についてぼそぼそ呟いていたのを聞いて映画を見たのなら連れて行ってやると言われる。
カップルがどこを向いてもキスしてて冷静に見れないからまともに行ったことなどない。
ポテトのチップをカリカリボリボリと摘まむ男をジッと見る。

「なんだよ」

「私と映画中にはキス出来ないよ」

「分かってるそんなこと」

キスキスキスキス、そんなの出来るかとパンフレットを投げ捨てる未来の自分が頭に過る。
周りがキスしまくっていて、己がしていないと変な目で見られるのは平気なのだろうか。