香牙 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


平凡でなにもない世界を前と呼ぶなら、今の世界は不思議過ぎて息も大変。
自分の中でオカルトというと本の世界なのだ。
だというのに、この世は摩訶不思議なことが日常に紛れ、事件として人々に認知される。
勿論、それを適切に処理する者は存在し、その逆の存在もしかり。
やはり人と言うものはオカルトという現象に惹かれてしまう。
人々に認知されかけている時期より前から魔術やそれに関する異物、アーティファクトの興味を持っていたので、日々それに対する本や情報を集めるのが趣味になっていた。
高校卒業という間近、怪奇という巷で噂になっている現象に学校自体が巻き込まれるまでは楽観の目でアーティファクトについて楽しくて仕方なかった。
異物というものは使い方を間違えれば恐ろしいものになってしまう。
そして、異物とは違うが都市伝説の生き物が存在していることが大っぴらに報道されるようになったのもここ最近。
その話題に我らは事欠かなかった。
ある意味学生として正解な姿だが、どこか異常な空気であったと後々思う。
そこからして、誰かしらに意図して拡散されたと疑うべきことだ。
噂がどんどん拡がっていき、同じ都市伝説なのにまた流行る。
狼男とか、なんとか女とか、なんとか像とか。
リーシャは基本的に異物しか興味がないのでどうでも良かったのだが、目の前に生きる都市伝説が現れたのなら無視するのも難しかろ。
ほら、女子生徒がベタに夜狼のコスプレをした変態に教われているとか。

「くたばれ!なむさん!」

――ブン

「ぐおおおおお!」

筆箱のシャープペンをいたずらに投げてみたのだが、綺麗に放物線を描いてコスプレ変態にささった。
ささったとは言っても浅いのだが。

「きゃ!」

女子生徒がベタに動けないので冷たい目で発信する。

「恐怖で動けないとかはやめて、早く動いてください」

足手まといだし、邪魔。
ターゲットされているんだから、そこで動けないとか言われても女一人を抱える腕力は持っていない。
動くか戦うかをはよ決めろ。

「ひ、ひ!」

「私を怖がる暇があるのなら目の前の狼にころされますよ。ひ!とか今時流行らないです」

被害者なら潔く走って逃げるなりしてほしい。
だって、自分も走り去る予定だから。

「私は行きます。あとは貴方の自由です」

良くこう思ったことはないだろうか、ゲームで主人公がピンチになったとき、お前その隙間から走るなりして逃げられるやろ、と。
まさに今そんな感じだ。
女子生徒は足がすくんで動けないのかもしれんが、こちらからすればじゃあもう知るかって。
今思うと、このときの自分は怖くて怖くて、相手をおもんばかれなかったなと反省した。
なんせ、初めての戦いだったから。
早く目の前から逃げたくてろくに覚えてない。
狼男と二人で逃げた。
幸いにも追ってくることなく警察に駆け込み、コスプレをした男が襲ってきたことになった。
何度狼男だと言っても相手が解釈を曲げるから。
バタバタと逃げたのに損した。
騒動に心を落ち着かせた三日後から、狼男の目撃情報がニュースで取り上げられた。
今までは噂だけに留まっていたことが現実に起こっている。
オカルトークという月間の本があって、そこに投稿していたのだが、最近は狼男を特殊していて、今までの面白さが半減してしまい落ち込んだ。
今まではファン通しのコミュニティだったのだが、狼男が現れてから新規のファンが増えて人気になって、独特の内容がなくなってしまう。
そんなことでと言われるが、秘密基地が暴かれたような気分。
暑くて気分も最低を更新していた明くる日、接触してきたのはオカルトークをまだ読んでいたとき、骨董屋で品物が被ってしまい己のものとする為に口で勝負した男。
名刺はもらったような気がするが金持ち道楽と思ってなくした。

「よう、リーシャちゃん」

「名前を教えてないのに知ってることに吐き気を感じます。ドンキホーテさん」

「フフフ!リーシャちゃんの毒舌は痺れるね」

「ドンキホーテさん。心臓内科を受診なされては?」

「そいつは遠慮しとく。今回はリーシャちゃんが怪奇な事件にあったと聞いてな」

「ドンキホーテさんに教えた覚えはないですけど。噂にでもなってそうですね」

「ああ。こっちの界隈じゃ、シャープペンをさしたことで大盛り上がりだ」

「こっちは命懸けだったんですけど」

記者宜しく好奇心かよとじっとり見ていると、訊きにきたんじゃなくて、紹介しにきたんだという。
さっきから後ろに年若い男が立っている。

「こいつァローだ。新参だがおれの秘蔵っ子さ」

「え、こ、こんにちは」

突然のイベントにどきまぎして挨拶。

「ああ。こちらこそ。お前の狼男を前にぶっさしたこと、言動全てに嵌まっちまった」

あのときなにか言ったか。
怖すぎて覚えてない。
恐怖に心臓がばくんと躍り、今にも飛び出して空まで飛んでいけと言う記憶がある。

「というか、これはなんの顔合わせですか?」

「顔見知りなればリーシャちゃんの助けになるかもしれないだろ」

ドフラミンゴ氏はかかわり合いになると言わんばかりだったが、ノーセンキュー。
友達にもなにかになるつもりもない。
オカルトは一人で楽しんでいくのが主流なのだ。
よってたかっても得られるものはなし。

「ローさんとおっしゃいましたか。なぜか個人情報がもれているみたいですが。この人の傍に居ると性格が移りますよ」

「くくく、ドフィにそんなこと言えるのはお前くらいだな」

「ドフラミンゴさんとはアンティークやアーティファクトを巡るライバルですから。この人私相手に意地汚く大人買いを目の前でやって、私の異物を持ってくんです」

「おれはちゃァんと手順踏んで買ってるぜ?」

「私が先に目をつけたのに買うなんて大人げなさすぎですよ。なんなら私に寄付してもいいんですよ」

「!――フフフフフ!!」

突然大笑いして最高だと宣う。
どうしたアルコールでも含んだか。


prev next【01】