香牙 | ナノ
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結局、捜査の人によれば既に男子は違うところに運び込まれているので氷だけを見学しにいくことにした。

「綺麗」

まるで工芸品のように清んでいる。
色合いも透明で、隙がない。
思わずこぼれ落ちる称賛。
ローは「は?」とこちらを見る。

「あれは凶器だ」

言われずとも理解している。
それよりも、美しいのは見た目だけではない。
思念のようにオーラを纏っている。

「怨念……これは、違う」

怨念、憎悪。
氷自体が異物となりかけている。
だから、溶けないのかも。
この気温では今のままではとっくに溶けていてもおかしくないのに周りには水滴一つついてない。
ただの氷でないという証。

「持ち帰りたくなります」

「捜査が終わったら割るか」

「だめです。こちらの管轄で管理されます」

ローが食いつくと傍で待機していた人が止める。
リーシャの様子に気を良くしていた男は捜査員の発言に水を刺され無表情になる。
ドフラミンゴの権利でどうとでもなるな。

「いえ、いりません。私はこの状態を美しいと感じます。欠けた時点で別物なのです」

なるほど、では手配はいらないなとローはまた目を楽しさで細める。
異物に魅せられているのはローとて同じ、ドフラミンゴが気に入っているのなら更に近付いても構わない。
そう判断する。

「異物ハンターなら欲しがるな」

「異物ハンター。名前だけなら聞いたことがあります」

異物を集めてお金を得るらしい。
トレジャーハンターとは別物だとか。
詳しいことは知らないが。

「知ってる奴は何人かいるが。これは結構大きい。盗まれないように気をつけろ」

後半は特異捜査の人に注意した。
わかっていますと言っているが、守りきれるのかは謎だ。
というか、凍りづけとは。
異物と関係があるのか謎だ。
そういう場合は傍に異物があることが多いのだが、ないらしい。
ある場合に備えてローにいてほしかったよう。

「異物特有と時空の歪みはなさそうですが、この氷はどこから出現したのでしょう」

「興味ねェ」

いや、つれてきただろ。
それでどうでもいいとか無責任過ぎる。

「祓いやなのにですか」

「跡継ぎなだけで事件の背景なんて気になるわけもない」

そりゃこっちの台詞だ。

「じゃあ祓いやとか言わなきゃ良かったのに」

独り言をごちて、異物を眺めてもう良いだろうと離れたい。
しかし、ローはお前も参加してみたらどうだとアホなことを抜かす。
立派な専門家が近くに居て捜査するのに何故一般人が捜査するんだ。
ダメすぎて付き合ってらんない。
帰ろ、とローに声をかけていく。
もう付き合う義理は果たしたし。

「異界化するかもしれないぜ」

面白そうに言われるが、この氷は本部に持ち込まれるので異界化するのなら捜査本部だ。
学校はならないので関係ないし、もう十分。
という、ことをはしょって伝える。

「知ってたのか」

「異界化の条件はそれなりにあるんです」

「博識だし冷静。おれも帰ることにする」

なにか呟いたあと、急にワガママなことを言い出す。
祓いやとして首を突っ込んだのに中途半端なことをするもんだ。
ローを見てチャラいなと行動を観察していると視界の端の氷が僅かに光る。

「!」

咄嗟に走る。
氷とは逆方向に。

「は!」

息を吐いてひたすら走っていると後ろから余裕でついてきたローが声をかけてくる。
どうしたと聞かれたから異界化の兆候があったから避難したのだと小さく告げた。

「異界化を見たことがあるのか」

「さぁ」

異界化のことについては良く分かってない文野だ。
なんせ、異界化は人の細胞のように一つ一つがまったくの別物なのだから。
同じものはない。
危険な異界もあれは危険ではないものも存在している。
研究されてはいるが、深く調べられないので手詰まりなものなのだ。

「紅蘭。そちらに保管されてます?」

「それについては企業秘密だ。あの氷を溶かす用だろ」

「ええ。企業秘密って変ですよ」

ただの趣味で集めてるんでしょうに。

「そのことは深入りしない方が身のためだ」

忠告痛み入る。
全然配慮してくれないけどその割りに。
ちなみに紅蘭とは炎を発生させている異物。
異物には一番異物が良く効く。


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