香牙 | ナノ
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ローが退院した後に家にやってきた。
熱心だ。
押し掛け旦那でもしているつもりか。
なかなか可愛いところがある。

「またなにか異物の事件が?」

「いや、デートを結局途中でやめたただろ。埋め合わせしておこうかと」

強制的に終わらせたのはリーシャなのだがな。
真面目なのか、それともデートをしたいだけなのか。

「良いですよ。私の勝負に勝てたら」

「勝負って……」

「このスマホゲーで」

今はまっているのだ。

「お前、今異物事件の資料としてテレビとかにオファー来てるんだろ」

「断ってますから」

「なんで断るんだ」

「んっと。どうせ一ヶ月後には放送内容など覚えられてないからですかね」

「金とかどうしてるんだ」

「定期的に」

異物関連は今沸騰している。
困らない、出版会社が高笑いしていたよ。

「へェ」

「スマホゲーやりましょう」

「知識欲がいつもあるな」

そういう性分に特化した人間だからね。
特にローとはその後お化け屋敷の事件の詳細を聞かれるということもなく、計画通りの生活を遅れている。

「デートは家デートしましょうね」

「ゲームしたいだけじゃねェか」

といいながらもインストールしてくれる。

「その後どうですか?また人格出てきたりは」

「今のところないな。夜中にいきなり町中に居たということもない」

え、そんなこともあるのか。

「なにそれ、怖いですね」

「ああ。車に何度も飛び出したりと生傷が耐えなくてな」

「結構死活問題ですよ」

「まァな」

ローは最近は一生このままなのかと思っていたらしい。

「私がそんなのさせませんよ」

「お前がそんなにあの男を嫌ってたとはな」

ローの記憶は所々曖昧だ。
はっきりくっきりあのときの事を覚えているわけではなく、膜を隔てたなにかを見てきたのだとドフラミンゴ経由で聞いた。

「ええ。おかげで私、最近良く眠れるようになりました」

殺意だけは誰にも負けなかった。
例えマイアが死ぬような状況でなくても香牙はきっと生きることを許さなかっただろう。
知識は宝だ。
人間のちっぽけな記憶力なんかよりもずっと生きている異物達の生きてきた時間の方が遥かに尊い。
ステルクという邪魔ものも消えてくれて良かった。

「おれもまだ寝ることに慣れないが、朝寝たところに居るというのはこんなにも感動することだったとは」

もしや、その目の下の隈は。
いやいや、やぶへびを出さぬようにしよう。

「毎回毎回、ローさんが意識を失うと女の名前を連呼してさ迷うのが見ていて不快だったので」

「そういや、そんなことも報告書にあったな」

ローは知らぬうちに体を乗っ取られていたから言動は知らないから誰かから教えてもらうしかないのだ。

「これでお昼寝してても残りカスに起こされなくなりますね」

きらきらしい笑顔で賛同。
ローは口元をひくつかせ、仕切り直しに話題を変える。

「病室でのことだが」

病室での出来事なんて色々あってどれだろう。

「キスしてほしいとかですか?」

今はそんな気分じゃないからな。

「違う」

力強く否定。

「次にあるとすればそれはこっちからだ」

「え!」

ローから出てきた言葉に驚いてスマホのタップをミスする。
しかし、一度のミス程度で負ける腕前ではなく、直ぐに持ち直す。
動揺させるとはやるな。

「凄い進歩ですね。よしよししてあげます」

「いらねェ」

「撫で撫での方が良いんですね」

「どっちも同じだろうが」

コントを遣り繰りしながらもローからのゲームオーバーでこちらの勝利となる。
勝利したのでローのデート権はこちらに移る。
なにをしてもらおうかなと思案。

「そうですね、夫候補として必要なスキルを見せてもらいましょう」

やはりなんといっても先ずは料理。
フライパンを用意して彼にホットケーキを焼いてもらう。
家デートらしくなってきた。

「こんなんで良いのか」

ホットケーキを作らせることが微妙らしい。
美味しいのにホットケーキ。
茶色いものをひっくり返すと皿に盛り付けてテーブルに出された。


作ってもらったホットケーキをもぐもぐと腹に納めていく。
美味だ。
とは言え、ホットケーキミックス使用なので、焦がさない限り美味しく出来上がる簡単なこと。
基本的にはやってくれと頼んでやってくるかどうかを確認していたので。
なぜなら、ローを尻に引くのが密やかな計画だからだ。

「ホットケーキ美味しいですねぇ。パンはお嫌いなんでしたか?」

ローに出されているのはお茶漬けである。
ホットケーキはもしや食べないかと思っていたので。
食べながら今日は日帰りか聞いた。

「……それは誘われてるのか?」

「さて、どうなんでしょうねぇ、ふふっ」

「その余裕、持つと良いがな」

昔、鋭さを持つ異物があったが、その瞳を思わせる顔をしている男に微笑む。
余裕なのはローだけではないのだ。

「年の功ってもんを見せてやる」

「ええ、楽しみにしております」

それは同じ歳を経ている人間ならばドキッとくらいはしたのかも。
少し惜しい事をしたな。

「メイプルはスタンダードですが、生クリームも美味」

味わって食べた。
ローも完食し、二人してソファに鎮座してテレビを見る。

「まるで同棲してるみたいですよね」

「今更か?」

「今更ですが」

照れるのかと思いきや、照れない。

と、男は内心少し面白くなかった。

ローとて、すこしくらい顔色を変えさせたいと思うことくらいある。

「何故そんなにみているのですか?」

顔を見つめていたことを問われ、ふと唇に目が行く。

少し頭を冷やしたほうが良いのではないかと思う。

「もしや、恋愛の駆け引きでも行いたいと申し出たくなりましたか」

男はマジマジと女を凝視した。

「私もそろそろ査定に入ろうかと考えてましたから」

「……そうか」

異性として意識しかけたので、気不味い。

「ほんの少し、進めてみるのもどうですか」

「おれに聞くのか?」

「聞いてはいけないのがマナーですか?疎いもので」

「疎いってな、お前」

「はい?」

「結婚くらい考えている女を見るのは全く可笑しい事じゃねェ」

「結構深く考えているのですね。私にはそういう機微は難しいです」

「別におれは得意という訳じゃねェけどな」

「体質もあったんですから、難しかったことでしょう」

二人で静かに会話のキャッチボールをしていると、ローの携帯が鳴る。

ローは何気なく見て、それが知人の名前と認識して電話に出た。

相手は焦った声を出して、今すぐテレビを点けろだなんて急かす。

テレビは消音にしていたので画面だけだった。

テレビのチャンネルを変えると朧気な瘴気に覆われたものが見えた。

丸丸建物を飲み込んでしまっている。

ここまでの規模のものは珍しい。

「これがなんだ、依頼か」

そう聞くとそうだ!と言われて溜息をはく。

「今はプライベートだ」

ローとその組織が人情等で動くことがないことくらい、電話の相手は熟知している。

今は何人か術師を呼んで対応しているが並居る実力者でも対応出来ないので応援に来てくれと頼まれる。

「ドフィが今かき集めているから待っとけ」

電話を切るとリーシャがテレビをジッと見ていた。

「気になるのか」

「…………いえ」

どこかぼんやりしている。

リーシャは内心、いつか起こると思っていたよ、と思考。

テレビを見て、そこが異物を保管し、管理する施設だと分かった。

何年か前に変な音がすると都市伝説のように噂されている建物だ。

恐らく施設なのだろうと予想していたので今回の事件が起きて確信した。

リーシャは立ち上がり牛乳を温めて再度座る。

「行かないのか」 

「行ってもなにも出来ないし中継で映されているので」

全ては運命だ。

異物にもテリトリーという感覚を持つものもいる。

一緒に居たらケンカもする。

猫のナワバリバトルだ。

運悪く今日がその日になってしまっただけ。

「もっと細かく場所を分けないとまた同じことが起こりますね」

「初めて聞いた。その情報はどこから来てんだ」

「私にも独自のルートがあるということです」

嘘っぱちだ。

記憶という名の情報に蓄積されている。

でも、ローはそんなこと想像すら出来ないので、知れることも永遠にない。

秘密はあっても損はない。

ロー達は新情報を知れるのだから。

「さ、ゲームの続きをしましょう」

リーシャはテレビの音を消した。


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