香牙 | ナノ
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ルコルッタの事件から既に一ヶ月以上経過し、四季も変わろうとしていた。
例のコスプレ連続怪奇事件も迷宮入りかと囁かされている。
一ヶ月もなんの解決もなされておらず、不明なままなのだ。
そんな折、ローが家にやってきた。
なにをしに来たのかと思えば、ドフラミンゴにルコルッタの事件を解決したことに対する褒美をリーシャに渡すように頼まれたらしい。
クルージングで終わったとばかり。
なんなのだと渡されたのはチケット。
ホテルだ。

「近くに遊園地みたいなところがあるらしい」

「二枚あります」

「ダチと行けって意味だろ」

「もしくは男の人と……ドフラミンゴさんってキューピッドでもしたい人なんですか」

「引っ掻き回したいってことしか考えないだろ」

二枚渡されたが、猫はカウントされないのだ。
スマホを手にとって男に声をかけてみると一言告げれば、彼はそうかとそこに立つ。
電話かけるなりするとき、退出するもんだと思うのだが。
そんなに気になるかな。
取り合えず電話帳からかけた。

――リリリリ

「?」

ローがポケットからスマホを取りだし、相手の表示を見てからこちらを二度見た。
一度目は間違い電話だと思い込み切ったのだが、もう一度かけるとやや間が空いて電話に出る。

「なんの真似だ」

目の前にいるのに電話を掛ける行為。
腹がわからないから混乱するのだろう。

「一緒に行きませんか?」

「……おれか?」

「はい。二度も電話したんですけど。一度目は切られてしまったようで私、とっても悲しかったです」

無表情で泣き真似を目の前でやる。
汗をたらりと流し絶句した男に、にやりと笑う。

「男枠なんてトラファルガーさんしか居ませんよ」

「はぁ……わかった。あと、そろそろ名前の方を呼べ。父親がそう呼ばれてるから少し気になる」

「ああ。なんだかそれって分かります。ふふ」

くすくすと顔をあげて、電話を切る。

「話し出来ました。オッケーらしいです」

「……そうかよ」




晴天、雨でも降ればまた違うデートな日和だったかもしれない。
待ち合わせなどと言う手間をローが取ることもなく、普通に家まで迎えに来られた。
部屋はチケットを使うに限り一緒の部屋。
そこには別に恥ずかしさはない。
しかし、男は気になるらしい。

「本当に部屋が一つで良かったのか」

「はい」

「そのつもりに取るぞ」

「わー、こわい」

棒読みである。
こめかみをぴくりとさせて男は荒い運転でリーシャを大変楽しませた。
粋なことをするものだな。
ローにそんなつもりもなく、楽しまれてしまい、思い通りにならない女に激しく苛立った。

「こんなことで怒ると将来埒があきませんよ?」

なんていっていたが、質が悪い女だと評価をまた一つ上げた。
リーシャはころころと笑ってドライブを制限速度で味わい満足。
遊園地に着くと人で賑わっていて噂とクチコミ通りだなと見渡す。
人が少ないのは平日だからだ。
平日を選んで良かった。
ローとチケットを取り出して列に並び終えると女の視線がチラチラと見えて平常運転だなと感想。
ローが入るとスマホで隠し撮りとかをされるのだ。
しかし、そこは異物のプロの腕をカメラ技術をぼかすというどんなプロセスだという技術をしようして、盗撮を防止している。
その技術を是非ともいただきたい。

「遊園地懐かしいです」

「来たことあったのか」

「はい。興味はありましたし」

トラファルガー改めローという名を呼ぶものの、なんだか言いにくい気がする。
トラファルガーという名前に解明してくれと言ってみたら冷たい目で攻撃された。
前の方向から観覧車の中でキスすると幸せになれるんだってと聞こえてくる。
それは、キスするような恋仲になっているのだから幸せなんだろうよ。
首を傾げる矛盾さ。
キスするような余裕を持てているのでこれからも安泰なのは当然。

「ローさん、コーヒーカップでキスすると願いが叶うらしいですよ」

「仮にキスしようとしても唇を怪我するだけだろ。この遊園地にはコーヒーカップはない」

嘘をついたのが速攻バレた。
デコピンされそうでされずに終わる。
漸く中に入ると人人人。
人だらけで動くのも億劫になる。

「やはり定番はあがって下がる乗り物です」

「初っぱなからジェットコースターか」

ロー的には歳に来るから嫌なのだろうか。
そういうところを気遣わないと今後仕事に支障を来すかもしれんから、気を付けておかねば。
内心凄く怒られるかもしれないことを考えているが当然女は全くなにも考えずにそう思い至る。

「すっごく早いのでやめておきますか?」

なんだかんだと理由をつけておけば男としての面子も保たれるかと提案。

「早さを言ってるんじゃなく、混むだろ」

「あー、そういう。わかりました。メリーゴーランドに……ベンチに座りますか?」

「急にランク下げてきたな……」

何故だろうと思ったが気を使われていることまでは分からなかったようだ。
気を抜いている証だろう。
彼とて一々プライベートでも推理や推察をするほど頭を使うことなどしない筈。
疲れるのだ頭を使うと言うのは。
遊園地に来てしまったのだから楽しませようくらいは思う。
誘った側なのだ。
それに、是非ともしてみたいことがあったので。

「先ずはほら、軽くで」

遊園地など行ったことがないのだろう男。
手解きしてあげねばな。
手を引いてさくさくと向かう。
子供とカップルが並ぶ列に行く。
ローはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。

「ローさん、そんな風にしていると今の空気が最悪な状態になってしまいます」

「分かってる」

眉間のシワをなくそうと無の表情に変わる。
さして差はないような。
結局威圧感は残る。
メリーゴーランドの番に回ると二人して同じところに座る。
ゆるゆると軽快な音楽と共に回る。
楽しいかと聞くと全然と言うので、そりゃそうだと笑う。

「初心者にはまずこれなんです」

「初心者ってなんだ」

メリーゴーランドが似合わない男だ。
周りとも浮いている気がする。
気のせいでないな。
ハードボイルド系などが似合い、スーツが似合うタイプだもん。
そりゃ、きらきらしいこれとは相性が良くない。

「はァ、やっと終わった」

うんざりだと降りる相手。
次はアイスクリームを買う。
ローはダブルを選びばくばく食べた。
男らしい食いップリだ。
アイスも難なく食べられるのだったら可愛い食べ物には抵抗がないのだろう。

「ジェット味ってなに味なんだ結局」

食べ終わったあとにもらした感想。
良くある謎の味である。
特に深い意味はないので考えても沼に行くだけ。
アイスクリームを食べ終えると次は観覧車だ。
既に二時間もここにいて、並ぶだけで結構経過するみたい。
スマホで調べていたのだから知っていたけど体験するとまた長く感じてかなり拘束感も強い。
観覧車に並んでいる間にローへ話を進めた。

「知ってますか?この遊園地には不思議なお話があるんですよ。まずは観覧車」

「好きだな女は、そういうのが」

女に限らず男も多いと思うが、偏見過ぎるぞ。

「観覧車の頂上に行くと……時が止まるんですって」

「キスしたら結ばれるとかじゃないんだな」

「ああ。定番過ぎて七不思議よりも聞きあきたものですから。お化け屋敷は、真実の姿と合間見えるとか」

「鏡合わせかよ。七不思議みたいなもんだ」

言われてしまってはそうなるが、ここはそういうことなのだ。

「真実の姿、拝んでみたくはありませんか?」

にんまりと笑い、とうた。
しかし、男はくだらないとため息を吐くだけ。
そういう反応をされると読んでいたから話したのだ。
話している間にも30分並び観覧車の中へ。
待ちくたびれたのか無言になる。

「頂上に着いたら時が止まるっていうもの、試してみますか?」

いたずら心についつい聞いた。
聞かなくてもするのだが。

「良いけどな」

どうせなにも起こらないと本人は投げやりに言う。
同意したのだからローも協力し、後から文句を言うなよと釘を刺す。
はいはい、と適当に返される。
夕方ならロマンチックだったけど、昼だし。
景色は普通に建物しかないから綺麗でもなんでもなく、家からの景色となんら大差ない。
もうすぐ頂上に着く。
立ち上がりローの目前まで来る。

「何をするんだ」

「ただ、身動きはNGで。ずっと固定で」

ローの頬に手を持っていき両手で顔を挟む。
こんなにじっくり触れたのは初めてだ。
怪訝な顔をした男の顔が近くて。
ぐっと顔を近付けて囁く。

「今日、貴方を殺します」

ローの耳に届くのと同時に唇をリーシャから重ねた。
きっと狐みたいに目を丸くして混乱しているだろうな。

「ふう。あれ、もしかして口移しで毒殺されるとか思いました?やりませんよ?」

肩を捕まれて唇を外すと真意を図ろうとする目とぶつかる。
別に今なにかするつもりは一切なく、微笑みに無言を続けた。

「今」

「時間は止まりましたか?」

問いかけたら、少し間をおいて止まったなと真面目に答えた。


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