香牙 | ナノ
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案内人の女性はあんなの初めてみたのと焦った顔で述べ、リーシャを見る。

「リィンというあの人、なにかルコルッタにやりましたかね」

淡々と指摘する。
案内人の女もリィンが一度もここへ戻ってきてないのだと頷く。

「あのリィンという人、もしかしてルコルッタのオークション会場に居ましたか?確認を」

彼女はわかったわと走り去る。
急をようしているみたいだ。

「気になってんのか」

「あの人だけやたら私たちに話しかけてきたんですよ」

「普通だろ」

「そうですか?一般人に見える私達に他の方は来てませんし。執着されてるような」

ひしひしと感じていたことを吐き出すが、ローにはなんとも感じなかったのか首を傾げられる。
なんというか、男性には感知されにくいタイプなのかね。
違和感を述べたがローの共感を得られず保留とした。
今は問題を見てみなくては。
案内人の女が戻ってきた。
聞けば、警備に入っていたという。
ふむ、と腕を組む。

「異物名探偵をまたするのか?」

「ダサいからやめてくださいと言いましたよね?」

この人、絵も凄いけどネーミングとかデザインとか、思考停止して書いている人だから、ネーミングを全く疑わないのだ。
怖い怖い。
任せたらまた変な名付けをしてしまう。

「どこがダサいんだ?」

ほら、本気で分からないって顔してる。
だから、やめてといっても聞いてくれない。
理解させるのも時間がかかるので今日はやめておく。

「私も中へ入りたいですね」

「待て、あの男が怪しいと思ってんなら入るのは危険過ぎる」

「そうよ」

女も同意する。
ルコルッタさえどうにかなれば男のことも分かると思うから。

「このままではリィンさんのせいでルコルッタが消滅を選ぶかもしれないです」

「消滅とは随分古いことを知ってるな」

「消滅ですって!?」

ローと知っているようだが、彼女は知らなかった。
まぁ、滅多にないことだし、誰かが持ち去ったとか言われているから確かな現象ではない。
建物を迷宮に出来るエネルギーを秘めているのだから理論では可能。
しかし、誰も許可しない。
いつもはローから率先して進むのに今回は止めるなんてどうしたのだろう。
彼はこちらの顔の凝視に心を読んだのか、男と二人きりになるだろうがと至極当たり前のことを言う。
今さら何を。
そんなの今に始まったことではないぞ。
嫉妬かしらと女はにやりと笑うが、この人に限ってそんな小さな感情で止めるのか疑問。

「そうだが」

認めた。
認めてもなにも変わるものなどないのだ。
砂漠の風が一つ吹いて髪を巻き上げる。
辺りはまだひとの声でざわめいていた。

「お邪魔かしら」

「なにを言ってるのかわからないですけど、分かるかもしれないです。あ、離れないで下さいよ」

女がこっそり二人から距離を開けるので実は通訳がいらないのではと疑う。
今の言葉は訳されてないのに察するとは。
今はそんな場合でないから、さっさと中へ入らせてくれと懇願する。
しかし、危険が大きすぎると言われる。
彼らは子供扱いしてくる。
もう大人なのだが。
責任くらい取れるし。
困ったと周りを見回し、ルコルッタのある会場の建物が揺らぎ出す。
強く光り、なにかに引っ張られるように後ろへ倒れる。

「リーシャ!」

ローが追ってくるのか、声だけが聞こえた。
閃光は目を開けられないほど。
出来れば追いかけてくれるなと、追いかけないでと言ったのだが果たして通じたか。
光が目に染みなくなったので目を開けてみるとルコルッタの障壁の中だけではなく、建物の中に転移していた。
ここまでエネルギーを使うとなればどこから補給しているのか気になる。
人を範囲外から移動させるなど膨大なエネルギーが必要だ。
周りを見ると特にこれといった奇妙なものはなく、曲がっているわけでもない。
外からみたらぐにゃぐにゃだったのだが、なにが起きたのかは中を見ていかなくては。
どうせこの感じでは外には出られないかも。
ローは付いてきてないだろうなと気配を探ったが上手く機能しない。
ここはデジタルなやり方でするしかないかな。
リィンはどこに居るのだろうか。
ルコルッタに近いところに向かった筈だ。
地図は少ししか見えないが会場へ。
とことこと普通に歩き出し、右に曲がるとオークションが開催されていた部屋への扉が大きく開いたまま。
そこからなにかを叩くような音が聞こえこっそり顔だけ中をみるだけにとどませると、リィンが椅子を振りかぶり一心不乱にルコルッタへ殴り付けていた。
ルコルッタには障壁が貼られていてびくともしない。
ああ、この異物がここへ来させた理由がわかった気がする。

――ガンガンガンガン

怖い、ホラーだ。
異物も怯えているのかね。
この状態で声をかけて襲ってこないのか。
取り合えず声をかけないと始まらないのでリィンさん、と言う。

「誰だ!?」

お前誰だよと言いたくなる血走った様子で振り返ってくる。
荒い息を吐きつつこちらを見ると切り替わるように「なんだ、君か」と興味をなくした態度になる。
何故ここにと問われ、さぁと惚けておく。
助けを求められたみたいでと言ったらそれこそ消されるだろう。
消されるつもりはないけど。
ルコルッタに近付くと障壁がふわふわと光る。
そして、シャッとルコルッタ自らリーシャの胸に飛び込んできた。
こちらもおっかなびっくりな展開だ。
リィンもなっ、と悲鳴を上げた。
やはり、か。
陳腐だと思っていた自身の推理がありえるのだ。
リィンがこちらへ寄ってくるのを止める。

「どうしたんだい?」

リィンは今にも取りたいと顔が述べている。

「リィンさん。貴方ルコルッタを見るのは二度目ですね」

「え、ああ。それがなにか?それより、ルコルッタを」

「異物は手にした人に権利が移るので渡せません」

「なにを言うんだ!?おれが見つけたのに!」

いきなり声をあらげる男。
やっぱり、ルコルッタに魅了されていたらしい。

「貴方は私と初めて会ったとき、同僚の男性に声をかけられた私にすまないと謝りましたが、彼はここは危ないので近寄らない方が良いと忠告してくれただけでした。それをさも失礼なことを言ってしまっているように謝罪した。そして、私達が異物関連の関係者と知るや、貴方は唾をつけてきた」

激怒する男などお構いなしに続ける。

「ルコルッタ欲しさに障壁への侵入を一番に名乗り出ました。浅はかなことを」

「いきなりなにを言い出すんだい?それに、君はこの国の言葉を知らなかったんじゃないのかな?」

「全ては知らないと思いますよ?貴方は欲しくて欲しくて今まで椅子を振り上げルコルッタを取ろうとした。けれど、ルコルッタはどうやら貴方だけには所有されたくないらしい」

くすり、と笑えば男は所有されたくないと言った言葉に触発され、こちらへ殴りかかってきた。

「黙って聞いてれば!このガキが!」

男の拳をヒラリと避けて、男の背中の魔術紙に向けて手を組む。

「異物にそのような感情を向けるなど許せません。破ッ」

唱えた途端男から焦げた臭いがした。
体全てに電流を流した。
実は男がこの中へ入る前に貼っておいた。
気づかないなんて余程ルコルッタを手に入れたかったみたいだ。
手の中にあるルコルッタをみて、目を閉じた。

「騒がれるなど災難でしたね」

そして、障壁がなくなって直ぐに警察とハンター達が中へ押し寄せてきた。
ルコルッタを探しに血眼。
刑事やローや案内人達に聞かれたが、どこかへ消えてしまったと伝えた。
何度も聞かれたが言うことは同じだ。
リィンは暴行罪と異物に魅了された狂人として捕まった。
プスプスに焼けた男をみてローが良くわかったなと首を傾げていた。
そして、ローに追うなと言ったことが聞こえたことについて軽く説教された。

「すみませんでした。謝罪がわりに抱きついてあげます」

と、腰に手を回して五秒ほどローを包容した。
見事に目を開いて驚愕に固まる男を尻目にリィンがリーシャに顔を向けてあの女が持っていると妄言を吐き出し同じ同僚に白い目で見られていた。
信じられないと言うのなら身体検査をどうぞと言った。
その場で受けて持ってないこと証明されている。
かちこちになった男に行きますよと言うと、彼はぐちぐちとなにかを言いながら睨み付けては舌打ちする。

外へ出ると朝日が出ていた。
異物の異界化の影響で時間の進みが可笑しくなっていたみたいだ。
リィンの強行による建物を歪ませた余波だ。
夜だったのにもう太陽。
目に染みる。
ローには事件解決に船へ乗せろと頼み、はぐのこともあり、速やかに用意された。
深海は人の及ばぬ場所。
だからこそロマンがある。
船の外側の甲板を登り、ポケットからルコルッタを取り出した。
リィンが言っていたことは正解だった。
けれど、それは不正解だ。
だってもう、なくなるのだから。
投げてぽちゃんと音がし、緩く顔を上げた。

「エネルギーを秘めているのなら物質量も変えられる。論に間違いはなかったようですね」

ルコルッタは一見小石に見えたことだろう。
これからは誰にも見つけられない海の深いところで眠るのか。

「全く、世の中は無粋な人ばかりです」

「おい、もうすぐランチの時間だ」

甲板にまで来てくれたローの声が聞こえて、今行きますと踵を返した。


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