香牙 | ナノ
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異物単体が勝手に動くという事例は今のところないと思う。
それこそ、掘り出さなきゃ良いのだ。
それが出来ないから呆れるしかない。
この自称前世持ちは痛々しく当時の実験とやらを語っているが、どうにもいまいち胡散臭い。
己を純然たる被害者と言っているのがなんとも。
そんなにトラウマを植え付けられたのなら、引きこもるのが正常な反応なのではないのだろうか。
目立つように投稿したらそれこそ眉唾物扱いされて世間から弾かれるような。

思考の渦に身を任せているとスマホが震えてメールの着信を知らせる。
噂をすれば、ローからの返信だ。
こちらも準備を終えているのでいつでも渡航可能らしい。
渡航するのね。
海もみたいなと物欲が湧いた。
海も見れるのかとメールを送れば見れると帰って来た。
それは、楽しみが増えた。
スマホを持ちながらマイアの静止画をちらりと見て、言う必要はあるのだろうかと思案。
ローのあの言動をドフラミンゴは知っているか。
知っていそうだなと結論。
しなくてもすでに調査済みだろうなとごちる。
彼の所属している組織は資金も豊富そう。
一般人の己を監視する人を雇うくらいの余裕差を持ち合わせてるし。
勿論完全な皮肉だ。
動画を更に見ていると異物関連で美しき異物のルコルッタを見に行く予定だという人が居て、もう異界になっているので実物は見れんぞと矛盾をはらむ行動に高評化しているユーザーも居る。
騒ぎたいだけかな。
わいわいとやって人気取り目当てかと当たりをつけた。
そういうのはわざわざいく必要はないし、巻き込まれるって普通に。
痛い目を見るのは分かるんだろうに、そこまでして認知されたいのか。
疑問が首をもたげた。
そこまでして得た時は良いが、怪異に巻き込まれたりしても後悔はないのかと。
いや、そこはネタとして美味しいからと消化する人も居るだろうが、現実のものに直面したらそれこそ、トラウマとなって一生の心の傷になる。
それをどうも理解出来てないようだ。
もしルコルッタを捜査しに行くときはかち合いたくないなとしかめた。
画面を操作して他の動画を検索。
ひといきついて、飲み物を口にした。

リーシャが空港に降り立つと先導していた長身の男がこちらを向く。
飛行機という利器について、深く感動をしていた。
まだ乗っていたいよ。

「ここから車で行くぞ」

「掘り起こした現場ではなく、オークション会場なのでしたね」

「ああ。一般人は既に出入り出来ない」

「でしたら、一般人は外から眺めていることしか出来ないってことですか」

「事件現場だしな」

「ハンターは入ってきてますよね」

「ああいう手合いは同じようにルートがあんだよ」

「普通に窃盗ですよね?なぜ逮捕されないのか」

「警察側が見逃しているのもあるが、異物の研究をしているのがハンター協会で、異物の検査結果を出しているから言いにくいんだよ」

「ああ、餅は餅屋ですか」

「警察の部署も数が少ないし予算も貧弱。パワーバランスは向こうが先手を取ってる。このままじゃ部署は予算カットの煽りを受けて、状況は固定したままだろ」

非日常をぶんどられてるから民間人の周知も存分に行えないのかもしれない。
大人の事情であの学校の異界化が起きてしまったのなら、理不尽で実に生々しい現場。
納得できるような、お金を支払っている身としては納得出来ないような。
これが不条理というものか。

「トラファルガーさんはどうしてその職業をしようと思ったんですか?命の危険もあるでしょう」

「こういう方法でしか身を守れないからだ。あと、ドフィの後任として一応受けてるのもある。お前こそどうなんだ」

「それは勿論、異物はどれも未知のものです。私としては手元において保護するのを目的としています」

「保護か。おれも保護してる」

「異物というのは生きてるんですよ。保護してるのなら、さぞや夢みたいな気持ちで生活をしているのですね」

ローは生きているの発言に眉を下げて不可解なものを見る目でこちらを見た。
異物を扱っているのに今だその結論にたどり着いていないのは、いかにもな組織のあり方。
生きているから人の感情に反応する。
面白いくらい愚直な程。
きっとハンター協会もそこまでたどり着いてないのだろう。

「ところでハンター協会はどうやって異界化させずに異物を置いているのでしょう」

「特別な術式を用いていると聞いてる」

「便利ですが、民間にも設置されないんですね」

「費用がかさむんだろ」

リーシャも術式の中で異物を置いているが、人の世の中に置かれているから安心などないのではないか。

「ここだ」

ホテルへは先に荷物だけ置いて現場へ。
見事に異界となっている
円上に薄く幕を張られたもの。
異物によって起こる障壁は様々だが、ルコルッタは虹色のシャボン玉みたいにゆらゆらしていた。
外ではふくよかな男性が怒鳴り散らしている。
聞いているとルコルッタを競り落とした人みたい。
異界化した時点でそれを得た人に所有権が移るからこの人に渡ることはないのだろう。

「どうやって入るんですか」

「いつもの方法だが、メインの奴が試したがどうも入れなかったらしい」

「成る程」

「お前の意見を貰おうと連れてきた」

「では、言わせていただきますと。所有者が気に入らないだけだという考察はどうですか?」

「……本気か?」

「はい。何故なら競り落とされている最中ではなく、競り落とした後に起こっているのでそうなのかなと」

美しい異物。
そうなるまでに色々な手に渡った筈。
まぁ、異物なので人間と違う美意識もあるのだと思う。

「怒っているから入れないのか」

予想外だなと目を閉じる男。

「所有権を手放せればよいでしょうね。どうせもう失効しているのですから」

気に入らないのなら、気に入る人に貰われたら納得するんじゃないかな。
ローは鬱陶しそうに怒鳴り散らす男を見る。
今中に居る人はおらず、中に入ることは出来てないらしい。
ほら、やっぱり。
出ていって欲しかったんだな。

「くそが」

「煩いのなら黙らせれば良いですよ」

「お前のその思考はなんなんだ。異物に対してだけ可笑しいだろ」

「競り落とすだとの弄んだんです。開催者の責任ですよ」

「それもそうだが」

開催者、即ち発掘した人はどこに居るのだろう。
ローに聞けば警察にて事情聴取を受けているとか。

「警察も忠告してやめるように言っていたそうだ」

「人の欲望は無限大ですね」

それでもやめなかったのだから責任を取ってもらいたい。
そしてルコルッタを囲むように屯している人達もいる。


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