香牙 | ナノ
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結局特になにもなく寄ったのが分かる態度。
彼はルコルッタの異物に反応した。

「最近話題になってる美しすぎる異物か」

「いかにも金持ちの手に渡りそうですね」

「お前、時々僻むよな」

「当たり前です。道楽として扱われる異物を思えば破産させてやりたくなるんです」

「こええよだから」

ローはやれやれと言った風に告げて、美しすぎることで一躍脚光を浴びてしまった異物を想う。
人の感情が触れやすいところにあると異物が反応してしまうのだが、発掘した人が安易に刺激してないことを祈る。
記事を読むと発掘する人に関して書かれている。
はぁあ、この人オークションに出す人という経歴を持ってるから望みは薄そうだ。
ただの金銀財宝でなく、異物ということに細心の注意を払ってくれるとは思えない。
よって、この美しすぎるルコルッタがなにかしらの異変を生じさせる可能性がある。
ローは楽しそうにこれが暴走したら一緒に海外へ遊びにいこうかと誘ってきた。
行くことにはなるかもしれないが、事件に巻き込まれには行かないぞ。
なにいってんだこいつと思いながら資料を閉じた。


魔法少女殺人事件について思い出した時、それは交差点のバーガー屋で並んでいる時だった。
前に並ぶ中学生達がその話題で盛り上がっていたから。
無神経だと魔法少女の家族は怒るかもしれないが、その家族が目の前に居るわけではないので、その話を普通に出せる。
などと代弁者っぽく言ってみたが深い意味はない。
中学生達は魔法少女は誰だったのか知りたがり、コスプレのままで亡くなった彼女のなぞについて、興奮していた。
彼女はどうやって変身したのか、どうやって異常な身体能力を見つけたのか。
リーシャの推測では変身か身体能力のどちらかに異物が絡んでいると見ているが、単にやらせの可能性もあるので断言も出来ない。
バーガーを注文して食べていると二つ道路を挟んだ先から大きな音が聞こえた。
何事かと見ているとマントを翻す男が見えた。
どうやら車の上に乗ってへこませたらしい。
運転手が激怒している。

「降りろ変態!」

そりゃ怒るだろう。
車に乗られてへこまされたら誰だって。
しかし男は「黙れ愚民」と言う。
おいおい、やらかしておいて更に愚行を重ねているぞあのマント男。
マント男はまぁコスプレしていると言うか、妄想の世界から抜け出せなくなった大人にしか見えないけど。
どうして車を凹ませたのだろう。
わざわざ嫌がられることをしに行くなんて。
怒られるに来ているにしては随分と拙い犯行だ。
と、思っていると男がいきなり横転して車から離れた。
ついで、周りからキャー、という悲鳴。
聞いていると男が頭から血を流しているというではないか。
何故血を流すことになったのだろうか。
特に異変は感じず、車を傷付けられた男が報復したというわけでもなさそう。
そんな特設な能力を持つ人に見えなかったし。
目にうつらない攻撃をしたのか、病気を患っていそうでもなかった。
やけになってしまったのかもね。
冷静に分析していると数分して警察が駆けつけた。
そこまで見終わると後はテレビでも見て知ろうとバーガーを持ち帰った。
家に帰ると玄関前にローが居て、腕を組んでいた。
モデルのような出で立ちで、恥ずかしくないかな。
本人に言うと睨まれるので言わないけど。

「事件を目撃したんだって」

「一体どこの情報なんですかそれ。探偵とか雇っているんですか。たち悪くて貴方との関係を見直します」

「報道ニュースにお前が写ってた」

「嘘ですよね」

報道ニュースって、そんなのに都合良く一般人は映りこまんぞ。
と、じとりと睨めば彼は笑って独自の情報ルートを持っているから筒抜けだと言う。
それ、説明になってない。

「巻き込まれずに済んだんだな」

「ただの事件ですし」

「目撃しただけでも遭遇率はあるだろ」

言われてみれば歩いたら事件には当たるなとその考察に納得。

「ところでなにようですか」

「様子を見に来た」

「お忙しい貴方なのに、そこに時間は割かなくとも良いのでは」

本気で思ってる。
ドフラミンゴの部下であり、仕事を請け負い、本当に忙しいだろうに。

「良いだろ。それと中に入れろ」

「良いですけど」

はぐらかされて、府に落ちんが渋々部屋に通す。
この人は部屋に来るが寝泊まりはしない。
女のへやだからと気を使っているのかも。
紳士なのに強引。
矛盾してるな。
と、テレビをつければ男が今は病院に運ばれているというニュースが流れていた。
やはり血を流したという言葉は真実だったらしい。

「マイア様」

今聞こえた言葉に耳を疑い、後ろを向く。
ローがいつのまにか寝ていた。
いや、寝ていると思っていたが、うっすら目を開けた。

「マイア様、探さねば」

普段と口調も目も心なしか濁っている。
寝ぼけているのかふわふわした足取りで歩き出す。
夢遊病なのかと好奇心に話しかけた。

「トラファルガー・ローさん」

本人に呼び掛けてみるが、反応がない。
歩き出し、外へ行こうとしているのを見てこれは止めた方が良いなと判断。
押さえつけとうと止めるが、相手はこちらを認識した途端、豹変。

「私達の奴隷が、私とマイア様を引き裂くか!?退け!」

一人称まで変化している、ふむ、面白い。
こちらに掴みかかってくるのを見越して寸でで避けた。

「が!」

無様に転けた男は普段のローとは思えんくらい運動音痴。
身体能力まで変わるものなんだな。
そして、ローが睨み付けてきたので頭を押さえつけて呪文を唱え、乱暴にグッと首もとを引き、舌に刻んだ魔方陣を流し込む。
そうだ、口移し、または口づけと呼ぶものをした。
これは人助けである。
そこに下心はない。

「ぐ!?は、はな」

話せと言いたいが口を塞がれているので最後まで言えない。
目に光を取り戻していくのを観察、唇を離す。
もうしておく必要がないだろう。
乱暴性も消えた男は唖然としていた。

「こんな助け方されたのは始めてだ」

穏やかな口調になった。
戻ったのかな。
それとも、あっちが本物なのか。

「正気に戻りました?」

「ああ。戻った」

結構荒行だったけど効いたようで良かった。

「助かった」

ローは気まずげな顔でもそもそと言う。

「マイア様とか、奴隷とか気になる単語はありますが、特に重要ではなさそうに見えるので私は詮索しません」

「あ、ああ」

いまだ呆然としている男を無視してキッチンで水を汲み、飲む。
こっちも喉が乾いてしまう。
咄嗟に舌に魔方陣を乗せたのは成功だったな。

「お前は大丈夫なのか」

なにについて聞いてきているのか察して眼鏡を上げる。

「ええ。ごちそうさまでした」

笑うでもなく淡々と恥ずかしげもなく放たれた言葉にローはまた目を大きく開いた。
敗北感を抱いた男はごくりと喉を鳴らす。

「ごちそうさまでしたって、お前は」

「トラファルガーさん、貴方は良い大人なのですからチューの一つや二つで取り乱さない方がスマートなのでは?そこはやはりキスなんて役得だったぜ、と振る舞ってみては」

「いや出来るかっ!」

リーシャのいくらなんでもな明け透けさに普段はこんなことを気にしないローでも動揺して反射的に返した。
男は助けられた女にそんな色気があれば定期的に家に入ってこんなにも男として見られはしないよな、と内心気落ち。
そんな心情を知らずの女の方は水で喉を潤して、ぺろりと唇を舐めた。
ふむ、初めてだったけれど、ある意味貴重な体験を二つも出来たので一石二鳥。
人命救助などというのも初めてなので、ここら辺で済ませておけたのは良い経験となる。

(そうだ、ついでに彼に人工魔方陣を施す訓練の練習に協力してもらえないかな)

水の入ったコップをシンクの中に流し込む。
しかし、今は相手が動揺しているみたいなので落ち着いてから聞いてみよう。
怒られるかもしれないし。

「トラファルガーさん、少しソファーで休まれては。また再発したらさっきのしてあげられますよ」

「いや、もう起こらないから今日は帰る。世話になったな」

「どういたしまして。気をつけて下さいね。乗っ取られては事故りますから」

ローは静かに頷くと直ぐに帰る。
見送ると顔色が悪いことに気付き、自室で休みたいのだなと解釈。
家から離れて己のパソコンの椅子に座る。

「マイア……奴隷」

暗い声、深く沈む瞳。

「どうやら悪夢は死んでないらしい」

にやり、と勝手に口角が上がった。
そんなに苦しみたいのなら、お望み通り溶けるような炎の中に蹴落としてあげようかな。





テレビからオファーが来たが、全く興味がないので断った。
好きな感じも、異物をくれるというわけでもないので、出る意味もないなと一蹴。
出て今更なにをしてほしいんだろうか。
どうせ削りれるに決まってる。

「おい、聞いてるのか」

そうだった、ローが珈琲を飲みながらこちらを見ていた。
そういや居たな。
耳から入ってこなくて忘れてた。

「え、なんですか?」

「だから、ルコルッタが異界化したぞ」

「ああ、あー、やっぱりでしたか」

ローの情報ではオークション会場が異界化したらしい。
全く全く、異物化の警察か部署はなにをしているのだ。
新聞紙にも書いてあったのに。
なにを考えているのか、暴走させてしまうなど。


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