香牙 | ナノ
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先生、先生、と揺り起こされている振動を感じて瞼をゆるりと開ける。
目前に見える前髪をざっくりと切った編集担当の相手に、そういえば待機していたのだと思い出す。
今の今まで座ったまま夢を見ていたのだ。

「すみません、寝てしまいました」

「いえ、こちらこそお待たせしてしまい」

相手は己の他にも担当を持つので多忙な人なのだ。
相手は夢を見ていたのかと聞いてきたので学生時代の夢を見ていたと笑みを浮かべて報告。

「先生、昔の夢と言いますが、先生が卒業したのってまだ2年程ですよね」

編集者は苦笑して指摘してくる。
卒業式から既に2年も経過していたのかと今更ながら実感する。
あれから、異物柄みの事件は更に増え、異物と言う存在が注目を集めることになった。
今まで民間の人間は対策などを怠っていたものが、最近では対策を行いそれに関するものも関心が高まっていた。
今までマニアらが盛り上がっていたことが、もうマニア間ではなくなったのだ。
異物についての著書を月刊の冊子に乗せていたら、大きな会社に声をかけられ出版。
あれよあれよと売れた。
どこから話を聞いたのか、噂が噂を呼び異物についての注意喚起などが書かれた本は珍しかったのだ。
今では当然のように売られているけどね。
増えた理由は今並べたものだけではなく、やはり起こらないような公共施設などで異界化が発生するなどというものもあるのかも。
怖くなったのかもね、近くて。
元々近くにあったけど目に入らなかっただけであの慌てよう。
今更騒いでも遅すぎるけれど、本が売れるのなら別に良い。
2年も経ったのか。
今でもローとの縁は続いていて、異物があるところには大体居る。
この間なんて、男女のホニャララな宿泊施設で異界化してしまった時、居たのだ。
駆けつけて見れば無理矢理つれ回されて素っ裸な男達がついてこようとするのを蹴飛ばしていた。
確かにあれは近寄られなくないよ。
涙と汗と鼻水でとてもではないが見られたものではなかった。
蹴って近寄らせなかったのはローだけに限らなかっただろう。
異物ハンター達も入っていたが肝心の異物は既にローの手にあったので無駄うちになっていたから舌打ちしていた。
あれはあれでハンターの柄の悪さが伝わってきた。
2年で理解したことは別に悪い人もいれば特に悪くない人も居る。
そこはどの業界でも共通だ。
女の人の胸に目がいっていたから勉強になったっちゃ、なったかな。
それよりも蹴飛ばすことに疲れていたローは見ていて楽しかった。
そのことを思い出して、なんだかんだと結構異界化に巻き込まれてるなと溜め息をついた。
最近ではロー経由で異界異物ハンターらに《アーティファクトマニア》とリーシャは呼ばれているとか。
うん、間違ってないけど、どうしてハンター達に言われるのか分からない。
ということを言うと異界に行くほど好きだと思われているとか。
それ自分の意思で行ってませんから。
となりに居る男に無理矢理連れられていることをだーれも理解しようとしないのはなにかの病なのか。
どう見ても積極的に進んでない。
著書を出してからは印税で食べていけているが、贅沢をしなければが多いに付く。
マスコミも良く本を基本に報道するので情報料も入る。
まさか、こんなに注目されるなど前は思ってもなかった。
感慨深く思考をぐるぐるさせていると編集者は思い出したとばかりに話しかけてくる。
なんでも、今巷で大人気の正義のヒーローが居るらしい。
異物なんてものがあるのだからなんでもありだ。
リーシャは空笑いを浮かべて編集者の内容を整理する。
ヒーローは魔法少女だとか。
本当にアニメの世界だ。
魔法少女は悪人を見つけると直ぐ様退治してしまうらしい。
それは悪人の言い分を聞いているのか疑問なやり方では。
最近ドラマにはまってテレビを見ていなかったから知らなかったな。
段々熱が入り出した編集者は魔法少女は不思議な能力を使うらしい。
それは異物ではないかと異物関連の界隈がざわついているらしい。
リーシャの勘では関係ない。
勘なので当てずっぽう。
ローが反応しないのも判定の一つ。
彼は今海外に行っているのでこの国に不在だ。
お土産を買ってきてくれるので心待にしている。
異国のお菓子を早く食べたいものだ。
そしてついでに異物も欲しい。
2年で得られた異物は僅か、なんともトホホな物入り具合。
ヒートアップしていく相手の話しにうなずきを返す仕事をし終わりテレビを見ると魔法少女特集をしていた。
衣装はヒラヒラでなく正統派な感じで騎士っぽい。
そこまでして目立ちたいみたい。
大体カメラに撮られているということは狙ってるのかな。
容認されたいといき過ぎてスマホだけでは収まりがつかなくなったとかか。
ぽりぽりと豆を食べつつ特集を見ていると緊急ニュースがちかちかと見えた。
字幕には魔法少女死亡との文字。
魔法少女ってまだ若かった筈だが。
自宅でなくなっているのが見つかったらしい。
翌日、更なるニュースが。
何故魔法少女とわかったのかと思えば、コスプレ姿で死亡してたらしい。
それは嫌な見つかり方だな。
リーシャならそんな姿で見つかれば泣けるぞ。
そして、知人などに知られる上で葬式するのだから泣いて良いさ。
そうして葬式をされてしまう魔法少女にリアルでやられるんだから不憫を抱く。
テレビを見ながら豆を再び口をつける。
可哀想だ、と思っていた所にインターホンが鳴り響く。
誰だろうと出れば仕事着を来た男らしさを更にアップさせた男が居た。

「どうも、如何しましたかトラファルガーさん」

というわけで当宅に来た男。
ローはにんまりとした顔をして如何にも不幸を担いできたと宣言しているようなものだ。
首を傾げて男を見る。

「まァ待て。ステルワのロールケーキを手土産に来た」

追い返させると空気で察したのだろう相手にうらんげに見やる。
ロールケーキとはなんたる陰謀。
とてもではないが歓迎しにくいってもんだ。

「ロールケーキを手土産に私になにをさせようと?いかにトラファルガーさんでも敷居を跨がせる訳にはいきませんね」

「何度も跨いでるだろ。今更なことを」

卒業してからたまに部屋に通す。
それは仕事に関連したことなどを土産に話して過ごすというだけで特別なことはなにもない。
いつものように彼は手土産を渡してきてそれを冷蔵庫に入れると、テーブルに勝手に着く。
かと思えば勝手に新聞紙を持ち上げて読み始める。
用事があるから来たのだろうに、さっさと用件を言って欲しいのだが。

「なにか私にご依頼ですか」

「いや、特にないな」

ないんかい。
たまに本当に来ただけというときがあるので、どっちか判断し難い。
新聞紙を読み出すと無言になるのでリーシャは途中だった作業をする。
異物に関しての資料を読んでいるところだったのだ。
ルコルッタという砂漠の下から発掘されたというニュースを見て、気になったので調べている。
資料をぺらりと捲れば新聞紙を読んだのかローが覗きこんできた。


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