香牙 | ナノ
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テレビを消して異物関連の本を飲み物片手に読み耽る。
異物は恐ろしいというイメージがついている昨今、そうではないと知っているこちらからすれば歯痒い。

「結局なんの異物だったんだろう」

女が飲み込んだものはかなり強い異物のはず、とは言えず、人間と組み合わせることにより威力が格段に増幅する。
異物が弱くとも起きてしまう。

「睡蓮と琥珀を組み合わせたら雪系統はあるけど、氷にはならない。翡翠は植物だし」

うーん、と悩みながらページを捲り一時を過ごした。





季節は春。
卒業式である。
異物柄みの事件に巻き込まれるという体験をしてしまって、落ち着いてきた今日。
やっと普通の学校の雰囲気に戻りつつある。
カウンセラーなんて人が来たけれど、普通ではないことなので早々に癒えるわけもなく。
学校に来なくなった生徒は何人か居たが、それでも特にこれといったことはなかった。
桜が植えられている校庭を通り校門へ近付くと黒塗りの車が見えた。
誰か金持ちの人の迎えかなと思っていると傍で車に持たれている男に首を傾げた。

「よォ」

「トラファルガーさん。珍しいですね」

「とはいっても骨董屋であってるだろ」

「仕事着ではないということはプライベートですか?」

「ああ、私用だ」

モダンは服装に身を包む男はそこら辺に居る青年である。
黒塗りを除いて。

「どなたかの卒業式ですか」

「お前だ、お前」

そう述べると一本のカーネーションを渡された。

「ありがとうございます。なぜもらえたのかは良く分かりませんが」

「フフ、卒業祝いに来てやったんだ。乗れ」

ぱかりと高級車を開けて乗るように足される。
今ここでごねて目立つのも悪手だと感じ、瞬時に車へ滑り込む。
今日はいつになく素直な女子にローは目を丸める。
その機会を逃さないと逃げられてしまうかもしれないので直ぐに車のハンドル側へ乗ってエンジンを吹かせた。
ミラー越しに見てみると学校を見つめている。
今日以降来ることのない校舎を見ているのだと察し、発進させるのを止める。
暫く声をかけられるまで待つとこちらを向くリーシャはくすっと笑い「もう良いですよ」と柔らかく伝えてきた。
初めて見た笑顔に口許を絞める。
意外な反応にむず痒くなるので無言で車を進ませた。
敏いと知っていたのでこちらの気を使った行動も見透かしているのだ。
車を進ませているが特に会話もなく静かに時間が過ぎていく。
女というものは煩わしいというのがローの人生における結果だ。
しかし、彼女は年齢に対してさわぐこともせず竹のように落ち着き払っている。

「以前、異界化した学内で遭遇した新人ハンター達はどうしたんですか?」

「あいつらか?」

「誰か回収したのですよね」

「ああ。ハンター協会の奴等がしきりに顔を歪めて連れてった」

「規則を破ったみたいですから先方も先走った彼らにはおかんむりでしょう。しかも、相反する、商売敵が目の前に居たわけですし」

「商売敵ではあるが、向こうは協会っつうプライドを掲げてるから余計に嫌なんだろ」

「私は雑誌で読んだだけなので詳しく知らないですけど、ハンターとは学生でもなれるものなんですね」

「特にこれといった資格はないが、見習いなら正式なハンターを同伴させて異界を歩けるらしいぞ。お前も興味があるのか」

まぁ、普通なら全うな組織っぽい方を選ぶだろう。

「冗談にしてはいけませんね。異物を売るなどという本末転倒な職には就く予定なんてないですよ。囲い混んだら二度と手放さないです」

「だろうな。ハンターは異物で飯を食ってる」

「トラファルガーさんはそれで給料をもらってなかったんですね。てっきり売り払ってるのかと。でも、ドフラミンゴさんは資産家みたいだから売らなくとも生きていけますよね。異物で老後を楽しんでるなんて最高ですね」

「お前……この車に盗聴機器がなくて、おれに感謝しろよ」

「なにがです?」

「いや、天然かよ。こえェぞ」

車が止まると隠れ家のようにひっそり建つ物件。
持ち家の一つみたいだ。

「卒業した途端に積極的ですねー」

「バカ。この家で飯を食うだけだ」

「食べるだけで済まないとはドラマで見たことあるんですけど」

「ほら、出ろ」

もう冗談に付き合ってくれなくなる。
ふむ、つまらんぞ。
車から降りると玄関へ。
木々もあり、自然があって、第二の家という感じが出てる。
ローが中へ先に入り冷蔵庫へ向かう。
なにをしているのかと見ていれば、ジュースを取り出して、その配慮に内心優しいなと緩い視線を放つ。
ワイングラスはローだけで、こっちだけは普通のグラスだ。
テーブルには既に用意されていたので、残りは飲み物だけだったみたい。
思っても見なかったサプライズ。
料理は家庭料理でフルコースとかでもなく、それにも驚いた。
高級思考なのかと思っていたが、学生であることが考慮されたかな。
テーブルに着くとお互い顔を合わせ、彼から卒業祝いだと言われ、料理を口にする。

「美味しいですね」

咀嚼して味わう。
味わっているとローが作ったものがあるからなと得意気に言われる。
その得意顔、結構可愛い。
温い眼で見ていると彼はなに見てるんだと少し尖った声音。
うん、今この場で言われても畏怖すら感じないな。
ローは女を相手にしていると年上を相手にしているような錯覚に捕らわれてしまう。
しかし、それをなんとかかわして二人の時間を過ごす。
食べ終えた後はテレビの前にあるソファーでくつろぐ。
このテレビ、80インチあるんじゃないか。
大きいテレビに興奮して前で見たくなる。

「そんなに興奮するとはな」

年上に見えたかと思えばこどもっぽい面もあるんだなとローはクスッと笑う。

「トラファルガーさんは慣れているので平気なのでしょうけど、私にとっては感動するものなのです。贅沢ボンボン生活が羨ましいです」

「贅沢する代わりにそれなりのことしてるんだぞ」

彼はやれやれと説明するが興味がなさすぎて耳から流れた。
それを見ていたローは説明するのをやめて他の作業を始めた。
仕事をしながら今日準備してくれたのをリーシャは思い出す。
そういやそうだったなとテレビから目を離してローの傍へ近寄る。
そのことに気付いたローは顔を横に向ける。
いつになく近い距離、二人は互いに目が合う。

「本日は忙しい中、有難うございました」

ぺこりと丁寧を心がけて彼へあたまを下げる。
それを見た男は少し言葉を失う。
こんなに丁寧に心がかいま見える言葉をかけられるのは久しぶりだったのだ。
そうとは知らず、頭を上げた女は笑って示す。

「今日という日はきっと私の中でベスト10の中に入るでしょう」

「普通そこで1位って言わないのか」

男はフフ、と思わず溢す。
ローは自然に出た笑みに内心驚く。
しかし、悟られないようにして彼女の発言に乗る。
リーシャもローの軽い返しにこういうのもいけるのだなと脳内メモをした。
なんせ、出会って日が浅い。
それなのに事件でつれ回される等という因縁が生まれてしまったのは、なにか企んでいるのではと思わずにはいられない。
今のところ、見えてこないことがあるので放置することにしていた。
ドフラミンゴ共々現場を引っ掻き回すのがお好きなようなので。
関わり合いたくないというのが本音。
しかし、こうしてしてくれているのを見るとついつい、ついていってしまう。
なんというか、やはり可愛いげを感じているということなのだ。
ローが座っているのを見ていると仕事に打ち込む姿も様になってる。
かっこいいということは認めよう。
彼は話し終えるとすぐに向きを戻して仕事をする顔になる。
邪魔しないように静かにテレビを見る。
大きなテレビ、映画が見たくなるな。
男は普通に仕事を持ち込むのでこちらを構うつもりもないよう。
それならそれで、好きにさせてもらおうとなにか見るものはないだろうかとDVDを探す。
見つけたのは海賊もののアニメ。
興味深いのでセットして流す。
ふむふむ、お宝を求めて仲間と冒険をするという内容。
何話も続くものらしく、結構見ごたえもある。
見ているうちにうとうとしてきた。
卒業式というイベントに疲れが出たせい。
気づけば深い眠りに頭をもたげていた。
それを見つけたローは取り敢えず薄い布をかけておいた。
起きたときには既に朝になっていて、ソファーでね落ちしたことに気付く。
アニメの途中で寝てしまったのだなと寝癖を触りながら朝食はどうしようかと悩む。
そうして過ごしていると玄関先で音がして袋を引っ提げたメガネ姿でラフなローが立っていた。

「起きたのか。朝御飯買ってきたから食え」

「すみません」

寝てしまったのもあるし、この家から身動きが取れなくなってしまっただろうに。
それを感じさせない空気は流石出来る男は違った。
受けとると彼は眼鏡をかけたままテレビのある居間へ向かう。
そして、朝食を食べたリーシャはアニメを名残惜しく感じながらも彼に家まで送られた。
そんなに填まったのかと言われたが、そもそも何故あんなにアニメが置いてあるのかが謎。
ローは特に思い入れを感じてなさそうだし。
一体誰が見ていたというのだろう。
疑問をぶつけると彼はおれの知人が置いていったものだから、おれの物ではないと言う。
ローの持つ別荘に置いていくなど、知人ではなく恋人か愛人ではないのかね。
疑わしい視線を向けつつ、ローに車の送迎に感謝を告げる。
恋人が居るのならこんなことはしまい。
ということは愛人が濃厚か。
って、そういうタイプでもなさそうな気がするけど。
リーシャとの語らいを楽しんでいたし。
ローと別れて猫のエサを早急に用意した。
用意するのが遅いと前足で殴られた。
ごめんごめんと謝りながら慣れた家でほっこりとする。
そうだ、今日から学校へ行かなくても良いのだ。
寂しいような嬉しいような、複雑な気持ちになった。
親しい友人はいなかったが、それなりに有意義な人生であった。
ねこを撫で撫でしながら太陽の眩しさに目を細める。
そして、お腹も満たされているまま昼寝を決行した。


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