香牙 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


事件があった翌日からは流石に休校となった。
自宅待機でカメラマンが地域を歩いているので言われずとも隠密のように行動するのは当然。
制服を来てなくとも地元民というだけで取材されるのだから、自宅待機させても意味はないといつの時代に気付くのか。
白い息を吐きつつ、スーパーへ行く。
ここは事件が起こる前も後も変わらないなと良さを感じる。
話し込む主婦達に中年夫婦、子供連れ、子供。
どこのスーパーにもある光景。
のほほんとした空気に落ち着くなと思い、カートを押す。
羅列された表品を吟味。
お、割り引き20円。
すかさず他の割り引きされたものと見比べる。
豚カツだから日持ち的に値引きされやすいのだ。
牛肉も夜なら安くなってるんだけどね。
お菓子や牛乳をかごにいれていく。
スーパーのレジに並んでカードを財布から取り出しながら待つ。

――ドン

背中にかすった衝撃を受けて後ろを見ると子供が通りすぎる。
走っていたらしい。
当たった腰を擦るとレジが回ってきた。
お金を払い終えてスーパーから出ると肌寒さが襲う。
雪が降りそうなのに降らない。
上を見上げるとどんよりとした曇りだ。
異界事件があっても町はなにも変わらない。
騒ぐ新聞の記事を書く人達が殊更浮いている。
スーパーの傍にもそれらしき人が歩いているのを眺めながら、遠回りして帰る。
今回は被害者は大勢いるが加害者の情報は全く出てこない。
特殊な事件を担当する人達が止めているのかもしれないな。

「今日は鍋かな」

なに味にしようかと楽しみが膨らみ、口元も緩まる。
味噌、カレー。
様々なものが浮かんで、どれも食べたいとお腹が求める。
カサカサと五円のビニール袋を揺らして食べ物の時間を楽しむ。
ズボンは暖かくて、服を包む服も暖かい。
冷たいのは顔だ。
耳も冷たいけど、冷たすぎて感覚も麻痺している。
家に着くと服の埃を払い屋内に進む。
ただいまと小さく呟けば帰ってくる声はない。

「にゃあ」

声はないけど鳴き声は帰って来た。

「ムー、外は寒かったよ」

真っ黒な美人猫がすりすりとすり寄ってくる。
ビニール袋を下ろせば中を執拗にくんくんとするので笑って手を洗いに行く。
匂いを嗅ぎ終わった猫はちょこんと座って待っていた。
それを横目に野菜を取り出して水洗いしてまな板の上で雑切り。
グツグツと煮える鍋に投入して牛乳カレー鍋にした。
煮込まれていく鍋を待つ間、あってない量の宿題を済ませる。
慌てすぎて課題を出す暇もなかった先生達の言葉は自主だった。
そんなの誰もしないだろとはクラスメイトの言葉だ。
そりゃしないよね。
事件に巻き込まれた彼らは今や有名人なんだから、誰かになにかを言いたくてうずうずしている。
言っても言わなくても人生になにも起こらないけれど、隕石が降ってきたことを言うのと同じ感覚なのかも。
誰かと共有してこの不安を取り除きたい。
今までテレビで放送された数々の事件の真ん中を体験してしまい、リアル感じてしまう。
その焦りはいかがなものか。
カウンターが手に終える範囲に落ち着くのは何年後なのかなと意味のないことを思う。
リーシャはそういう異物絡みの怖さを研究しているので他の人よりは冷静に受け入れられた。
数人、救急車に運ばれた。
学校が再開したらきっと病院で検査を受けることになるだろう。



***

error side


ドン、と壁に足がつかれてそれを目前で体験した男は悲鳴を大きく上げた。
男はとある大手の新聞社の幹部。
今まで数ある脅しを受けども怯むことなく記事をあげてきた。
足をあげて男を潰そうと圧をかけているのは裏も表も強大な組織として君臨する男。
ピンクのもこもこのファーが凶悪さを後押ししている。
男はそんな大物に脅されるようなことをした覚えがないので何故なんだと恐怖を味わっていいた。

「この記事、載せるのはやめてもらいたいねェ」

ゆらゆらと見せられるのは下書き段階のものだ。
そこには一人の女と異物についてのものが、ある。

「わ、私は卑劣な実験をしていたものたちの悪行を……!」

言い終える前に男の腹に鳥の足げりがめり込む。
あまりの痛さに立てなくなるまま床に転げる。

「晒されるのは一人の女の偏見にまみれた人生だ」

「が、がふ、がぁっ」

息を吐くためにうめき続ける。
女がこの記事により周りから手酷く扱われるのは長年の人生で理解しているが、新聞が売れることの方が重要なのだ。

「新聞が売れることについてはどうでも良い。おれが言いたいのはやめろと言ったんだから素直に頷けば良いんだよ雑魚が」

「ぐ、は」

ドフラミンゴが新聞の下書きを近くで見ていたローに渡せばローは、ここへ来る前に読ませられた下書きを再び見る。
そして、下書きに用いられた資料も臥せて眺める。
そこには【香牙】と単語が出てくる。
ナンバーと写真がファイルされており、虚ろな目をした女の写真。
ドフラミンゴが軽くこの記事が出回ると不都合だと言ったことを説明していたので、確かにこれは異物を扱う中で禁忌の情報だなと納得する。
ナンバー296、セステン・マイア。
この世を全て諦めた目はどの写真も同じだったが、成功例としてファイリングされているという意味では特別扱いだった。


prev next【17】