香牙 | ナノ
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異界化を引き起こした女はローが術を発動させるとキィキィと呻いて周囲に氷を発生させる。
こうやって命を削っていることすら自覚なく能力を発現させてるんだな。
誰が異物を彼女に渡したのか。
今更なことだが、疑問は尽きない。
呻き声に生徒達は悲鳴をあげる。
悲鳴をあげたらそこに居ると教えているようなものなのだが、敢えて襲われるフラグを踏むなんて豪胆であるな。
真似できん。
雪女は術式に囚われて狂ったように周囲に氷を発生させ、それが30分程続いたあと、ぱったりとなくなり、女は地面に倒れた。
命の炎が燃えたのだろうか。
流石に確かめる勇気はなく、倒れて直ぐに異界化に変化が現れ、青空が目に入る。
学校から出れなかった原因の結界が消えたのだ。
生徒達は待ちわびた光景に先生達の待機の台詞を無視して我先に外へ飛び出す。
結界のモヤモヤとした紫色で外のことが分からなかったが、周囲に警官やその先で構えているカメラマン達の姿が浮き彫り。
その先に今回の被害者達の家族も待機しているのだろう。
皆が校舎から居なくなるので校門では渋滞。
先生達が走るなと言うがお構いなしに走る。
それを見て、ゆっくり出ていこうと決めた。
あと、裏から出るぞ。

「私からお礼を申します。助けてくださり感謝してます」

「いい。お前よりもあいつらから謝礼を貰う」

目をやる方は生徒達だ。

「500円なら手持ちにありますよ」

「お前からむしり取る程金には困ってねェ」

フフ、と笑みを浮かべ喉を震わせる。
目は細くなり本当に楽しくて笑っているのだ。

「500円の代わりにランチ食いにいけ」

「もう夜近くなのでディナーになりますよ。ディナーってどの店も割高になるんですよね、知ってます?」

「知ってる。奢ってやる。大人の財布に任せろ」

「ワアステキ」

「すげー棒読み」

「お腹が空いてるので今回は特別に行きます」

「信頼ポイントでも増えたか」

毎回何度も断っているので受けたことに彼はとてつもなく驚く。
誘ったのは本人なのにね。
可笑しくて微かに笑う。
相手の意表を疲れた顔は案外見ごたえがあるなと発見出来てラッキー。
今までちょこちょこと軽い会話を楽しまれながらも異物の売買競争を出し抜かれてきたからスッキリ。

「嫌なら無理にとは言いません」

「そんなことおれに言ったのはお前だけだな」

今まで様々な色気たっぷりなお姉ちゃん達に誘われては言う人なんて居ないだろうね。
ローの女遍歴を適当に想像してから消す。

「なんならマスコミの前に躍り出て、おれはイケメン退魔士だと言っていきます?」

「なんだそりゃ、おれはそんな風に言わない」

「そもそもメディアに露出しないんですよね。テレビに出ていたのなら私も記憶には残るんで」

「したことはない。別のやつが担当してる」

え、退魔士が。
そんな肩書きの有名人なんていたっけな。

「鷹の目のミホークと名乗ってる。フリーの祓い屋だ」

「バラエティー見ないんですよね」

「深夜番組だから仕方ないことだ」

「ああ、心霊現象の番組枠なんですね……本物なのに」

異物や異界という現象が人に認知されてからは減っていて滅多に放送されなかったジャンルが人々に注目をされて再び脚光を集めることになったとは有名なお話。
そして、名前を知らなかったミホークという人はテレビに出ているのにテレビ向きの性格ではないとのこと。
全然話さないのに、みている人達からは指示を得ているらしい。
テンションが高くないことが良いみたいだ。
深夜は静かに見たいと要望があり、今のところ降板はないらしい。
しかも実力者なので番組のディレクターらが危険なことになったときに何度も助けられ、下手にテレビ向きだけど全く実力者じゃない人が戦うとなれば命がなくなるとローは語る。
彼はミホークは物理的に異物や異界のものを刈り取るので、ローも相手にはしたくないと薄く笑う。
そっちの世界で実力者ならば、テレビに出なくてもお金は稼げるような気がするが。

「聞いた話じゃ猛者を探して挑むらしいから、当たりやすいことをしているとの噂だ」

根本からのバトルジャンキーだったのか。
会わないことを祈る。

「生活圏は都会だから今のところ会うことはないが、大物が現れたら来そうだ」

会うこともあるのかもしれない、ないのかもしれない。
そもそも異界に取り込まれるのなんて人生で一度だけで良いさ。
何度も取り込まれるのは嫌だ。
今回はローが素早く対応したから良かったが、次は同じくスムーズにはいかんだろう。
捜査官達がローに近寄りいくつか話すと彼はこちらに再び来て、裏門から二人で出る。
報道陣は幸い、正面の方に集中していたので全くいなくてすんなり帰れた。

「あ、黒塗り」

裏門には用意されていたように車があった。
高級そうだからローのやつみたいと思っていると運転手が存在しない。
首を傾げていると助手席を開けられて乗るように言われる。
なんと、本人が手ずから運転するらしく両側が埋まる。

「運転手付きではなかったのですね」

「今回はな」

ハンドル操作する和装姿のローは五割増しかっこよかった。
こちらの傍目であっても評価が上がる。

「うわ、新鮮」

周りには車を運転している人が居ないから、車内に乗るのも久々だ。
ちょっとだけそわそわする。

「ドフィに誘われた時に乗れば良かっただろ」

車ではしゃいでいるとそんな質問。
だから、乗りたいのと他人の車に乗るのとは別問題だってば。


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