女から無理矢理視線を外し、ロー先導で異物の元へと行く。
とは言っても女の人が人なので異物がどこにあるかといえば、近くにあるのだろう。
近付きたくないと思いつつも、異界化のエネルギーとして搾り取られるのはミイラになるのと同じ苦痛の筈だ。
怨念でその苦痛が麻痺していたとしても、異界化が終われば苦痛は痛みとなって襲う。
正気になれば、己の仕出かした罪により苦しむのは容易に分かる。
「何故、男を凍らせたのか推理してみたか」
ローが真剣な顔で話しかけてきた。
この場面、別に推理もんではないのだが。
「……嫉妬でしょうね」
「嫉妬か。シンプルだな」
「本当は凍らせるつもりなんてなかったんです。でないと、校庭という目立つ場所で犯行を行うなどリスクが高いです」
「いや、知らしめたかったというのはあるかもしれないぞ」
確かに、意欲が高い犯人ならあったかもしれない。
「被害者の男の子、チャラいっていうのは結構有名で、女の子が毎回違う子っていうのも有名でした」
「あの女はそういや随分地味な方だな。女遊びが激しい男が選ぶにしてはタイプが極端だ」
「もしかしたら、お遊びで付き合って、女の子の方は本気だったんでしょうね」
「推理だしな。自由に考えられる」
「ええ。推理ですから。例え、本当でないとしても、犯行をしてしまったのなら後は本人達でしか乗り越えられないでしょう」
「同情してるのか?」
「同情してるのか、という質問が出る時点で可笑しいです。彼女も、彼も、全ての命は失われるとき、悲しみがくるのは人間の本能です。抗う意味も必要もないですから。同情ではなく、そこから発生したことを考え、己の命の意味を考える為に目をそらしてはいけないというだけです」
「お前年齢偽証してないよな」
「ふふ。前歯折ってあげましょうか?」
人が黄昏ているというのに茶々をいれるなよな。
ぎろりと睨めば彼は悪いと一言。
なんだ、反省するんなら言うなと思う。
呆れながらも進む。
学校の外へ行くと先生達が屯していた。
どうやら女に近付かないようにしているらしい。
それと、生徒達が興味本意で近付かないようにと見張っているのだろう。
「え!?貴方は?」
突然和風装束で現れた男と制服姿の生徒が二人で並んでいれば誰だって驚く。
ローは無表情を貫きながら調査の為にと派遣された祓い屋だと告げる。
これはお仕事モードの顔なのかな。
「専門家ですか!?」
「あくまで今は調査だから退治はまだ無理だ」
「そ、そんなっ」
先生、プロが一人居て解決出来る事なんて1LDKの部屋でも不可能ですよ。
内心突っ込みを入れ、こちらに目をやる校長と思わしき人。
「貴方はうちの生徒だね」
「学校を迷わないように案内役をしてます」
うん、この理由が一番あるな。
「じゃあ、あとは私が引き継ぐから」
「必要ない」
校長の台詞をばっさりカットして拒否。
ローは駆け引きとか考えないらしい。
人間嫌いでもありそう。
「だ、だが」
「お前らがあの怪異に近付いても役に立たなくなるから足手まといだ」
怪異の知識もないのに動かれるのは確かにやりずらい。
ローは大人達の声を無視して怪異の女に近付く。
近付いてわかったのは、女が雪女ではないということだ。
「あの人、異物を飲み込んでますよ」
「正気の沙汰じゃねェな」
どれだろう、雪城、天零、黒華。
色んな異物の名前が浮かぶ。
「しかし、怪異を引き起こせるのはそれなりに強い異物ですから」
「スラ野良はどうだ」
「マイナーですね」
「あの女が知るわけないって感じか」
「芯就くの御っていう鈴みたいな異物はどうですか」
「あれはもうこの世にない」
「……なんだとてめぇ」
「なにかいったか」
「いえ、信じられない言葉に脳がトリップしてました」
そんな、この世にないなんて。
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