またローが結界に手を伸ばしたので結界を解く。
大事な防衛道具を荒らされたら敵わんとすぐに鞄へ詰め込み再び立ち上がるとしてやったりの男の表情にぶん殴りたくなる。
許されるだろう、ここはある意味法の及ばぬ地となっていた。
「異界では不審死というのは普通でしてね、撲殺された貴方もそう処理されるんでしょうね」
「……本気か?」
「なにがです。私は気持ちのよい話題を提供したに過ぎません」
「これが終わったら、タピオカの飲みもん奢ってやる」
「異物を3つ程くれるとかならまだしも、なんですか?色気のない」
ぐっと顔をしかめたローはすぅ、と息を吸う。
「色気の意味を本気で思い出しそうになっただろ……!」
「突然大きな声を出さないでくれます?うるさいです」
「お、まえ」
「というか、行くんですよね」
ローはなにかを言わなくなった。
散々骨董品を荒らした癖に優しくされるとでも思ったか。
くくく、と内心笑う。
やっと仕返しが出来た。
「早くした方が良い。この学校に異界ハンターが入ってきたらしい」
彼が携帯を取り出すと情報を寄せてくる。
「なんと!私の異物を!」
「まだ誰のもんでもねェよ」
「分かってますよ。ジョークですから」
「聞こえなかったぞ」
と子ネタを挟みつつ、教室から出ると学生達が学校へ引き返しているのが見えた。
そして、この学校で和装のローは激しく目立つ。
「貴方、その正義のヒーローの装いみたいなのどうにかしませんか。目立ってしまいます」
「正義のヒーローに見えるのか」
「全く見えませんが、私以外の迷える子羊らは思ってしまうのでは?」
浮いてるし、共にしているこちらまでいらん注目を浴びてしまうこと請け合い。
嫌であるそんなこと。
「他人のフリします」
「脱ぐのは嫌だ。半裸になるしかない」
「なれば良いのでは?」
「おれに無防備にここで歩き回れと?」
「はい」
「なんの躊躇もなく言えるのがこえェ」
楽しそうに言うけど、変態さんかな。
学生と話しているよりも異物が優先度を上回るのが仕事というものではなかろうか。
「早く歩いて下さい」
「歩いてる」
ばっさばっさと和装がひらひらしている。
制服と陰陽師風の装いはやはりちぐはぐ。
見られたら声をかけられるかもしれん。
「ケン、待ってよ」
二人で廊下をはや歩きしていると曲がり角奥から集団らしき足音と話し声が聞こえた。
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