07
ずっと立っているつもりらしく、動く気配もない。
「飲むだけだ。そしたら直ぐ帰る」
少し考えて、条件としてもし触れたら事件として訴えると言う。
彼は秒を置かずに頷く。
そんなに話したかったのか。
今までおざなりだったくせに。
部屋へ入れるとテーブルへ彼は座り、自分はコップを取りに行く。
便利でお手軽なコップを次のお店で買いたいなとふと考える。
「使っても良いよ」
二人で話したいんだろうから気を使った。
ローは気安い台詞に僅かに反応しとくとくと注ぐ。
「高そう」
「普通だ」
高レベルな冒険者になると金銭感覚が壊れるって本当だったんだ。
リールは至って普通の感覚だからお高いものなのだろうなと感じる。
ワイングラスを受けとると飲むフリをしていく。
本当に飲むわけがないだろうに。
内心簡単なことに思い至らぬ人へため息を吐いた。
離婚をしようとしている人を前に酔う真似などするわけがない。
仮に飲んだとしても唇に乗せておしまい。
それなら酔うこともないのだ。
無駄な時間を過ごしたくないけれど、いつまでも取り合わねばずっとついてくるだろうことは予測出来る。
飲みはじめて数分、やっと口を開いた男に遅いなと眉根を上げて対応。
「なにが気に入らない」
「そういうところも含めたところですかしら」
うっそりと溜め息を吐く。
当たり前の評価を下す。
好かれていると思っていたことにびっくりしているけれど。
「言わなきゃ別れない」
「私のことなんて綿棒とすら思ってないのでしょうね?人に悪口を言ってしまうくらい嫌いなのだったから面と向かって言えば宜しかったのに」
ローは頭の上にハテナを散らし今だなんのことだと分かりかねている。
そんなに無意識に見下していたのは才能ではないのかと皮肉を口ずさむ。
「私の出来が悪いのが嫌なのでしたら他の方を娶りください」
「さっきからなにを言いたいのか分からない。お前以外娶る気はねェ」
言いたいことは、それだけか。
沸々と浮いてきては沈む怒り。
「私は貴方と別れたいと思ってます」
「突拍子が無さすぎる。なぜそうなる」
「突拍子?妻の悪口を人に言う人の夫など、私は欲しくありませんもの」
「悪口?」
さっきからそう言っているのに。
「仮に言っていたとしても本心じゃねェな」
ふん、と鼻で笑う人。
丁寧に敬語を使ってでも言い足りない。
「あのね、私は貴方が嫌いなの」
「……!」
ローが驚いた顔でこちらを見つめる。
前世も今の心を深く傷つけたそれらに関連した出来事を許すことは難しい。