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- ナノ -
06
こんにちわ、朝です。
そして、朝風呂に入り部屋に帰ってきたところだ。
ぱふんと布団へからだを弾ませると先日の列車での大事件を思い出す。
鳥のようなモンスターに運悪く襲われてしまった。
こちらもなにかしらの力を身につけなくてはいけないな。
なんせ、ローとの生活を辞め、冒険に出る予定だからだ。
別に冒険者になろうという面倒なことをするわけではない。
手のひらを開く。
魔力がじんわりと僅かに手のひらへ集まってくる。
前の人生を思い出してからどうやら魔力が活発になり、知り得なかった己の中の魔法の力が更なる段階へワンステップしたようだ。
お店を手伝っていたときは植物系統の魔法を渇望していた。
もっと力を欲しいという気持ちもは今も昔も変わらなかったというわけだ。
こそこそと人の話を聞き付けてしまうような身体能力強化の魔法を一番に望んだのであんな会話を聞き取ってしまったのは耳を汚してしまったと後悔している。
敏感に魔力を感じ取れるようにもなっていた。
空気中の魔力を取り込めるかも、淡い期待を抱いている。
万能ではないが、あって損はしない。

「集中、集中」

目を閉じ淡く漂う魔力を集めるようにイメージする。
ちろっと揺れたようだが、吸い込むところには及ばない。
なんでもかんでも祈れば願いが叶うなどまやかしだというわけね。
もう一度試してもゆらりとなるだけでそれ以上は干渉出来ない。

「なにをしてる」

びくりと肩が揺れた。
誰もいないと思っていた廊下からピッチリと声を拾ってしまう。
これが俗にいうストなんとかというやつですね。

「魔力の乱れを関知した」

このまま答えなければ部屋の扉をぶち壊しそうだったので簡潔に答えた。

「あなたにはなんの関係もないですよ」

清楚な妻からの拒絶はローを絶望に陥れた。
ふらっとなりそうになるが、諦めるつもりはなかった。

「なんとかその機嫌を直してくれ」

「その程度で覆るとお思い?」

問いかけると黙ってしまった。
諦めるのが早いと思ったが、どうでも良いや。

「どうすれば良い」

「二度と、顔を見せないで」

それきり、声をかけられることはなかった。
温泉街を歩いてもローの腰巾着達を見かけなくなったので諦めてくれたのだろう。
温泉に通う傍ら、魔力の練りと言うものをならった。
専門機関へ通ったわけではないので詳細はさっぱり分からないが、ちょっとずつ表へ出てくる魔力があるのを感じる。
これを攻撃として使用するのにも時間がかかりそうだ。
ただでさえ戦う経験もない主婦だったもんね。

――トントン

誰かが扉を叩く音がする。
誰だろうと、名を名乗るように言うとローのところの仲間の一人だったはずの男だった。
よく顔を見せられたもんだと呆れる。

「ちょっとでも良いんで顔を出してもらえませんか?」

「仲間内で妻の悪口を止めなかった大人のいうことは違うわね」

皮肉をぶっとばしたら無言で返された。
どんな決意の元ここへきたのかと襟首を揺さぶりたくなる。

「お願いします」

「願い事がホイホイ叶うのなら世の中はもっと平和になってるんでしょうね」

まるでカウンセラーの気分だ。
年若い子を苛める趣味はないがローの味方ならば敵である。

「お、お願いします!反省してるんです」

「そう。言葉って便利よね」

撃沈したらしく帰っていく足音が聞こえた。
皆若いから言いたいこと言いたくなるのも分かるし、我慢が出来なくていけないことを言う気持ちも分かる。
じゃあ、どうぞって感じ。
もう愚痴やら文句を言いたくなる対象がいなくなったんだから言えることもなくなるでしょうね。
気付くと寝ていた。
どうやらうとうとしていてそのまま寝てしまったらしい。
物音はしないが、もしやと思い扉を開けてちらりと横を見ると立ったままの眼光が光る男。
ちょっと怖かったのは秘密だ。

「心配した」

「他人なのに心配してくれてどうも」

ローは盛大に顔を歪め、苦しそうに息を吐く。
そんなに大切に思っていたのならなぜ手放すような言動を外でやっていたのか。
本当にバカな人だと思った。

「酒を持ってきた」

「舐められたものね。酒って、下心ありすぎ」

酔わせるつもりだろうな。
辟易していると言いわけをああだこうだと弁明し始める。
ただ話したいだけ、か。
あながち本心なのだろう。