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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
03
ほんと、大根として栽培して鍋奉行に送りつけてやろうか。
内心悪態をついてストレス発散。

「やだわ、ローさん。私ったらお疲れの貴方にお茶も出さないだなんて。待ってて、今入れてくるから」

お風呂の残りも入れてやろう。
うきうきして立ち上がるとパッと腕を掴まれていた。
その目はギラギラしていた。
太陽の下で光る魚の鱗のように。
鱗は素手で触るとなかなか取れないのだ、特に乾くと。
ローも離れないし、手を離しそうにない。

「どうしたの、ローさ」

ん、と言い終わる前に熱に浮かされたような口付けを寄越された。
横っ面、蜂に刺されて膨れ上がれば良いのに。
無駄に顔がイケてて観賞するにはもってこいだ。
今じゃないのは確かだけど。
でも、困った。
ここで拒否すると復讐が上手くいかなそうだ。
息もさせてくれない猛攻を受けながら考える。

「まさか、考え事か」

妻のイメージではローにそういう類いの事をされるとあっぷあっぷと受け身になるのだと思う。
だから、考えられる余裕を持てていることに気付いたので驚いているのでしょう。
ちくちくと痛む首。
髭が痛い。

「ローさんお髭が痛いのです」

「そんなのすぐ忘れる」

今まではな。
これからはそうはいかない。
痛いって言ってるのに。

「ローさん、息が苦しそう。熱でもあるのではないですか」

優しい妻。
良かったねえ、心配してくれて。

「熱はあるだろうな」

――プチ

リールのボタンも外しに来ている。
いやこれふりじゃないんで。

「ん、ダメです。熱なら横になってください」

そして棺桶ん中自分で入れ。

「おれがダメならお前もダメだ。ベッドに入れ」

ダメダメダメッて煩いぞこいつ。
天然を利用しようとしてるよ、こわっ。

「いけませんっ」

ローの手を剥がそうと渾身の力で抵抗する。

「今回はそういうのがやりたいのか?」

もしかしてこれも駆け引きの一環とか思われてるのか。
リールの性格的にそんなのあり得ないと分かっていて泣かせるようなことを言ってる。

「な、違います」

真っ赤になって否定。
いやいやいや、と首を振ってローを振りほどこうと。

「きゃあ」

ぎゃあと叫びそうになった。
ローがお尻の少し下から抱き上げるように掬い、リールをベッドの真ん中にボスンと落とす。
1万回叩ければ良いのに。
しかし、ここで躓くと今後の計画に支障が。
悩んでいると彼側は己の欲望のままに肌に慣れた手付きで触れていた。




数日後、昼。
ローが仕事に出掛けている間、荷物を纏めておいた。
どうせギルドでの仕事は連日だから帰ってくるのは二日後か三日後だろう。
妻をバカにしている男にはキッツイ現実を受け入れてもらおう。
花屋もやめてしまっているし、仮にやめていなくとも職場が割れていれば結局辞めることになっていた。
出ていく準備として先ず結婚指輪と離縁の申請書。
それをテーブルに置いておく。
手紙も添付しておく。
理由は書いておいた。

『私は恋愛結婚をしたいので別れて下さい。女避けとして使えない私はもう必要ないですし構わないですよね』

と。
女避けとして機能してきたし、仕事だってたくさん貰えて万々歳だよね。
数日間、ローにバレぬように彼らの会話を盗み聞きしてきた結果だ。
ローは女避けとしての他に料理が上手だし、家事もやってくれるので結婚したのだと愚痴っていた。
それを仲間達は言葉の裏を読みニヤニヤしていて、冷めた目で物事を決められた。
お前らは妻が後ろで聞いていたとか想像も出来ないのかと文句を言いに行きたかった。

「冒険者なのに気配くらい察知して欲しいよ」

無防備に連日酒を飲んでいる。
全くの無警戒というのも変な感じだが、おっとりな女に見張られているなど夢にも思わぬのだろう。
憐れさに涙を誘う。
勿論皮肉である。

(これでバイバイ)

少し住み慣れた結婚生活の気配がする家を振り返りにんまりと笑みを浮かべた。
途中、汽車の券を購入しゆったりと席に座った。
ブオオオ、と汽車の蒸気音が聞こえてこれはこれでオツだなと楽しむ。
風景もなかなかで、代わり映えはしないが緑で眼も良くなるような気持ちになる。
車輪が回る音も懐かしさというか、映画でしか見たことのない光景だが、とても心地好い。
目を瞑れば空気の匂いも清涼感のあるものだ。
空気が綺麗というのは疲れた心も癒される。
出て正解だった。
汽車で五時間、事前にパンフレットに乗っていた温泉地に着いた。
流石にここまで離れたのなら簡単に突き止められまい。

「なんだあれ」

と、汽車が停まる寸前に客の誰かが呆然と呟いたことから徐々に伝わってきた。

「え?なにか変ね」

女性らしいその声は困惑に塗り潰されていた。

「な、なっ、なんだ!?」

その驚愕に満ちた声音により、漸くリールも期待に満ちた目を向けた。
早く温泉に入りたいものだと。

「はぁ!?」

おっとりが消し飛んでしまうリアクションをしてしまう程の光景。

「駅が、ない?」

駅があるだろう場所は瓦礫のように崩れ、一部が損失していた。
爆撃でも受けたのだろうかという感じだ。