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- ナノ -
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客人が帰ってから三時間、仮眠を取った。
寝るのはとても有意義だ。
頭がすっきりするし、なによりいざなにかあっても対応できる。
寝た分は動けるからモンスターの出るこういう世界ではわりと判断力が命を左右してしまう。
冒険者にこうやって他者の命を丸投げしているからカウンセラーも冒険者のギルドも主に向こうに味方するという問題が起こる。
本当は預けたいなんて思ってないが身体能力がないので頼るしかない。
傲慢な冒険者も珍しくないので向こうも苦労しているが。
主婦を蔑ろにする理由としてはとても弱いけれど。
主婦だってその冒険者を支えているし、尽力している。
それを冒険者のところは軽く見ているような気がしたぞ。
カウンセラーも経験不足者を寄越してきて悪化するとは思わなかったのかな。
むしろ、今日の出来事でローのことが更に嫌になった。
彼が頼んだわけではないことは分かる。
けれど、争いに首を突っ込む時点で頼んでいると見なされても仕方ないと思う。
彼はカウンセラーのことを余計な口出しをした者と判断するだろうし。
馬に蹴られるとはこのことだ。
きっと彼らは浮気だとしても同じように示談に持ち込もうとするのが想像に容易い。
いくらなんでも世間からの優遇が過ぎる。
夫婦というのは平等で対等でなければそれは夫婦ではない。
良い言葉を今言ったよ。
大事だ、テストに出されるぞ。
ふむふむと一頻り己を奮起させているとノック音に思考を切断させられた。
今はホテルに居るのに訪問者が多すぎるな。
呼んでないのに。

「もう居留守ね」

出る必要を感じない。
大人げないとは言わないで。
これは冷たい戦いなのだ。
戦国の最中。
無視しているとカチカチと鍵穴から金属の音が聞こえてきた。
俗にいうピッキングかなあ。
よくやるわ。
これでばれたら嫌われるどころではないのだが。
呆れているとピッキングして入ってきた音にこっそりキッチンから鍋を掴み、強盗として扱ってやんよと喧嘩を高値で買う。
扉が開くと死角になる場所へ行き待つ。
やがて蝶番が動くのが見えて入ってきた。
って誰?
みたことのない女。
てっきりロー達が寄越した偵察の人かと思ったのに。
取り敢えず物を取られてはいけないので相手が完全に部屋へ入った時点でスッと後ろへ行きガン、と殴る。
こういう世界では躊躇をしては命取り。
遠慮なく殴り付けてから鍋をもう一度振りかぶり手首と足首に一撃入れる。
反撃されては意味がないので。
非道なのは家に強盗しに来たこの人だ。
フロント係ではないのは制服ではないことで丸分かり。

「ひっ、やめてっ」

意識が残っているらしく抵抗してくる始末。
やめて、とはこちらのことである。
勝手にやってきたくせにやられたら言うとは随分だな。

「誰の命令?」

「そ、それはいえないの」

言えないのという台詞が返ってくるとは思わず、反射的に鍋を高く掲げる。
次はない。

「誰の、命令?」

言わなきゃやるぞ。
目に殺気を込めて本気を匂わせる。
女は怯えを見せておずおずと言い出す。
なんと、三時間前に帰ったカウンセラーの指示だった。
なんでも、強盗に襲わせてローに助けを求めさせる手筈だったとか。
それで仲直りするとか妄想も大概にしろだ。
襲われて助けを求めたからと言って、彼が言った言葉が消去されることも、この記憶から綺麗になくなるわけでもなし。
しこりが残り、寧ろぎくしゃくする。
冒険者のところは女を軽く見ているとは感じていたが自作自演とはなんとまあ。
ローにチクろ。
そう英断してから強盗犯を縛り、痛がってもやめない。
経歴がどうなろうとこの人の選んだことだ。
電話でローに直接来てもらう。
軽く説明してことが冒険者のところにバレないように根回し。
根回しとはこうやるんだよ。
カウンセラーに内心布告しておく。
やがて嬉しそうな顔をしてやってきた夫に笑顔なんて見せないまま女を合わせて、聞いたことを全て言う。
話を聞き終えた彼の顔は怒りと呆れが混ざり許すまじと物語っている。

「やりすぎだ」

「本当にね。でも、貴方がかれらを暴走させているのよ」

「なんでおれが」

納得いかない顔をしているが、組織に属しているのだから連帯責任。
女を任せてあとは知らん。
さっさと帰っていけと思っていると女を乱暴に外に放り投げた男はこちらへサッと寄ると、性急に腰をかき抱いてきた。

「触らないでくださる?」

許したのではないと横を向く。

「解決したんだから少しくらいは許せ」

「解決したのは私」

ただ運ぶだけなのに偉そうだな。

「前のことは許せとは言わない。触れさせてくれれば良い」

なんでローは自分にこんなに気持ちを向けているのか少しも知らないので複雑な気分だ。
強いハンターは選り取りみどりなのに。

「私はお飾りの妻なのでしょう。しっかり貴方の口から聞きました」

「あれは他の客が聞き耳立てたりしてたからだ。特に女達は検討違いにも溺愛してるなんて耳に入ればお前になにかしてくるだろ」

そう言われたらそうなのだが。

「それにお前があそこでおれ達の話を聞いてるのも知ってた」

「ええ!」

初耳なのだが。

「あとで説明しようとしたら居なくなっいて、見つけたら見つけたで襲われてたなんておれの方が可哀想だろ」

「あ、はい」

本能ではいとか言ったけど、自分が傷つけられたことには変わらない。
やはり許してはいけない。
あの日、窓枠に手をかけたのは己なのだ。
肉体は存在しているが精神はどれ程残っているのか。
なんて考えていたらそのもう一人が心に訴えかけてくる。

「私が許さないのなら私も許さない、ね」

ここで許したいと言えば自分も許すしかなくなるからそう述べたのかもしれない。

「ま、関係はリセットされたのだからもう一度やり直してもらいましょう」

許す許さないはもう関係ない。
信頼がマイナスからのスタートなのは当然。

「さ、用が終わったのだから帰って」

「もう少し」

「わがままをいう年齢でもないでしょ」

ぴしゃりと言うと彼は名残惜しそうな瞳をこちらに向けてドアをくぐる。

「ワインは安いので良いわ」

投げ掛けると彼の足が止まり、直ぐに動く。
それを見てから鍋をキッチンに戻した。
置いたところでガタガタなのに気づく。
三発も入れたらへこむのも無理ない。
苦笑いしてこれも請求してもらおうと脳内メモした。
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