09
ローとの冷戦は今だ続いていた。
まだ旅行先だ。
そのホテルにて何故か冒険者協会の人間が来ていた。
なぜっていうのは知っているけど、来るのが早い。
どうして来たのかと言えばローとの関係を悪化させているから仲介に来たのだとか。
やっぱりローの方に味方しにきたんだよね。
分かっていたとはいえ、違う視点からみれば身内っていうのは枷にも感じる。
仲介とか言うけど、大体冒険者ではない方に和解をしてもらう。
「ですから、どうかトラファルガー・ローさんと仲直りしてくださいませんか?」
原因を軽く聞いていたくせに言うことはそれなのか。
イライラした。
ローが無神経なことを言うよりも遥かに。
「お断りします」
うふふ、とかわす為に笑う。
笑えば大抵のことは避けられるという偏見。
しかし、カウンセラーと名乗る女も手強い。
「原因はすれ違いなのですよね」
「すれ違いなら妻の悪口を人に言いふらすのですか?すれ違いの意味勉強してきましたか?」
お互いを誤解しているという意味だと思っていたが彼女にとってはどうやら違うらしい。
素晴らしいお花畑。
いや、目先の利益に目が眩んだというものか。
冷ややかに対応する。
「貴方に夫は居ますか」
カウンセラーに聞くと勿論と言われる。
やはり経験者だから担当にされたのだろう。
でも、冒険者が皆優しくて便りになるなんて幻想の見すぎ。
「では、貴方の夫に貴方の悪口を言いに行きますね。一度ではなく何度も何度も。そして、貴方の夫がニコニコ聞いていられるのなら考えます」
そう宣言すると女の頬がぴくりと動く。
仕事とプラベートは別とか言い出しそうな自信家だこと。
「貴方はすれ違いと言いますけど、私は例えすれ違いだとしても私のことをあれこれ吹き込む男となんて居たくないのです」
「男はそう言いながらも照れてるんですよ」
「照れているならばなにを言っても許されると?」
ふざけた言い分だ。
この人はこの仕事に向いてないように思えるのだが。
「カウンセラーではなく、弁護士みたいですね貴方」
「違います」
「まるで私に黙ってあの人に従い続けろと言っているように聞こえます。別に良いですよ。代わりに貴方達の悪口をローさんに言いますから。貴方の妻で居続けろと強要されたと。だって悪口は立派なすれ違いなんですよね?」
夫婦の間で交わされるやりとりはただの痴話喧嘩か会話なのでしょ?
ほほ、と笑って宣言してやると高ランカーに睨まれるというキツい状況を思い浮かべたのか目が怯えに走る。
やっと自分が言った言葉を自覚したわけね。
つくづくこの仕事が向いていないのではと憐れむ。
夫婦に挟まれて可哀想だと思うけどそれだけ。
頼んでもないのにのこのこと間に割って入ってきた末路としては優しい方だろう。
悔やむなら妻、の立ち位置という一般人を丸め込めると油断していた自身に向けてほしい。
女、妻、身内。
その肩書きに甘えて示談に持ち込もうという甘すぎる判断。
そしてのこそこ入った人は今日のところはと一言添えて隠れるように帰っていく。
この様子ではもう来ないか他の者を寄越すかもしれない。
観察がてらそう予測して帰っていくのを見送るとお茶を入れて自身の疲れを労る。
他人の世話もしてやらないといけないこの身が可哀想だ。
カウンセラーなので一応対応したが、次からはお引き取り願おう。