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- ナノ -
02
父は記憶通り事務所を立ち上げた。
その頃には流石にタイムスリップしたのだと自覚済みだった。

「とおさん!契約書先に作る!」

起こってしまったことはもう取り消せない。
今までの足踏み状態だった自分を押し込めて、己はアメとムチのムチになることに決めた。
裏切りだって横行するこの世の中、鎧を纏うのも至極当然だ。
前の時にもスカウトしてこようとしたので、それを止めて父に契約書作成をやらせる。
前のように裏切られても不利益を被らないように。
父が甘かったのも要因のひとつだ。
恩を着せたとて倍返ししてくれる等思ってはいけないのだ。

「いやいや、先に俳優達を誘わないとな」

おどれは形から入るタイプな。
ふざけてる。

「とーさん。母さんが出ていったのに、まだ自覚してないの?」

「う」

胃を押さえる辺りダメージを受けている。

「いい!?小学生の戯言だと受け流せるなら受け流しといたら?本気でやりたいのなら優しさは捨てて?でも、父さんそれは無理って分かってる。だから父さんはアメの方を担当して。私はムチとして尖るから」

父は理解できないような顔で頷いた。
はぁ、とため息をつく。
分かってない癖に頷くなよ。

「まず、知り合いから当たるのが筋だけど、父さんのスカウトしようしてる人達は絶対ダメ」

1人は挫折し1人は裏切る。
却下だ。

「どうしてだ?」

「どうしても!」

父に任せてはいられない。
事務所を自宅にし、始まった。
しかし、やはり来ない。
父が焦れてまかり間違っても裏切り者を持ってこないように目を光らせる。

――ある日

父がおろおろして営業にも行かずに部屋へ戻ってきた。
まだ漢字プリント終わってないのに。

「父さん、ギャンブルしたの?すったの?すりつぶされに帰ってきたの?」

ランドセルを背負う小学生もやらねばならないので多忙である。

「え、ええ?とおさんそんなことしてないよ!入り口に中学生がたむろしてて行けないんだ」

父がギャンブルしないのは知っているが、未来が変わっているのでどうなるのかわからない。中学生だと?
うちのピカピカ新品の事務所を使うたぁ、許さん。
小学生になってなんだかタガが外れてきたな。

――バン!

屯している入り口の扉を思いっきり開ける。
そこには確かに中学生がいけないことして座っていた。
なんだ嘘じゃなかったんだ。
営業にいかないで嘘着いたかと。
中学生はこちらに驚いて見上げている。
そして、バケツをひっくり返す。

――ザバアアアア

勢いよく出ていくそれは火の元になるのを鎮火させ、中学生共々びしょ濡れにした。
うちの事務所が燃えたらどうしてくれんだ。

「っ、あ…………な」

中学生の1人が唖然となる。

「なに、すんだ、てめ」

「よく聞こえねぇ」

ドスの聞いた声に鬼の眼。
中学生達は悲鳴をあげかけ、プライドでそれを留めた。

「なんで家の手前でそんなんやってんの?ていうか、邪魔過ぎるの分かんない?」

どう見ても自分達より幼い子供に文句を言われカチンとくる。

「うるさい!」

まだなんも言ってねー、と二人の心はシンクロした。
おっかないと察した1人は逃げようと立ち上がる。

――ガチン!

バケツで殴られた。
頭を打ち悶えていると透かさず襟首をグイッとひっつかまれて玄関へ引き込まれる。
強盗にあった気分だ。

「濡らしたお詫びとバケツが運悪く落下したお詫びにシャワー使わせてあげる」

全てに置いて理不尽な台詞を初めて聞いた二人。

「なんなんだ!」

「離せよ!」

「ダマレッ」

ヒンッと喉がすぼむ。
可笑しい、中学生が年下に叱責されて恐怖を感じるなんて。

「私に逆らうなんて骨の髄まで叩き込んでやる」

鬼の軍曹が君臨。

「もし逃げようしたら貴方達、小学生をベタベタ触ったって言って潰すよ?」

リーシャがこんなに引き留めるのは理由があった。
棚ぼたである。
結構見てくれがよい二人だったからだ。
逃がしてはなるまいとスカウトセンサーにガンガンきたから。
二人は今まで感じたことのない悪寒をその身に感じていた。
ゆるりと見守っていた父親が涙目で彼女に言う。

「リーシャちゃん、立場が逆だよ」