02
しかし、父は困り顔で尚も言う。
「私はロー君が事務所にいるまま結婚したいから時間を作れる仕事に変えるって聞いたよ?」
「なんで父さんだけ!?私は何も聞いてないんだけどっ!」
キレたままローの勝手なる転身に怒る。
「そりゃあ私は事務所の責任者だし」
「は?父さんはアメなんだからムチの私に相談するのが筋でしょ?」
「もうロー君は相談したって行ってたけど?」
「聞いてない!」
いや、と我に変える。
なんか結婚とか旬がとか言ってたな。
「でもやっぱり裏切りよ!契約違反で訴えてやる!あいつの人生も今日で終了よっ」
メラメラと燃える。
落ち着いてと宥められるが、今ならバッファローのように走れるよ。
あいつめ、会ったらもう仕事出来ないように荒らしてやる。
――ドッ
「なに?」
憤っていると壁の向こうから盛り上がった時の話し声が聞こえる。
なにか面白いことでもあったのか。
様子を見にちらりと覗くと今年度の裏切り者が居た。
なにがおめでとうだ。
なんで祝われてんだよ。
呪われろ呪われろ呪われろ。
屈辱が甦る。
また、父が、ああああ。
ご飯を食べな、く。
震える。
とうさん、わたしがふがいないからごめんでもどうすればヨカッタノ。
ああ、あああ。
思考が過去へ引きずられる。
もう過去へ戻れないのだからやり直せない。
許さない、裏切りは、それだけは。
「なに騒いでる」
一言声をかければシンとなる。
恩を仇で返されるなんて、二度も。
「ロー。良くぬけぬけと私の前に顔出せたわね?」
「怒ってんのか」
何いってんだ、するぞ。
「ちょうど良いわ、ホルマリン漬けと剥製どっちか好きな方選べ。楽には終わらせない」
濁った色の目を向けてくる娘に回りはざわっとなる。
「ええ、ふふ、ふ。楽にはさせない。転身ですって?ええお祝いしてあげる」
ニタッと笑えばロー以外が後ずさる。
「ほら、こっち来なさいよ」
二人きりになればそこでこいつは終わる。
ローは何を考えているのか、考えていないのか、ついてくる。
――パタンっ
「事務所内など都合が悪い、向こうにあるホテルへ行くぞ」
普通ならホテルと言われたら避けるのだが、こいつはもうここのやつではない。
マスコミへのスクープになるので破滅させられる。
そう浮かび、ほの暗い思考が肯定。
「そうね。お祝いにワインボトル開けてあげる」
寧ろ先導してやる。