08
リーシャが男達に汗水、血を流させたあと、父が心と精神のケアを共に行う。
言わば休憩タイムだ。
それをすると勝手に父を拠り所にしていく。
甘い。
そして、ローを狙った仕返しの中学生達を逆に罠に嵌めて半ば肉親に見放されそうになったやつらもまとめて事務所へ放り込む。
そして、リーシャが高校生になる頃にはどこの軍隊かと思われる場所が出来上がっていた。
「はい、今日はここまで」
「「「はい、ありがとうございました」」」
「気を抜くのはダメだから」
「ハッ!」
敬礼する者達。
確かに訓練方法とかどこぞの軍隊だけど、雰囲気までそれになっている。
しゃべり方もそうだ。
「隊長。今日は漸く仕事取れました」
「よろしい。では、慢心せずに取り組むように」
褒めてほしげにみているがそれは父担当。
決してアメになってはいけない。
っていうか、うちの事務所筋肉質なやつしかいない。
ナヨッとした人がいないのが課題だ。
事務所も軌道に乗る。
そして、一番の看板タレントはローだ。
大学生でありながら現役の人気。
「お疲れ様」
「ああ」
ローは最初よりも更に磨きがかかった姿になった。
「そろそろ仮のマネージャーじゃいけないし、本格的に見繕うわ。これ、候補よ、見ておいて」
「分かった。それはそうとシャンプー変えたか」
「……変えたけど、なに?」
困ったのはローのこういう所。
無自覚天然。
「いや、なんでもねェ」
ローはなに食わぬ顔で言う。
リーシャはサッと居間へ戻る。
もう少しで、もう少しで安定する。
そうしたらきっと父の望むものが。
――数年後
もうすぐ成人。
「父さん、電話」
震えているのを悟らせぬ為に父に渡す。
その電話はローが俳優の賞を取ったというもの。
他の俳優志望者達も続々と小さいものだが取った。
父は涙目でいつもより高めの声で応答している。
父が電話を切り彼らに伝えに行く。
リーシャは動けなかった。
父が項垂れない結末が分からなかったけど、今がその結末なのだと思った。
もうあの痩せ細った男は居ない。
『父さん、作ったよ』
あまり声を出せずぼそぼそとしか話せなかった。
『ああ』
箸で野菜を摘まむがぽろりとテーブルの下に力なく落とした。
『………………すまない』
落ちた野菜が自分と重なったのだろうなと思った。
――トン
部屋から出るとそのまま洗面所へ向かう。
ぼんやりと他人事のように見えた。
ようやく、終わった。
励ますために鏡に向き合ったのに出てきたのは音にならない吐息のみ。