何故か私まで牢屋に入れられた。
ちゃっちい、その上にこの男と同じ牢屋!
どういうことだ。
そもそと仲間じゃないのに勝手に仲間判定され、勝手に縛ってきた。
びっくりしすぎて固まったからあっさり捕まる。
ネネカは違う、と否定するのに黙れ!と罵られた。
こわ。
もうなにも言えない。
海賊でもなんでもないので、罵られたら普通に黙るくらいのチキン。
そもそもちゃんと分別してないのに、捕まえるのは問題大有りだ。
何故異性同士で入れるんだ、頭沸いてるよ。
分けるだろ常識を解くと。
「帰りたい」
憂鬱に落ち込んでいると、男の低い声での呼びに、ひくり、と肩が上がる。
こうなるかも、いや、興味ないだろうという希望があって、男に目をつけられませんようにと思っていたが、どうやら興味あったらしい。
のろのろと顔を上げると、相変わらずの凶面があって、震え立つ。
「は、はい」
びくついて目を反らしつつ返事。
「お前誰だ」
「く!」
それをもっと早く言えよ。
激しく口論したいが、負けるの確定なので耐える。
誰のせいで、誰の巻き添えでッ。
このままだと濡れ衣で死刑になるかもしれない。
三角座りを維持して小さくボソボソと名乗る。
「小さくて聞こえねェよ」
「……勘弁して」
ほぼ吐息で愚痴り、もう一度名乗るとやっとこさ、耳に届いた。
ふう、海賊に名乗るなんて仮面つけてないと無理なんだよ。
顔を覚えられるのはリスク。
「取り敢えずおれは今から脱獄する」
「……へっ」
ぽかん。
正式に任命された表情筋。
さっそく任務を忘れてしまい、キッドを見上げるしかない。
まあ、脱獄とは言っても、こんな安い金属の牢屋なんて力をこめれば難なく壊せるんだろうけど。
今も間抜けに見上げる女を見返した男は、なにを思ったのかこちらに手を伸ばす。
説明もなしにそんなことをされたら恐怖。
抵抗虚しく腰を捕まれて高く持ち上げられ、脇に抱えられる。
ひょいっとそんなことをされるもんだから、叫ぶ間も無く、彼は拳で簡単に牢を破壊し、すたすたと歩く。
余裕の態度だ。
気になるのは何故私を連れ出したのかだ。
この人が同情などをするとは思えまい。
警備の人間がやってきて止めようとするのを殴り飛ばすだけで止まることはなく、普通に外に出られた。
そして、船へさっさと連れていかれる。
大きな船を見て、漸く唖然とした顔が緊張にはりつめる。
「私、連れていく必要ないですよね」
只でさえ他人なのに、話す事が辛く、男はなんてことない様子で船に飛び乗る。
「雑用やれ」
「……えっ!?」
そんなことで!?
非力な自分が雑用とか無理っぽい。
重たいものなんて持てないし、ろくに役に立てないと思う。
なんでだろうと疑問しか湧かないが、そうこうしている間に船の上に居たフルフェイスマスクの男が待機していた。
キラーと呼ばれた男がこちらを見ていたが、キッドに捕まっていたのではないか、と特になんの感情も感じない平坦な声で聞く。
「逃げたんだよ。なにも面白くねェのに一日も居られるか」
「そうか……その女は自警団の仲間か?」
「いや。おれの仲間と思われて同じ所にぶちこまれた只の女だ」
知ってたんなら自警団の人に言って欲しかった。
この女関係ないからってさ。
わざと言わなかった臭いな。
雑用にするためだけにあえて合法的な手を使ってきたみたいだ。
――ガガ!
なにかが船に当たる振動。
キッドはネネカを持ったまま振り向く。
「なんだ」
見ると、遠目から女達が勇ましく戦闘体勢になっている姿が見える。
「ユースタス・キッド。今すぐ降参しろ」
僅かに滲む殺気に男はいきなり攻撃してきた女達に首を傾げる。
しかし、直ぐに離れろと離陸を指示し、船は浮いてそのまま宇宙へ向かう。
辛うじてまだ彼女達の船長とばれずに済むことに安堵。
それならばまだ雑用として居た方が安全だと思った。
人質に取られたり、お飾りなのに変なレッテルを貼られて期待されるのならば只の女で良い。
本当は助けてほしいけど、ローだって手が出せないようなものを体に付与されているのなら、多少冒険をしたらいいと、彼女達も絶対に手を抜いているところから、同じことを思ってそう。
ぶっちゃけ本当に助けてほしいけど。
雑用か。
地元よりも宇宙へ出ることを選んだから、そりゃ、人並みよりも好奇心はあるかもしれない。
「しつけェな」
「もう少し速度が出ないか聞いてくる」
「穴があいちまうッ」
「頭!このままじゃァ……!」
おっと、どうやらギリギリまで攻撃しておくらしい。
本当にこのまま見逃されるのか少し不安だ。
船が沈没しませんよーに!
多少船がダメージを負って、近い星に降りることになった。
追っ手とか考えているのか、自分は船から下ろされず待機を命じられた。
因みに、新人にあたる己が紛れているのに普通に話しかけられていて、ビビる。
「ネネカ、お前処女か?」
船員にエネルギー砲をぶちこみたい。
無言で居たキッドにお宅の船員は色々大丈夫かと恐々と話しかけた。
「あ?」
「いえ、その……流石に初対面でそれ聞くの酷すぎます」
「雑用だから扱いなんてそんなもんだろ」
「あ、扱い、とは」
「一番したっぱだし、お前は女だからな」
「女って、まさか」
「襲われない様に気をつけろよ」
ゲラゲラ笑われて、それはこっちの台詞だと思う。
女達に襲われるぞ、このままでは。
後悔するのは君達だと激しく思うぞ。
因みに私について聞いてきた船員のことはきっちり覚えておく。
後でうちの団員達にチクっておこう。
たぶん、まともな扱いされないけれど、どうでも良いや。
コックに呼ばれてジャガイモの皮を剥けと言われ、淡々と剥く作業をする。
結構な時間がかかり、かなり疲れた。
くたくたになって、座り込む。
(つっかれたああああ)
キッチンの隅で休憩していると、冷たいドリンクをくれるので、ドリンクを有りがたく飲む。
コックは良い人と記憶する。
食事を持っていく様に言われ、ゆっくりと持っていく。
なんせ、重いし溢さないように気をつけてら遅くなる。
座るのもバラバラ、のろりと団員達は各自ご飯を口に運ぶ。
うめーうめーと言う。
少し嬉しいかな。
ジャガイモ剥いただけだけど、少しでも手を加えたから、褒められたように感じるのは現金なんだろう。
キッドも右腕のキラーも食べに来て黙々とガツガツ食べていた。
男子高校生の100倍は食べていて顔がひきつった。
(食べすぎを通り越したなにか)
食欲旺盛というものでは表現しきれぬ勢いだ。
どんどんお皿の中身もなくなって、お皿を下げる。
(食欲化け物だ)
世の男達はこれほどまでに食べるのだろうか。
「おい」
キッドに呼ばれ、ビクッとなる。
この人とはまともに話したことはなく、未だどんな人か知らない。
よって、誘拐した男から更新してないのだ。
気まずいを通りすぎた畏怖。
どう話せというのだろうか。
無理だろう、趣味も絶対合わないし。
肝心の呼んだ相手はお酒をごくごく水みたいに飲んでいる。
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