その人達の中で進行役の人が説明を始める。
海賊らしき集団も居て、そういう人達も参加出来るのかと無法地帯空間の宇宙ではポピュラーというか、誰もそこまで気にならないらしい。
この世が救われるのであればどんな職業でも構わないという感覚なのだ。
ネネカはあくまで一般人故にその考え方を受け入れなくてはと苦心している。
世紀末の価値観だから慣れないのも仕方ないと皆は慰めてくれるけど。
「はわわーん」
砂糖を煮詰めてシロップにしたような声が聞こえた。
「エーリンちゃん!」
「エーリンちゃんだ」
筋肉のある男達とは違い、線の細い男達が騒ぐ。
「エーリン、転んじゃいましたぁ〜」
「ちっ、ぶりっ子が」
「あざとさMAXじゃん」
女性の人達が汚いものを見るかのように悪態をつける。
悪態の付き方を見て、この光景は普通のことになっているのだと反応。
関わり合いにならないでおこっと。
「エーリンちゃん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないかもぉ」
チラチラ、と助けようしてくれている人ではなく、イケメンに視線を送っている。
「あ、ハートの海賊団」
今気づく。
因みに団員達は即気付いていたが些末な事だと無視していたので、誰も彼もが彼らの存在を他の存在と同じ扱いにしている。
そんなこととは知らぬ私は相手を見つけたが、目をかけられていることを周りに知られたくないので他人のフリをして、見なかったことにした。
船長さんは見当たらないので、話を聞きに来ているのは部下だけって感じかな。
それなら、お飾り船長たる自分も皆に任せてしまえば良かった。
一応責任を感じて向かってみたが滅茶苦茶怖い。
説明が終わり、自分達は一番大変なグループに割り当てられたので、そんなの不平等ではないかと部下に代弁してもらう。
仮面の女は聞こえぬように部下を集めて責任者にグループの変更をするように伝えた。
「おい」
「!」
急に呼ばれてそろりと後ろを向くと真っ赤なトレードマークが印象的で忘れられない男、キッドがどんと立っていて鳥肌が立つ。
「貴様、我らに近寄るな」
すかさず美少女が盾になる。
キッドはその幾多の殺気に怯むことなく、寧ろその反応に満足げに笑う。
「今回の仕事で同じところを請け負う同士、仲良くしようとしてるだけだろ」
(嘘だ〜、絶対嘘〜)
「馴れ合う気はない。あちらへ行け」
軽くあしらわれ、更に白い目で見られているのに全く衰えぬ視線に、メンタル強いな海賊も、と逆に感嘆を覚える程。
自分だったら即逃げているぞ。
「今日は同じ依頼をする仲だ。そうカリカリするな」
もしかしら、わざと怒らせたいのかな。
煽ってくる煽ってくる。
良く思われてない相手に声をかけられたらむかつくってもんだ。
「キッド、準備するからもう行こう」
仮面の男が催促する。
傍に居た解説してくれる係りの子が「あやつは殺戮武人の二つ名を持つキラーという者」と囁かれ、全身汗まみれになった。
なにその名前、怖い。
「ハートとキッド海賊団の二つが参加するとなれば、いさかいが起こりますね」
団員が未来を予想していく。
そんなの私でも予想出来るくらい、嫌な予感を感じてます。
この作戦に彼らを引き込んだ人は余程、切迫詰まってるんだね。
「チームを変えよう」
「すみませぬ、船長」
「い、いいよ」
急に予期せぬ相手が来てしまったので手続き変更を言いにむかう。
それにキッドのことにより、皆はチームが同じなんて嫌だと顔に出すくらい、印象を悪くしていた。
これが目的だったら凄いな、あの人。
ネネカは遠ざかるパンクっぽい人達を見て、もう話しかけられませんようにと祈る。
「へ、変更ですか」
「ああ」
説明係が困ったようにしている。
これが第三者だったら助けにいきたいくらい。
でも、本人に近い参加なのでこちらの味方。
ハートの海賊団は、さっきのキッドのやりとりで見ていただろうからこちらに気付いている。
報告するのかもしれないが、その後私が振り回されるかもしれないので部屋に籠ろう。
ロー達は討伐で忙しいだろうし。
ということで、とっとこ退散。
「ふう〜」
船に戻るとお疲れドリンクで一息つく。
あんな強いのか、怖いのか、色々混ざった空間に居続けるのは精神的にもとても苦痛。
ここでのんびり星を眺めておこう。
うつらうつらと眠気が襲う。
討伐は2日後なので、割りと余裕ある。
このまま、寝ていたらいつの間にか終わっていることだろう。
彼女達に本当にこの討伐は大丈夫なのかと再三確認したが、余裕ですわと言っていたので、それならと安心して送り出せる。
団員達に甘やかされ、悠々自適に過ごしていると、やっぱり直ぐに倒されて終わりという結果を告げられた。
この船をこれ以上豪華にするのかと思ったが、違うことに使うのだと笑みをうかべられる。
討伐のお金をもらったが、皆の貯金にしておくね、と金庫に仕舞う。
こんな大金、怖くて持ち歩けないし、使えないよ。
船長は小心者です。
ところで、ローが討伐に来ていたのに、ここに突撃してこないことを不思議に思っていると銀髪の美女が、こっそり楽しそうに告げる。
「エーリンというあの女に引っ付かれているみたいです」
「エーリン?」
居たかな、そんな人。
「ギルドで見目の良い男に愛想を振り撒いていた女です」
「あ」
(居たな、確かに)
ぶりっ子な子。
そうか、ローは捕まっているのか。
「ふうん。見てみたい」
かなり面白い。
「ご覧になられるのでしたら、映像がございます」
「あるんですか、それならお願いします」
「はい」
なんだかんだと娯楽はしっかりキャッチするな。
それだけ、面白かったということだろうから、楽しみ。
スッと出てきた透明な映像画面。
出てきたのはギルドのある施設。
周りがガヤガヤと煩い中、エーリンという顔を覚えている女がローに駆け寄っていき、それを嫌そうな顔を隠さず一別する男。
見事に付きまとわれてる。
あまりに媚びているのでローは無視していた。
良く海賊に声をかけられるなと、その勇気に感心する。
私なら声なんてかけないし、目も合わさない。
だって、滅茶苦茶怖い。
難癖つけられて、ひどい事をされたりしたら抗う方法も無いしね。
「あ、抱きつかれた……ええ!」
映像ではローにふらついたフリして抱きつこうとしたが、ローはスッと避けてエーリンは後ろに転倒。
頭を打っていた。
あれは痛いぞ。
ゴチン、と音は聞こえないけど、エーリンの顔は信じられないと読めるくらいに染まっていた。
ギルドで見ていた人達も驚いていたが、海賊に手を出そうとしたので自業自得な空気があった。
うん、まぁ手を出さなきゃ火傷しないからね。
「面白そうなモン見てるな」
「ええ、はい――って」
横を向くとローが居た。
また勝手に入ってきて。
護衛と自称している映像を出してくれている団員がシラッとした目でローを見て、そそくさと出ていく。
前に自分には加護がいっぱいついているので無敵状態だと言っていたので、そこまで気にされる事ではないのかも。
実感のない加護はあるのかないのか不安になるけど。
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