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ネネカは船に帰ろうとうきうきして少しだけ元気になる。

――フッ

真横に影があり、ぐん、と腰を引かれる。

「船長!」

「おのれー!」

「またかっ、トラファルガー・ロー!」

二度目のやりとり、以前そんなことがあった。

浮いた足のまま、横を向く。

してやったりな顔をしている。

ネネカは覚えのある手の感触にまたか、と思う。

「わざわざ、こんな登場の仕方する意味あるんですか?」

「楽しいだろ」

「ちっとも!」

足をパタパタさせる。

ローは嬉しそうに楽しそうに、ルームと唱えて景色が一瞬で変わる。

船に戻ってのんびりしようと思っていたのに。

どこだここ、ときょろりと周りを見回して屋根の上だと知る。

それから小刻みに移動していく。

一気に移動できないみたい。

「……うっ」

「どうした」

「吐き気が」

ローは転移したときに起きる酔いだなと冷静に判断したが、やめてくれればこの吐き気をなくせるのではないか。

期待してもう動かないでほしいということを頼むが、ようすぐ着くので我慢しろとのこと。

この人、知ってたけど、鬼畜。

ついたのは一組の団に貸しきりにされたお店。

ハートの傭兵団、どこかの店らしい。

下ろされたのは椅子の1つ。

ハートの団の者達に囲まれる。

ちょっと知っているけど、顔見知りのレベルなので気まずいことこの上ないのだが。

その空気をぶち壊すのはローだ。

「一日こいつは借りておく」

「「「えッッッ」」」

この合唱には私も入っている。

「借りるって……なんですか?」

そんな事したら、うちの船の人達が押し寄せてくるぞ。

「危ないような」

「巻いたから良い。あと、お前の場所が分かる魔法もあって、ガチガチで呆れる程だ」

「え、そんな、もの、が」

初耳なんだけど、皆。

でも、無防備だと知っているのでありがたいけどさ。

「し、知りませんでした」

「お前は宇宙に出たことがないからな」

ところで、なにをさせようとしているのか。

ここに連れてきてもなにも出来ないよ。

「私、必要ですか?」

なにも出来ないよきっと。

皿洗いも普通だし、力仕事なんて無理無理。

「お前に期待するような、なにかがあるのか?ないなだろ」

大気圏まで飛ばしてやろうか。

なら何故連れてきたし。

「お前が居たらなにか面白そうな事が起きるかもしれないと思ってな」

この人、どこかに跳んでいかないだろうか。

人をオモチャにすると後悔するんだぞ。

さっきからSの発言しかしてないよこの男。

ついていけない、ついていけないよ。

呆れたり、ここに居たくないと心をカタカタ言わせて居ると、近くに居る海賊の一味のローの部下が気楽な声で「なにもないから遊ぶと思って楽しもうぜ」と肩を叩く。

君らと会うのまだ2回目だからね?

そんなに仲良くないのに楽しい気持ちになれるわけない。

冒険する性格でもないし、相性が悪い。

海賊なのに割りとノリが軽い人達である。

まぁ、こっちも冒険者なので、そこまで離れているわけではないのだろうけど。

「おれ達、この次の星で年越しするって決めてるんだけど、お前のところはどこにするんだ」

「年越し?星?」

「あ、お前宇宙出たの最近だったな」

「悪い悪い忘れてた」

説明されたのは人によって年越しや特別な日はお気に入りの星で過ごす人が多いらしい。

宇宙の選択肢が広大で目から鱗だ。

ジェネレーションギャップってやつ。

どこって言われても、行きつけの星なんてないもんなぁ。

「ないですよ」

「んー、でもお前の所は決めてると思うぞ」

「お、なんならおれ等と同じ星にするか?」

「そりゃいいな!」

「……えー?」

なんだかやけに回る口達だな。

「お前、そんな成りだけど船長なんだろ?」

「ってことは、発言とか決定権あるよな?」

失礼すぎだろ。

「仮初めですし、ちょっと無理だろうと」

「そんなことねー」

「言ってみてくれ、少しで良いから」

「あいつら、お前のこと大好きだろ!」

凄く詰め寄られていると、団切っての女子が馬鹿馬鹿しいと舌打ちする。

「こいつら、あんたの団員に来て欲しくて必死なのさ」

「ああ!」

なるほど、納得。

「おい!バラスなイッカク!」

「「そーだそーだァ!」」

「人の邪魔すんな」

皆から言われていても、ふん、と鼻を鳴らして慣れた態度でそっぽを向く。

でも、年越しを星でするって、自分がつくづく凄い所に居ることを実感していく。

今までバタバタしていたからじんわりする機会もなかったし。

誘拐されたり、家の近くに記者が来たりでのんびりしようとしても出来ず。

今ものんぴりしようとしたらローに連れてこられるし。

私って、不運だ。

溜め息をついていると建物がズズズ、と揺れる。

「うわああ!」

一人だけ悲鳴をあげて、皆は警戒したように音のした方角を見ていた。

「多分、ユースタス屋だな」

迷惑や奴だと呟く男、ローは立ち上がる。

「全員、準備しておけ」

「はい」

ローは刀を持って扉へ向かう。

――ギィ

ドアを開け放ってそのまま行ってしまう。

待って、無関係なネネカはどうすれば良いのだ?

一人でぽつんと状況についていけてないで居ると、なにかの破裂音。

「ひいいいい!」

頭を抱えて椅子の下に落ちる。

「キャプテン暴れてるー」

楽しそうに雑談し始めたけど、誰か説明してくれ。

おどろおどろしい事態が収まる頃にうちの、船長回収班が迎えに来てくれた。

帰るときの彼らの見送りの言葉は「年越しの件、忘れるなよ」だった。

ネネカは船に戻ってから最初にハートの海賊団の年越しの星以外の星に行くことを頼んだ。

皆、快く頷き彼らを忘れて年越しの過ごし方について楽しく教えてくれた。



***



美女のコックによる年越しのソバとうどんは美味だった。

他の星については知らぬが、連れてきてくれた星は無人の星だった。

こういう星もあるんだなと探検する。

勿論、護衛つきで。

良いリフレッシュになった。

それにしても、宇宙にも年末の概念があるとは。

星によって時間の経過が違うはずだが、どうなっているのか。

宇宙の不思議。

ふふ、と思い出し笑いをしていると空に浮かんでいる星が消えた。

見間違いかと目を凝らす。

「船長、星食いの討伐を依頼されました」

「星食い?」

ファンタジーとかラノベとかで見たことある。

「星食いは極端な魔物でして、食べるか素通りするかなんです」

「そ、そんなヤバイのを討伐なんて、出来るの?」

「出来ますよ。安心なさって下さい」

本当に余裕な顔に真実だと知れる。

星食いが新年早々星を食べているなんて不吉。

退治しやきゃね、と団員達がやる気に満ちている。

星食いの為に収集している組織の持つ建物に向かう。

仮面装着して、準備出来たので中に入る。

色んな人が居て、その人達の視線を浴びる。

ネネカは真ん中で美女等に囲まれている為、凍りつくような視線に絡め取られることはなかったが、こなければ良かったと後悔。

ごつい男性や細身の女性と容姿はバラバラ。

その中でも極めて目立つうちの集団。

ずっと目で追われたり、話題に上がる。

心頭滅却しておかないと真っ白になるな。

発表会とか苦手なんだよね。

特にこの中では一番激ヨワなんだから。


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