相手の船へ招待されて普通に乗り込めばローと名乗った男がガシッとネネカの腕を掴み船員達に出向しろと指示をする。
んえ?
危害は加えられないが、拐うことなら出来るとローは判断した。
聞きたいこともあったので早めに手を打つ。
「え?ちょ、ちょっ」
制止するが聞くわけもなく、今まで乗っていた快適な船から引き離される。
「ようこそ、ハートの海賊団へ」
「え、いや、いやいやそんなつもりなんて」
拐われてしまった。
死に物狂いで追ってくる女達の未来を知らずロー達との短い船旅となる。
どうしてこうなったのかと水面を見ながら夢うつつに思う。
なんの力もない一般市民が船長と呼ばれ、ゆかりもない筈の海賊にくるわかされた。
どんな人生なんだこれ、と自分に突っ込む。
今までの平凡な人生はどこへ行ってしまったのだろうと問いかけたくもなる。
「ホームシックか」
「船長さん」
「お前もだろ」
ローが話しかけてきた。
今まで奴隷として命令したことがないからか、船員達も敵意を向けてこないが、それも表面だけかもしれない。
「私は船長ではないです」
「影武者か」
「いえ、そういうわけでもないようです。私も知らないうちに呼ばれててわけがわからなくて」
「お前らの本来の船長はどこに居る」
その質問には首を捻る。
そんな話初耳だよ。
本来ってなに。
そんな人どこにも見当たらない。
見たことも聞いたこともないし。
「本来ってなんですか?そんな人居ないです」
「いや、居る。以前からいた。有名だ」
「そんなの知りませんけど。新入りなんです」
「じゃあ最近居なくなったか、歩いは監禁されてるか」
「どんな人なんですか」
「高飛車でおれは嫌いだな」
「見たことないですねやっぱり」
特徴的に当てはまる人は記憶にひかからない。
話題にも出たことがないからね。
「嫌いなのに船に攻撃するなんて矛盾してますね」
「ああ。後悔してる。あの女の悔しがる顔が見たかっただけっていう理由だ」
本当にちょっかいかけるだけの為だったのか。
それで負けては後悔も浮かぶよね。
「私を連れてきたのは人質ですか?」
「なんでだと思う」
逆に聞かれたけど知るわけない。
人質にしても意味がないもん。
「フフ、慰めてもらおうかと」
「すいません、飛び降りて良いですか」
めっちゃ嫌な理由。
冗談だと笑うこの人は海賊であったな。
「女には困ってねェ」
「殴ってほしいんでしょうか」
自慢されてもイラつくだけでは。
「手は出すことはない」
「あったら逆に襲いますね」
「誘われてるのか?」
「そう聞こえるのなら病院おすすめですよ」
「おれも医者だ。事足りる」
「……ん?医者!?え!」
くくく、と笑う男は楽しげだ。
素人をからって実に楽しそうだ。
こういう人を世はサディストって言います。
「死の外科医と呼ばれてもいる」
「全く聞いたことない」
「それは凄いな」
新聞があるのなら目にしないから。
それに、外の世界には最近出たばかりだし。
「んん?あれ、魚?」
小さいものが空を浮くのが見えて凝視。
どうなっているのかと見ていると隣の男があれは空魚の一種だと述べ、さすがはあべこべな世界と驚く。
ファンタジーが好きな人は来たい場所なんだろうね。
こういう場合来たいと願ってない人が来るのが常だ。
つまり、じぶんは全く思ってなかった。
海魚なら見たことがあるが、空に浮かぶなと。
ローは空の魚を見るのがはじめてなんてどこの出身なんだと疑問になる。
「あ、そうだ。船長さんは地球って知ってますか?」
「地球?聞いたことはないが、田舎星なら知らなくても当然だ」
「はぁ。まぁ、希望的観測なので期待はしてませんけど」
「地球ってところからきたのか」
「でも、この次元の地球かもわからないですから、なんとも」
そうだ、仮に地球があってもネネカが知る地球ではないかも。
あたり前の事実に漠然と気持ちが沈む。
「次元?異世界からでも来たような物言いだな」
「この宇宙が私の知っている場所と違うのなら異世界から。知っているのなら帰れるかもしないですね」
固定しているが、どうせ自分は異世界なのだ。
なんの意味もない仮説。
だって異世界でないのならどうやって帰るのかも考えると言う面倒な展開がある。
そう呟いて5日後、ローから地球見つけたぞと言われて、口が大きく開いた。
「どどど、どうやって!?ですか!」
「データベースにあった。ついでにうさぎ海賊団に長く侵略されている星でもある」
意味不明すぎて呼吸が乱れる。
――え?
「侵略されているのなら違う地球です」
「地球に隣接してる月に海賊のマーキングがしてある。うさぎの形を模したもんだ」
「あ、それ確かに月の……う、う」
初めてにして、最悪な情報を強いられた。
やめてくれ、それ月だよ、餅ついてるうさぎのマークぅ!!
嘘でしょ、あれって微笑ましい絵じゃなかったの。
なわばりの旗印なんて知りたくなかったよ。
「田舎の惑星なんて大抵どっかの奴等に侵略されているのが普通だ」
「うわあ。知りたくなかった」
「だが、お前がなぜ惑星の外に居るのかわからねェ。この惑星は宇宙の外を自由に動き回れるような文明に達っしてない」
「それについては私も同感です。地球はまだ秘密裏の技術をありにしてもここまで飛ばされてしまうような技術はさすがに出来てないですよ」
そう、それね。
しかも、一般の女を一人飛ばしたくらいでなにも変わらない。
「興味が出た。地球に行く」
「ありがとうございます!」
興味が出ただけでもやっと帰れる。
それで胸がいっぱいだ。
嬉しさに抱きつきたくなるが、我慢。
「対価となにかしてもらう」
「え?お金は無一文なので」
「フフ、知ってる」
ローはにやりと女が頬を染めてしまうような悪い顔つきを浮かべると一歩近寄ってきて迫る。
急展開。
「奴隷の件はまた解除を検討してます」
「してもしなくてもどうせお前におれを縛る真似は出来ない。よって不必要」
結構大切なことだと思うんだが。
「な、なんでもは無理ですよ?」
「利口だが、今一つ足りない」
「え?ええっと。うーん」
なにも特徴もない自分に出来ることなんてない。
「心臓を寄越せ」
「物理的なのは嫌ですね」
「お前、態度と台詞可笑しくねェか」
ローは冗談だったのか直ぐに離れる。
「変なのはそちらです。私は普通です」
「普通の女は隅に縮こまって震えてる」
「期待になれなくてすみませんね。色々ありすぎて現実逃避は得意なんです」
く、とローは笑みを浮かべてなんだそれはと受け取る。
でも、真実で本音。
地球とは違うところに飛ばされて世界観とか価値観激変したもん。
変わらない人がいないわけない。
外を見たら宇宙が見えたなんて一部の人しか体験できないのに、更にその上を行く。
「面白ェ」
ローは改めて立ち直して離れる。
「私ははやく帰りたいです」
「うさぎの海賊には気をつけろ」
「え?」
ローが小さく忠告を告げたが、気を付けるのなんて当然だろうに。
海賊と名乗っている時点でろくでもない。
一応ローに今まで居た船の人達に安心してくれと伝えたいと頼むと電話をかけさせてくれた。
あと数分で船が追い付くというところ。
隣接させろという人達をローは面倒そうな顔で好きにしろと言えば全速力でやってきた船。
近くで襲う計画を立てていたので直ぐに来れたらしい。
よかった。
この船がなくなると目覚めが悪い。
ぴったりと張り付く美人達に囲まれて地球へ行く。
「やっと帰れる」
ほんわかと発した言葉に美女達が良かったですねと笑う。
お世話になったのだからと自分の部屋とかに招待はするべきかと思案する。
うさぎの海賊はどうするべきかということは頭からすこんと抜けていた。
抜けていた事実を突きつけられたのは地球が見えて直ぐ。
小型の宇宙船が飛来してきて、攻撃をしようとこちらに向けて声を発していた。
「ハートの海賊団!なんのようだ!」
男の声が聞こえる。
映像に写し出されたのはうさぎ。
がちで動物のうさぎ。
デフォルメされてないやつ。
うさぎはこちらを見ると人間!と驚く。
「なぜ人間の女が!」
「リアルうさぎ」
唖然とする。
もしかして動物園とかテレビ放送されてお茶の間の視線を拐ったうさぎって。
うわ、知りたくなかった。
「ねぇ、私を地球から移動させたのはあなた達なんですか?」
「お前は奴隷だ。人間は我々の資金源。これ以上は教えねぇ」
「ものは相談ですが船長さん」
「対価による」
「あのうさぎ。ジンギスカンにしませんか」
光をなくした目で暗い感情を迸らせる。
「気を保て」
「あ、なら、剥ぎ取ってぬいぐるみにするのも」
美女達は良い案だと賛同してくれる。
ローは煽るのはやめろと止める。
どうでもいいか、はは。
「船員に告げる。あのうさぎ達を駆逐、う!」
最後まで言いきる前にローが口を手で塞ぐ。
やだなぁ、冗談ですよと薄ら笑いをする女にローは本気だろと内心思った。
「人間風情がおれ達を駆逐するたぁ笑わせる」
「人間、なめんなー!」
相手の船にテレポートしてうさぎの耳をわしずかみ、再び船に戻ってきたらうさぎを回転回し投げ。
吐き気と戦ってうさぎを叩きつける。
べちゃっと音がした。
「テレポートするとは体張るな」
ローが驚いていた。
「ぐ!天下のうさぎ海賊団のおれ様にこんなこっ」
「本物のうさぎなら兎も角、知能のあるうさぎに慈悲はない」
うさぎの頭をわしずかみ宙にする。
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