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11
その男はいきなり話を聞きますと事情聴取を彷彿とさせるやり方で一人一人に個室で聞き取りをし始めた。
周りを見回してヒロイン気取り女を探したが見た限りでは居なかった。
あの空間に取り込まれてしまったのだろうか。
次となったので呼ばれる。
普通こういうのは陸についてからで警察に話すべきではないのか。
皆、不安からか可笑しいのに可笑しいと指摘せず話しているようだった。
話を余程聞いてほしいようだ。
表向きは体験出来るような事ではない。
誰かに夢だと言われたいのだろう。
それか、集団パニックによる幻覚を見たのだと言われたいのか。
例え言われても全員が全く寸分違わない光景を見たという矛盾が消えるわけもないが。
果たして、この現象を隠したい人達はどのように説明するのかと興味がある。

――ゴォゴォ

行きの船とは違う船で帰ると思わなかった。
今は甲板でゆったりとしている。
事情聴取なら既に終わらせてある。
恐らく全員と同じことになるが、部屋で息を殺して隠れていたと説明しておいた。
ローは政府の援助を匂わす発言をしていたので真実が発覚しようとしまいとここで一人だけ違う事を述べて目をつけられにいくことはないと判断した故。
そして、今回の主催者である御曹司は部屋に籠っているらしいと聞いている。
皆があちこちにいて今回の事で情報を考察して意見を交換しているのだ。
別に口止めをされたわけではない。
都市伝説的な扱いを受けるだけだから放置しているのだろう。
そう頻繁に起こる事ではないようだ。
あるのなら都市伝説にはならずに正式に発表されている筈だし。
御曹司の傍にあの女が居るという話も聞かないので、やはりこの船には乗ってないようだと納得。
あれで襲われて無事というのも都合が良すぎる。
存在が消えてしまったのが妥当だ。
いきなり変な勘違いをして飛び出して行ったのもびっくりしたが、男達がわりとまともな判断をしていたことにも驚いた。
あんな人を選ぶくらいだから頭の中も緩いとばかり思っていた。

「あの時、本当にもうダメかと思った」

その男達も自分達の悲惨さを語っていた。
全く襲われた人のことを語らないのはなぜだろう。
真っ先に広めるだろう内容なのに。
怪訝に思いながらも船の手摺に寄り掛かる。
今回は精神的にも体力的にも疲れた。
早くオフィスワークに戻りたい。
といっても、今回のことがあるから再開するまで期間を設けるだろう。
空いた時間をどう使おうかと今から考えねばならない。
途中だったジグソーパズルでもやろうかな。
屋敷で拾った光るピースでも飾ろうか。
アイテムボックスの中に入れたら説明が書いてあり「集めると特別なエンディングが見れます」とあった。
ここまでホラーゲームに忠実なのかとうんざりした。
集める余裕なんてなかった。
それに、何が変わるというのだと無駄な時間を使ったことにため息を吐く。

「海に投げようかな」

丁度目の前である。
特に用途もなく、思い出の品というのだから海に投げ込むのも別に間違っては居ないだろうし。
腕を振りかぶり水面に向けて放物線を描くように大きく回す。

――グン

唐突にその行動を阻む腕が現れた。
その腕を辿れば横に居たのは胡散臭い佇まいでこちらを睨み付けていたロー。
この船に乗っていたのかと白ける。
居たのならちゃんと存在感を知らせて欲しかった。

「まさか海に投げようとしてんじゃねェだろうな」

「私の勝手でしょうに」

己が手に入れたものをどうしようと所有者の勝手だと思っていたが、この男は違う価値観を持っているのだろうか。
ギギ、と力強い力で腕を掴み続ける。
何をそんなに焦っているのか分からない。

「なんなの」

「そいつは高値で取引されている品だ」

「それが何?」

何度も繰り返すように、これは己のものだ。
捨てようと持ってようと勝手である。
まだ腕を掴み続けているので大きく分かりやすく溜め息を吐いてやる。
大声でも出して痴漢とでも叫んでやろうか。
嫌悪から想像が膨らむ。
あまり調子に乗るのなら最強装備でドツイテやっても良いんだぞ。
この人は事前に今回の騒動が起こると知っていたのにわざとそこへ向かい己の欲を優先させた。
人の命を守ろうという気概も見えなかったのだからここで暴力に訴えてもお互い様になる。
この男は信用ならないのだと会った時から分かっていたのだ。
躊躇なんてしない。

「離して」

一応、警告はする。

「捨てるんならおれに寄越せ」

「先ずはそっちが先」

彼はこちらの剣呑さに気付いたのか手を離す。
離さなかったら装備でズドンとやっていた。

「こんなのただのガラクタでしょ」

未達成の品なのに。

「良いから寄越せ」

「もう金輪際関わらない?貴方の関係者も含めて」

今回関わってきたのだって、この力が目当てだった。
これ以上平穏を壊されたくない。

「お前のそれは凄い能力なんだ」

「そんなのどうでも良い。もう関わらないで」

アルは辟易としながら言い聞かせる。

「これはあげる。はい、もう姿見せないでよ」

散々疲れたのだから、さっさと一人になりたい。
彼が音もなく居なくなると再び海に目を向けた。
仕事場のある町へ船が着くとそこからは解散しても良いとなった。
流石に代表者は警察に駆け込むだろう。
その後、どうなるのかというアナウンスもなく解散したので数日後に電話でもかけねばならないな。
対応に追われるだろう会社はてんやわんやになるだろう。



町の自身の部屋がある住所に向かう。
その途中、濃い霧が発生して前後不覚のような光景が起きた。
しかし、アルの目を通せば視界はクリアだ。
今は早く帰って寝たいので気にせず進む。
自宅が見えてくると安堵していく。
テレビも点けずにそのまま寝た。
起きる頃には寝てから8時間も経っていた。
パーティーでも全くはしゃげなかったから楽しくもなかったし、今日一日で随分と疲れた。
まだ寝られそうだと眠気漂う中、そういえば何もニュースを見ていなかったとテレビをぽちりと点ける。
適当にチャンネルを点けるとどこもかしこも同じようなニュースばかりでつまらない。
仕方なく、その内容をかけることにした。
アニメでもあればそれを見ていたのだが。
通販もやっていないとは相当な重大性らしい。

『日本全国が原因不明な紫の霧に包まれており、今現在全ての国民がパニックに陥っている模様です』

こころなしか遠くでサイレンの音が聞こえる。
また何か変なガスでも発生しているのだろうかも呆れる。
ぼんやりニュースを流し見していると家のインターホンが鳴った。
結構な夜中なのだが、そんな時間に来る予定は聞いていない。

「はい」

億劫で居留守を使おうかと思ったが、急用かもしれないなと立ち上がり応答。
インターホンの画面に映った顔を見るまではぼんやりしていたが、その顔を見た途端、即刻応えるのを止めた。
おいおい、干渉するなと言っておいたのに、なぜここに居る。
なぜ、この場所を知っているんだと滅茶苦茶悪態をつく。

「居るだろ。出ろ」

何様だと命令してくる相手に無視を決め込む。
そもそも従う理由などないのに何故従うと思えるのか不思議でならない。
金銭関係でも結んだわけではないのに。

「早く来ねェと窓か扉を吹き飛ばす」

「ちっ。装備しなきゃ」

ホラーゲーム世界でやった時と同じようにセットして、この空間丸ごと安全なセーフティゾーンへと変える。
今まで使う機会もなかったので謎な仕様だと思っていたが、今になって活用することになるとは思わなかった。
こういうことが出来るのはちょっとした超能力みたいなものではないか。

――ガガ

「あ?」

ローの間抜けな声が聞こえた。
本当に吹き飛ばそうとしたらしい。
なんて男なんだ。
本当に有言実行してしまうなんて最悪。
擦った音が聞こえて打破出来なかったのは理解出来た。

「破れない?まァ良い。お前、今の状況知ってるか」

「対等に話しかけてきてるけど、貴方犯罪者真っ只中なのよ」

さも当然のように会話を続けられるのが可笑しい。

「おれが今質問してる」

「私は協力しない。以上」

どうせ手伝えとか助けろとか、言われるんだろう。
原因は紫の霧。
どう考えても異界の空気がこの日本に蔓延している。
打破出来る人材はそっちで確保しろと言いたい。

「出てこないのなら政府に掛け合って仕事を出来なくするぞ」

「その政府が正しく機能しているのならどうぞ、言いに帰れば良い」

反論をすると彼は押し黙る。

「頼みの綱がお前しかいねェんだ」

「もう帰って」

アルは安全なので急いでも居ないし、焦ってもいない。
彼は何か言おうとしているが聞く気になれないので耳栓をした。
耳栓をする中で、テレビのニュースで有名なお菓子のお店が謎の霧に襲われている所が写される。
その瞬間、己の中に衝撃が入る。
弓矢を携えて聖域の中、玄関に走った。

――バアアアン

蝶番が悲惨な音を立てようが、目の前でローが紫の犬に模した煙に襲われてようが、構わず走る。

「私のぉ、私のお!」

口の中にないのに、かつて食べた味が思い出されて脳裏で物欲センサーがバンバン反応する。

「どこへ行く!?」

ローが追いすがってきていても足は止めない。
今の気分は走れメロンのアレだ。
メロンじゃないと突っ込まれても版権の関係上お察し。

「私のお菓子いいいい!」

日々、仕事終わりに糖分補給として必須のお菓子メーカー。
許すまじ、駆逐してやる。
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