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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
10
中を覗くとアルの目の前でナイフがビュン、と飛んできた。

――カーン!

見えない膜が悪意を弾く。
生身の人間なら今ので死亡していた。
それはローも思ったのか、目を見開いていた。
己はそれを見る余裕もなく心音がばくばくとしていた。
はい寄るものなんかよりも明確に人を死なせる事が出来る現実的な凶器に怯えてしまう。
音が生々しかった。

「お前のそれ、やっぱりすげェな」

防具の事を言っているのか、弾く何かに対して評価しているのか。
どちらもだろうか。
欲しそうに見ているが無理である。
心臓の高鳴りがなくならないまま、進む。ナイフはもう跳んでこない。
変な脅かし要素を盛り込むなと怒鳴りたくなる。
悪意があって殺そうとするなんてもう体験したくない。
しかし、帰るためには船を動かさないといけないのだ。
我慢を積み重ねて次のステージに進んだ。
部屋へ完全に入るとそこには人形があった。
可愛くない方の人形で、不気味に笑っていた。
どんどんホラーっぽくなってきたなと遠い目をする。
デスクワークの現実が恋しい。
と、次の光景はその人形が部屋を埋め尽くす程の数に増えた。

「これはヤバイぞ」

警告を男が発すると人形達がぞろりと襲いかかってきた。
襲いかかってきたと言うが、アルから見れば視界に人形がいっぱいになるだけだった。
何かに阻まれてしまいそれ以上行けない。
そんな光景が生まれていた。

「時間がなさそうだ。本体を射ぬけ」

指示されてアルの目を通すと淡く光る一体の人形が一番奥に透けて見えていた。
それに向かって弓を引く。
矢が他の人形をすり抜けてそれに刺さる。
ジョワワワワと浄化されていく音が耳に聞こえて、視界が正常になる。
人形達もいなくなり、異常な空気も消えていた。

「これは想像以上に強力だな」

ローの方へ向くと弓矢を見ていた。
一撃必殺なんだからこの結末は分かりきっていた。
しかし、彼にとってはそうでなかったらしい。

「もう終わったのなら船に帰らせてもらうよ」

元凶を取り除いたのだから船員達だって戻ってくる筈だ。
お先にと地図ナビを起動させて船へ戻り装備を解除する。
この格好を見られると変な言いがかりをつけられるかもしれないし、時代背景に合わない。
ましてや中二病なんて言われてしまうやもしれないし。
ローは特に何かを言うことはなかった。
その方が良い。
立つ鳥跡を濁さずとも言うし。
干渉をされるなど真っ平だ。
後々何かしらコンタクトを取っても絶対に関わらない類いだ。
船に戻って五時間程した頃、漸くぽつりぽつりと人が船に戻ってきた。
船が動くのが先かと思われた頃、違う船が地平線からやってきて遅い救助が行われた。
船員を探していた己はなんだったのだと疲れてしまった。
骨折り損な気がしてならない。
救助が来てから皆、幼児がえりのように泣き叫んだりすがったりして騒々しかった。
救助員も困り顔で対応していたのを見るとホラーな異世界についての事は何も知らない人達なんだなと推測。
だが、同じ船に同行していた黒服で眼鏡をかけた神経質そうな男はどう感じてもこちらの混乱を予測していたような顔で眺めていた。
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