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残るのは自分の記憶だけだ。
曲は知っているが作曲家の本当の人生など知らない。
どう生まれどう生き、どう死んだのかも知らない。
ただ、その人があれした、これした、そんなテレビで得られる程度。

「曲が欲しくて来たわけじゃない」

「それは驚いた」

わざとらしく手を上げる。

「珍しく挑発的じゃねェか」

――カラン

ガラスに入った氷がぶつかる。
言った後に後悔が押し寄せてくる。

「おれは一度たりたもお前に曲を教えろ、なんて乞うたことはない」

まあ、いつもローの家に突撃して無理矢理イントロ聞かせてたしね。
それに、自分の知らないだろうパラレルで作られた曲もあったし、全てを知らぬために、ローがこういうの作ったんだがと言ってもうんもすんも言えないばかり、それ故に「出してみたら良いんじゃない」とイエスとノーの境目回答しか渡せなかった。
結局大人気になったけど。

「お前があまりにも必死だったんで作っただけに過ぎねェ」

「産みの親なのにその発言はどうかと思う」

「産みの親ってェのはてめェだろ」

「だから違う」

「完成させたおれが産みの親って言いたいんだろ。そんなの詭弁だ」

――グ

唇を噛んだ。
詭弁なんかじゃない。
セリの中では正論であって完全無欠なのだ。

「貴方が去らないのなら私が去る」

席を立ち上がると今度は固められないように、ローの部下に通せんぼされぬよう曲がりくねりながら行く。
これ以上彼と話すと自分のやってきたことが裏目に出たと後悔する。
今もしている。
だってローは本来、パラレルの世界では会う事も交差する事もなかったのだ。
だから、曲を聞いてたし他人事にテレビで見たのだ。
世の中にはこんな人が居るんだな、凄いなって。

「恩を感じるのなら私の関係ないとこで感じて」

ローだけに限らず皆に言いたい。
扉を開くと背中を叩く感覚。

「よォ」

「シャンクス」

赤い髪の男が片手を上げてカラリと笑う。

「ここのバーに飲みにでも来たの?」

「いや?お前がここに居るって聞いたから様子を見に」

「私の居場所はトップシークレットにしてて」

疲れた顔で頼むとシャンクスは困ったように笑うだけ。

「あんなに大物達を発掘した女が役目を終えたとばかりに生活してりゃ、皆何が起こったのか調べたくなるもんだ」

「そのまんまよ。役目を終えたから隠居してるの」

「お前〜。幾つだよ!」

「シャンクスこそ遅咲きなのに油乗ってるらしいじゃん」

はは、と空笑い。

「ん。そんなことはあるにはあるが、まあ、関係ないさ。やりたいことをやりまくってるだけだ」

セリも当時はあるべきものをあるべき場所へ戻したかったから。


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