嬉しい以前に恥ずかしいしやめてくれ。
「もうやめて。何に怒っているか知らないけど」
わざわざヘリコプターで来たのは流石にどうかと思うけど。
「怒っているというより自身にはっぱかけてる」
「さっきから謎かけ?私ローほど賢くないし無理だよ」
「謎なんてかけてねェ。鈍感装ってんな」
ちょっと呆れ気味に言われ会話が止まる。
「ローの書いた曲、アニメで使われるんだってね。確か熊獣人とはちみつ姫のやつ」
「会話露骨過ぎ」
膝にあった手先が頭上に上げられズビシッと直角に小付かれる。
う、と目を瞑り耐えた。
「1分30秒のバージョン聞いたよ」
まだ言うか、と睨まれたがトークを止めるつもりはない。
――キイ
横に移動しブレーキを踏み動きが止まる。
え、自宅に行くんじゃないの。
「週刊誌に撮られたいのか」
「えっ。どこにそれが繋がったの?」
今までそんなの話してなかったじゃん。
「撮られたらお前もおれも籍いれるしかないな」
「えっ?」
それって結婚というやつでは?
ローのいきなりな言葉に驚いているこちらをからかうことなく真面目な目で見つめてくる。
鈍感でないと自負していたが、今日はその自負が揺れそうだ。
流石にローが言いたい内容を把握しジワジワと頬が熱を持つ。
しかし、はっきりと言われねば確信もなく、一人歩きすることになる。
それは嫌だ。
そっちまで黒歴史にしたくない。
「ローを開花させたのは私じゃない。その能力を期待しているのなら無駄だけど?」
開花させたのでなく、あったものを取り出しただけだ。
そっと土を払ったようなものだ。
なのに、恩を感じている視線が突き刺さる度にいたたまれなくなる。
プレッシャーに胃が痛む経験は懲り懲りだ。
「さっきも言ったが、お前と付き合うならおれは作曲家をやめる」
「言ってないよ!?」
「似たようなもんだ。つまるところ。お前はおれが今のままだと受け入れる事はない」
それを言われると何も言えない。
「お前と関係のない職でやる」
「なにするの?」
「知るか」
随分な言いようだ。
「でも、ローは作曲家なのに……やめるなんて」
なんのために人材を発掘しまくって音楽を作成させたのか。
「おれが作曲家をしているのはお前が作ってほしいと言ったからだ。お前から頼まれることがもうないのなら意味もねェ。おれのスタジオにこなくなったんなら尚更」
作曲家をしているから職場は自宅にあり、いつもそこへ行き頼んでいた。
「無理矢理させちゃってたの?」
ぽんぽんやめるやめないな仕事をやらせていたのは自分だったのだ。
勝手に決めつけて未来を押し付けた。
「お前の悪い癖だ……自虐的」
冷たい声音にヒュッとなる。
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