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番外編
最近、なんだか胸の辺りが重い。
胸焼けかもしれんと、肉を控えてはいるものの、微妙に熱もあるみたい。
医者に見てもらおうとかと悩んでいるとボロい借りている部屋の扉を無慈悲に蹴りつける大人が来訪。
どう見ても機嫌が良くないローだった。
蹴りつけるんならノックしてくれよー。
扉もかわいそうだし、懐が痛むっての。

まぁ別に稼いでるからさ、じり貧になる訳じゃないけどね。
でも、やっぱり壊れるのと壊すのは別の事件だと思うんだ。
あと、がらの悪いなにかではないのだから、上品に入ってきて欲しかった。
こっちは気分悪いのに余計にわるくなっちゃう。
布団を被ったままようこそとも言わないまま、寝込んでいると無慈悲にひっぺがえされ、更には彼がこちらの手を引っ張る。
無理矢理座る体勢にさせられた。
もうちょっと病人に気を使ってくれまいか。
こちらの反応が悪いからか、やけに積極的である。

「なぜ、おれのところへ来なかった」

「風邪かと思って」

いや、本当に風邪だと判断した。
風邪なのにロー達のところを頼るのもジャンルが違うんだし。
しかし、正解ではない言葉だったらしく彼のシワが深く濃くなる。
みんなに移すのも悪いしなぁ。
死んでしまってはあのときあのようなことをした意味がなくなってしまうだろ、と男の本音をしらぬリーシャは、そんな健気なことを思う。
対比が酷かった。
本当は優しくしてどろどろにしたいと思っているが、あまりに態度を変えては変に思われるだろうと対応は変えずに終えている。
それに、今さら優しくしてはなにかしらがばれてしまうかもしれない。
慎重を期す男にそうとは知らず健気にのほほんと移したら悪いしと述べる女。
どう言えば変に思われずに越させられてローの言葉を受け取らせるかと思考を動かした。

「あいつらがお前を心配してたのが煩わしくて仕方ねェ」

これなら不審に思われないなと言い切る。
え、とぽかんとした女に煩わせるなと憤る。

「え、ん?」

少し戸惑った女の腕を無理矢理一掴み、男はワープの魔法を使った。
こんな事で使われたのかと驚くリーシャに男は構うことなくハートのハウスに向かう。
一歩入るとそこは既にローの部屋だった。
そうとは知らず辺りをきょろりと見渡す。
ここって病院じゃないのかと聞いてくる彼女にここはおれの部屋だと言う。
どんな反応を見せるのかと胸を密かに高鳴らせていた。

「あっ、どーりでなんか見たことあるな」

と、素っ気なくてこちらが今度は肩透かしをくらう。
見たこと、だと、と混乱したが見るくらいならばあり得るかもしれないなと納得して聞かなかったことにした。
部外者を入れぬ事で有名なハートのハウスに連れていかれたことになにか思わないのかとも感じたが。
普通ドキドキするとか思わないのかと不平等に感じた。
男がどれほどのことをしているのかこの女は考えもしない。
看病をするために連れてきたので看病以外をするつもりはないが、ただでは返さないつもり。
そんな邪な思いをしているローを虚ろに見ながら女は良い匂いがするなと変態なことを考えていた。

男の思惑通り、押しのキャラクターの生の部屋を見れたのだ、嬉しくないわけがない。
案内された末、椅子に座らされてよっこいせとなる。
その掛け声を呑気だなと非難する男に苦笑。
風邪に一々しんどいふりをするのも無理だからねと。
彼は高々風邪に対して目くじらを立てる。
でも、自分はローの身内でもないのに。
それは気を許されたと思っても良いのかな。
少し嬉しい。
それが伝わったのか彼が怒る。

「なにかあればすぐにおれに伝えろ」

「でも、連絡手段がないし」

ローは溜め息をつくと紙を取り出してこちらへ渡してくる。

「連絡用の魔術式だ」

「はぁ、そんな便利なものがー」

便利といえば魔導書も万能だけど。

「これを使え、一応制限はないが時々メンテナンスに来い」

「え?やった。良いの?」

「良いもなにも必要だからな」

本当はこの部屋に来させる口実になるという心理もあるが、言わぬが花。
太っ腹だとかお金持ちだとか言ってくる台詞に手を振って止めさせる。
あまり言葉を言わせていると熱が上がるからだ。
静かにさせてからベッドに運び寝させる。
やはり辛いのか直ぐくたりとなった。
処方箋を飲ませれば寝息を立てる。
その眠りの無防備さに少し肩透かしを食らう。
少しは警戒された方が男として嬉しいが、あまりにも警戒心がない。

「襲わないことを感謝しろよ」

頬をするりと撫でて傍で読みかけの本を開いた。



***



しとしとと雨が降っているのをぼんやり眺める。
この間風邪への世話をしてくれたお礼を買いに出掛けた帰りの事。
運悪くその時は傘も無しに取り敢えず雨宿りしていた。
魔法の書で濡れないようにして歩いて行くことは出来るが、屋根の下で雨音を聞くという風情のある事をしてみたいと心のままに従う。
あっさり帰るのも勿体ない。

(確か、雨のキャラストもあったな)

キャラ固定で読める特別なストーリー。
そういえば、ストーリーのメインシナリオ、完結しないままこの世界に来ちゃったな。
構想は考えていたのに、思い出せない。
結構重要なんだけど。

『どうして燃やしたんですか!?』

脳裏にノイズ混じりの声が聞こえる。

『取られないようによ』

冷えていく。

『せめて、わたしの手で終わらせたの』

なにも感じない。

『終わらせない為に』

――ザアアアア

「………………めでたしめでたし」

――ピチャン

「あ、止んだ」

薄くぼんやりしている間に視界から曇り色が消え、代わりに明るい光がもれる。
雨の日にこういう雨宿り行為が出来てほんわか気分。
現代ならば憂鬱一択なんだろうが、推しが居る世界の雨も愛せる。

「いー天気」

にこにこ。

(もう、誰にも奪われない)

ひとつ前の思考が異世界次元に基づき消去されたことを知らず己がなにを考えていたかも忘れて水溜まりを飛び越えた。



***



「先輩!聞きましたよ、うちの会社が吸収されるって!」

今の時代、マニア間で人気を博しても大手がライバルの場合コンテンツとして目をつけられるのは時間の問題。
暗い目をした女が力なく笑う。

「ねぇ、社長だけは責めないであげて。一番辛いのは社長なの」

後輩は悔しそうに噛み締める。
本格的になる前に社長が全ての資料を燃やしたということを聞くまでは冷静だと思っていた。
趣味だけでは生きていけない。
わかっているのに。

「大丈夫。基礎の資料は残ってるもの」

ゲームを壊したわけではないからキャラクターたちは残っていた。

「私たちの結晶をコンテンツとして消費しているうちに、きっともっと、酷いことになるわ」

その言葉を痛感したのは大手のゲームメーカーからの辛辣な指示。
マンネリだからこのシナリオは却下。
キャラクター達の性格の改変。

シナリオはある程度無茶は理解していたが性格などの悪改変には耐えきれない子が出始めた。
愛して作ったキャラの中身を抉り出し、めちゃくちゃにして詰め込まれた。
ナイフで首を裂かれた人形を持ち主に渡す行為だ。
今になって社長がゲーム資料を燃やした意味が分かった。
自分達の傑作を土足で踏みにじられるのを阻止するためだ。
このメーカーに渡った時点でもう己らの作品でないと決別する意味合いも兼ねていたのかもしれない。

「ねぇ、こうしない?」

「えっ?」

さめざめと泣く同僚を見て提案した。

「ゲーム同好会で昔みたいに皆で集まってストーリーの内容を考えるの」

「でも、それじゃあ」

「同好会なんだから規律には触れない」

その言葉に希望を見出だした子は、メンバーに話をして、一から始めた。
誰かがかけることなく、いや、社長は責任を感じていたのか参加をしなかったが。
こうして、誰にも知られることのない物語やキャラクターを再び作る同好会の元、皆の削れた心は回復した。
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