×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
69
それから、あっという間に昏睡、というか気絶させられた男達。
スモーカーは男達をふんじばって警備兵へ引き渡した。
そこでびっくりしたのはこちらへ声をかけることなく去ろうとしたことだ。
いやいやいや。
慌ててこちらが引き留めた。

「待って、ください!」

革ジャンに見えたが布であった服をグリンと引っ張る。

「なんだ」

いや、なんだじゃないよ!
思わず心の中で突っ込んだ。
この人ローより言葉がないようだ。
否、あるんだろうけどもうちょっとなにか言ってくれ。
こっちが困惑する。

「お礼、これ、ポーションです」

「別にいらん」

「貴方がいらんでも私は渡します」

この人は多分ごり押ししなきゃ。
グイッと渡してパッと離れる。
ありがとうございましたというと返事は聞かずにさっさと彼が見えなくなるまで早足で進んだ。
町を歩き回っていただけなので宛もない。
それにしても、とドキドキする胸を押さえる。
まさか、彼に会う日が来るとは。
もしかして居ない可能性も考えていたし。
今まで会わなかったから存在していないかもしれないと思っていた。
彼も一応キャラクターではあるが本編に登場することはなくイベント用のみ。
しかも、二回だけしか登場したことがないのだ。
特にこれといってゲームをする人側から反応もなく、不発キャラクターであると今後出てくる目はないだろうというものだ。
何故そんなレアキャラを覚えているかというと彼を書き起こした、というか、キャラ像を伝えて書いて貰ったのがきっかけ。
つまり、産みの親のようなものだ。
友人、キャラクター画担当の人に暇だった時だけ息抜きにこんなキャラとか居たら〜という軽い話題で緩く書かれた。
とまあ誕生秘話はそういう感じだ。
歩いている途中で曲がり角に曲がる。

「おい女ァ」

え、まじか。

「ちょっと待てや」

いや、忙しい。
言い訳しながらスルーして早足で進む。
強盗に合う度聞こえていないフリをすること五回目。
多い!
なんで曲がるのと裏道の近く通る度に声かけられたり絡まれんの!?
もう嫌だ。
ランダムイベント怖すぎる。
危機と感じてランダム絡まれイベント七回目の最中、そろそろ自前のリビドーが火を吹き掛ける。
王都治安悪すぎだろお。

「アイスランス」

――ビュビュ

――ドスッ

ひんやりしたものと地面に突き刺さる透明なものが見えて、お?今度はスモーカーじゃないんだなと観察した。
泥棒達は腹這いに近い姿で逃げていく。

「おい」

「うわああ!」

思わず抱きついた。
絡まれイベント連続には流石にホラーを感じ怖かった。
いくらゲームに沿うにしてもここは現実でもあるんだからこんなに襲われるなぞあり得ないので、ヤバス。
それしか分からん。

「なっ」

なりふり構わずいたので相手が呆気に取られたことは知らない。

「ロー!会いたかった!」

ホラー要素に怯える中、見慣れた顔があると安堵感が全く違う。
漸く絡まれイベントのループ地獄を脱したのだ。
別に襲われても撃退出来るので怖くない。
けど、同じことがこうも続くのはゲームの仕様っぽくてガタブル。

「さっきから柄の悪い人達に絡まれて逃げても絡まれてワケわかんなかった!ローが来てくれて良かったよ!」

ううう、と涙目になりながらも懸命に伝えた。

「取り合えず離れろ」

「腕組むのはダメ?」

ちょっとでも離れたらまた金出せ地獄が始まるんだ、きっとそうだ。

「ギルドへ向かうからその前までなら良い」

渋々な体で言われぎゅうぎゅうと組んで離すまいと力を込める。
またおらおらされる前に安全圏な所へ行きたい。
せかせかと急ぐように足を動かしても彼は急いでくれない。
流石俺様である。
しかし、スモーカーに会えたのでおらおらな俺様がまだ優しい方だと知っていた。

「うう、ちょっと、ほんのちょっとで良いからもう少し早く行こうよ」

「おれはおれのペースで行く」

わーい、全く意見聞いてくれない。
急かしてもどうにもならないので相手の速さで我慢してギルドへ移送された。
中へ入る前に腕を外しにかかられてやっぱりまだ好かれてないんだなってがっかり。
だが、ここまで送ってくれたのだから嫌われてはいない、と思いたい。

「ま、ローの彼女とか勘違い起こされたくないからね」

ロー達は有名人なので無益な噂など流されたくはないだろう。
リーシャはお礼を言うとそそくさと離れてギルドに併設されている酒場へ行く。
また何度も襲われては叶わないので人が大勢居るところの方が断然マシだ。
その頃、隣で呟きを拾い上げてしまったローは呆然と、しかし、むくりと競り上がる怒りに身を震わせていた。
prev * 69/79 * next
+bookmark