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66
クロコダイル、と聞いた途端、なんという人と関わっているのだと頭を抱えたくなった。
己も裏の人間であるローに関わっているけれど、闇の深さが全く違う。
恐ろしさに震えかける体を押し込めて冷静さを装い、空気に溶けるように気配を薄く努めた。
男はこちらを無視しているのか、興味も湧かないからか、一度も何かしらで絡まれることはなかった。
出来るだけ俯いていたから顔は見られていない筈。
彼が帰ると彼女は言いずらそうにぽつんと述べた。

「実は今回のキッドさんの雇い主は」

あー、パスパスと彼女の負えそうにない発言を止める。
皆まで言うなと言うやつであった。

「ストーリー的に付箋はあったから大体理解した」

黒幕の一旦でしかないが、黒幕の一人であろう。
シナリオを最後まで書いていないから仕方ないが、流れを最後まで想い描いていたのはリーダーだけだ。
外部委託のシナリオも会社が絡んできてからはあったが、確信に繋がるシナリオは元々己らだけのチームだった。
そのシナリオを知っていれば相関図は自然と分かる。
まだ少し痛む体。
過剰な程魔法がかけられたので歩くのも出来る。
まだ動いちゃだめだと言われたが、寝てばかりだとロー達の重要な場面を見逃してしまう。
ゆるりと歩けば制止を受ける。
苦笑してもう平気だからと安心させるように目元を和らげた。
そして、寝床から降りるとそのまま外へ出た。
ここは、どこだろう。
いや、知らない方が良いだろう。

「じゃあね」

きちんと礼を述べて彼女と別れる。
彼女が危機に陥ると分かる魔法も付けておいた。
これで、助けられた借りは返せる。
町へ帰ろうと辺りを見回して地図を魔法書で出す。
この魔法書は貰い物だが、万能だし助かっている。
これがなければロー達をミーハーの如く追えずにひっそり人生を過ごしていただろう。
地図に現在地をスタンプのようなものでマークをぺたんと押す。
そして、ロー達が暴れたのだろう住んでいる町を検索する。
しかし、首都の文字がぶるぶると震えている。
地図からブレるような大事件が起こっているという印だ。
今にも崩れそうな文字。
事態が終わるまで待った方が良いかもしれないと考えを改める。
今行っても変なことにまた巻き込まれては叶わないし。
取り敢えず遠目から眺めようと決めて転移の魔法でシュルルルルと移動する。
ここら辺は本当にファンタジーであった。
冷静になっている筈なのに、思わぬ躓きを体験する。
ロー達がどんな事をしたとしてもそれはシナリオの中、文の上の出来事。
しかも、己達が書いたことなのだから分かりきっている。
しかし、町が荒らされている時。
惨劇が広がる光景が足をすくませた。
決まったことなのだから止められるわけがないと思っていた。
そこに、怪我人も被害者も生まれるという認識がなかった。
欠片くらいならあったかもしれない。
けれど、やるんだから結果的にはどうせ滅茶苦茶になる。
ロー達が英雄に祭り上げられるために。
子供を気付いていたら庇っていた。
町に滞在すれば必ず巻き込まれると理解していたのだ。
ロー達の行動は意図的だ。
それでもロー達やハート団の傍に居続けると決めたのに。
今、それが揺らいでいる。
本当に居続けたいのだろうか。
力無く地図がくしゃりとなる。
戻ってもまた事件の傷を目撃することになるのだから、目を反らせば良い。
あまりにも凄まじい。
復興をする為に山へ材料を取りに行こう。
現実逃避になるが、怪我人も居るだろうし。
ローが眠ったままになったときのように色々作っておけば役に立つ。
そうと決まれば山に早歩きで向かう。

――ザッザッ

あったあった。
早速山に上ると怪我に効く薬が作れる植物もあり、運の良さに感謝した。

――プチッ

抜いていくとクラっと不意に足元が揺れる。
どうやらまだ完全に回復をしていないらしい。
ちょと悔しい。
己の体力不足を改めた。
しかし、かといってこれから運動を実践しようなんて考えない。
と、まぁ現実逃避の発言は置いとき早速その薬を錬成していく。
セーフティゾーンを魔法書で描いた中で錬成の台へ薬を並べる。
普通、薬を作るとなればごりごりと石臼などを使って粉にするのがイメージだが、生憎前の世界では薬の関係など見たこともないので作り方なんて知らない。
なので簡易な方法で、そこに素材を乗せて「生成」と心の中で唱える。
口で言うのも可能だが、量があるときは喉を痛める故に心の中だ。
もっとも、素材一つ分で沢山薬を作れるのだからやはり万能である。
作業をしてさえいれば何かを考えなくてもいい。
嫌なことも楽しいことも。
なにもかも。
しかし、終わりはいずれやってくるのだ。
シリアスは嫌なのだが、と最後の錬成。
ミスもなく終わらせるとゆっくり地面に腰を落ち着ける。
やることもなくなってしまったな。
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