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そのまま走らされていると何やらテントのようなところへ入らされる。
彼女の秘密の隠れ家なのだろうか。

「いや、いや!死なないで、死なないでよぉっ」

現実での世界の知人が目の前で怪我を負っている状況は彼女に精神的なダメージを与えているらしい。
リーシャとて同じことがあれば取り乱す自信がある。
元の世界の繋がりはやはり大きい。
この世界では己らは白紙の存在だ。
そこに過去はない。
未来だってろくに想像出来ない。
過去を無理矢理引きちぎられ、慣れない土地で初めからなにもかもを築くのはとても大変だ。
その中で彼女はひたすら己の知るキッドへと近付いた。
自分が自分でいられる最大の理由。
正気を失わずにトリップした事をとてもいたく感激しているのだと必死に言い聞かせて。
誰も彼もが嬉しくないわけではないが、なんの心の準備なく、突然故郷と絆を引き離され失った。
それをどれ程の者が受け入れられるのだというのか。

「だ、大丈夫だから――」

名前を呼ぶ。
貴女の知るリーシャがここに居るのだと印象付けた。
彼女は取り乱していて、揺さぶり続けていたので苦しかったが、意識がはっきりしたと知ると直ぐにさっぱりとした飲み物を寄越してきた。

「先輩は、私と一緒に居るべきです」

真剣な眼差しで説得してくる。
確かに頼りないところばかりを見せてしまっているのだから、傍に置いておきたいというものがあるのだろう。

「でも、あなたのキッドさんは」

「先輩が一緒ならキッドさんの傍には居なくても良いです」

やはり、か。
彼女は元の世界に未練がある。
ない方が心配になるけれど。

「折角傍に入れるのに?」

「先輩が心配です」

怖いと目が訴えている。
失うのはもう嫌だと。

「彼は強いし、メインストーリー的に死ぬことはないですし」

それもそうだな。

「私達は役もない、モブでもないんです!死にます絶対」

道端の石ころにもなれないだろう。
配役が全くない、イレギュラーなのだから。

「でも、キッドさんは居なくなったら悲しむでしょ?結構良い雰囲気だったじゃない」

「でも、でも」

「死んだら元の場所に戻れるのかなあ?」

「そうだったら話は早いですけど」

それっきり、お互い無言になる。
それを試して戻らなかったら絶望的な感情で生きていかなきゃならない。

「すみません。先輩を困らせて」

彼女はしゅんとした状態でここから去った。
頭を冷やしにでも行ったのだろう。
数分して、リーシャも冷静になっていた。
人に死を感じさせてしまった申し訳なさがさざ波のように揺蕩う。
悶々としていると砂を踏みしめる音がして顔を上げた。

「……!」

ひゅっと喉が鳴る。
どうしてここへ。
彼女は全くそんな素振りを見せていなかった。
彼がここを知っていると言わなかったから知らない前提だ。

「あらかた終わって、様子を見に来た」

その出で立ちはまさに王者の風格で、葉巻が充満していく。
煙たいのは好きではないのだが。

「で、あの女はどこだ」

ストーリーの中でもある程度クリアしなくては見られない前世代編というストーリーがある。
ロー達と世代が違う男達の物語。
伏せんを貼る為に結構クリアしてから見れるストーリーなのだが、企画は持ち上がっていたものの、キャラの立ち絵くらいしか見たことがなかった。
そのキャラが今、目の前に居る。
どういう関係なのか。

「え!クロコダイルさん!?」

ヨルムの声が聞こえた。
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