×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
64
人を上手く避けて人通りのない場所へ行く。
彼はリーシャをそこへ止まらせてここで待ってるように言い含める。
知ってる、これから英雄になりに行くんでしょ。
副音声を込めてうんと頷くと相手はすぐに向こうへ入っていく。
正直こんなにあっさり信じるとは、信用とは大事である。

「急がなきゃ」

魔法の書を使い屋根へ飛び乗る。
何度か練習した通り、上手く浮遊した。
戦闘に関してまだ不慣れである分、スキルの鍛練には余念がない。
今まで何度もスキルに救われてきたので鍛えておいて良かったと思った。
町の屋根を並走すると見えてきたのは豪華絢爛な建物。
揺れは定期的にやってきているものの、建物の被害はあまりない。
その代わりタイミング悪く*uィが襲来してしまう。
普段は魔法の障壁に守られているここも何故か機能しておらず、易々と魔物の侵入を許してしまうのだ。
そして、更に塩を塗り込むが如く、キッド達が各所で暴れていた。
陽動役として、悪役として華々しい活躍。
雇い主は確実に――だ。

「うあああん」

鳴き声が聞こえて振り向くと小さな子供が魔物の攻撃に晒されようとしている。
咄嗟に方向転換をして子供をサッと拐い、違う場へ移す。
その作業を終えるとまた屋根に、と。
しかし、その瞬間魔物の咆哮が衝撃波となり体に叩きつけられて身体が浮遊。
衝撃波のせいで耐えられなかった。
いくら魔法書が万能でもこちらが認識する前に叩きつけられれば意味がない。
予め幾十にも防衛魔法を纏っているものの、打撲は免れないだろう。

――ドォン

埃を巻き上げ建物にぶつかりその建物は半壊した。
痛くて直ぐに起き上がれないやと笑う。
こうなると分かっていたのに。
何かしら巻き込まれると理解していたのに。
ローの傍に居たくて、己達が書いてしまったシナリオを見届けなくてはいけないと焦燥に駆られた。
それがこの世界に来てしまった元々の原因なのではないかと思っている。
物語でフィクション、どんな言い方を取ろうが、今生きている世界で起きていることを見なければいけないと義務感を抱いていた。
他の仲間達は律儀だと呆れるかもしれないが、それでも残ってこの無惨な光景を目に焼き付けねばと深く感じた。
どこもかしこもてんやわんや。
人の声があちこちから聞こえて先ほどの魔物の咆哮も引き続き聞こえる。
これが黒幕最大の事件、首都襲撃。
文章で見るよりもやはり生々しいと当たり前の事を思う。
ぼやける視界に土の色ばかりが入る。

「おい」

ふ、と上を向くとまだ崩壊していない建物の屋根に彼が乗っていた。
その瞳には色がなかった。
彼が動こうとした時、違うものが視界を遮る。
ヨルムだった。
夜明けの少女とふざけた口調で自称していた時とは全く違う顔に微笑みが浮かぶ。
焦った顔で何度も何度も名前を呼ぶ。
フルネームで苗字まで呼ぶものだから、ここは異世界なんだよねと現実が一瞬遠くなる。
先輩、先輩と呼ばれる。

「だい、じょうぶ」

節々が悲鳴を上げるが、それを無視して立ち上がる。
しかし、空しくよろめく。
ダメージが癒えていないのだから仕方ない。
ローが見ている時に回復をするわけにはいかない。

「ああっ。今、治すからっ」

この世界で話していた独特な言葉遣いではなく、社会人として働いていた時の口調で言われ、ふふ、と笑みを浮かべる。

「慌ててて、口調が戻ってるよ?」

「そんなの、今はそんなのどうでも良いでしょうっ」

焦っている様で、節々の痛みが和らぐ。
しかし、次にいつ敵襲がくるか分からないこの場所で治すのは危険だと言われ、途中であるが、治療しないまま腕を引かれる。

「こっち、早く……早くって!」

どうしても助けたいという想いが伝わり、やはりここに居続ける真似をするべきではなかったと反省する。
prev * 64/79 * next
+bookmark