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痛い中、嬉しさに心が踊る。
今はそんな時ではないかと思うが、ゲームならスチル付きのようなシーンなのではないか。
あー、そろそろ本当にヤバイ。
呻きに呻きを重ねて我慢も出来ない。

「ふざけるな」

ローのフッと黒い炎の宿る声音が聞こえた。
急激な魔力の気配。

「バージョンブラッド」

光が瞬き、部屋が眩しくなる。
目を閉じると隙間もない程赤いヒモのようなものが張り巡らされていた。
まるで壁のようなものにも見える。
しかし、ローの温もりを感じるので離れてはいないのだろう。
足の痛みも緩んでいて拘束がなくなっていた。
眼に見えないので確かめる方法が今はない。
彼に問いかける。

「ロー、ロー?」

呼び掛けていると暖かなものが体を優しく包容してきた。

「ここに居る」

「静かすぎてどこかへ行ったのかと思ったよ」

「普段ならやってるところだ」

確かにやりそうだとフフと笑う。
これはローの魔法なのだろうな。
そう思ったから呑気に会話が出来ている。
あの女性は今どうなっているのか。
出来れば意識がなければ良い。
また絡め取られて痛い思いはするのは嫌だ。

「もっと抱き付いてて良い?まだ、足痛くて」

ローと水の拘束に引っ張られて浮いていたので、拘束がなくなった今、彼の体に抱きついている状態だった。
支えが必要なので問う。

「このまま担いでいってやる。掴まってろ」

そのままグンと上へ体を持ち上げる。
わっとなる前に直ぐ行動していたので男が歩き出す。
心地の良い香りが漂いローのものだと直ぐに知り、少し笑えない状態になってしまったことに気付く。
こんなに近いのは裏バージョンの姿で尋問された時以来。
嬉しはずかしな出来事だが、思ったよりも渾身的な距離で驚いたのも事実。
これは予想しているよりも彼に良い印象を持たれていると思っても良いだろうか。
彼はスイスイと進み、どの方向へ向かっているのか視界が無いので分からないが、上へ跳んだ。
やはりラスボスであるなと感心。
そのまま委ねていると見慣れた光景があった。
海の地平線。
外へ出たのだと知り、安堵の息を吐く。
ローは当然のように海の上をスマートに歩くので、凄いと興奮した。
海の上を歩くのは一つの憧れなのだ。
おお、と興奮を隠しきれずに周りを見る。
凄いよロー、と声をかければ彼は呆れた目で見てきた。

「さっきまで襲われていたのに切り替えが早いな」

「だって危機は脱したでしょ?それともあの人は追ってきてるの?」

彼の不安を煽る言いように顔が曇る。
しかし、相手の答えはNOだった。
追ってこさせるようなヘマはしないとのこと。
聖獣に攻撃されてまんまと昏睡したのに良く言い切れるなと思ったが、彼のプライドに触りそうだったので言わないでおく。
彼は現在ハート団というギルド内でも発言権が高いほどの信頼を得ている男である。
あくまでも表向きではあるが、この国の人達にとってはその姿が現実である。
ここは現実の方で言葉を合わせておく。
どうせ全て知っているんだろうというのは飲み込んでおいて、今は脱出しきりたい。
彼はそのままなに食わぬ顔で陸へ上がる。
危機は脱したのだろうかと何度か目の不安が競り上がる。
しかし、そこで知った声に呼ばれて後ろを向くとここにバカンス名義でやってきていた元同僚やハート達がぞろぞろとこちらへ寄ってきた。
一番初めに抱きついてきたのはヨルムである。
女性くらいしか抱きついてこれないから仕方ないにせよ、男性にも熱々な抱擁を期待していた。
別に照れる仲でもあるまいに。
それにしても、キッド達がバカンスって今考えれば可笑しい。
いくら冊子の内容でも男達が遊び場に海を選ぶのか。
否、恐らくヨルムが関係しているのだと思う。
彼女の為というのが一番しっくりくる。
いつも頑張ってる彼女の慰安ならば、可能性は濃厚ではないか。
ヨルムが大丈夫か、とか聞いてくるからローのお陰で助かったのだと言う。
しかし、治癒担当だからか、彼女が足の怪我を見つけて泣きそうな顔をする。
こんな怪我よりももっと酷い怪我を見ているだろうに。
横目でローを見ると険しい顔で団員達と話し込んでいた。
今回、利用する気であった人達を利用出来なくなったから計画でも話しているのだろうか。
リーシャはうっそりとしたその空気を感じとり、そっと息を吐き出した。
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