61
リーシャと共に勢いよく滑り出すロー。
相手の思惑は知っているか、と今ではあるが思い出した。
彼は舞台裏を知っているんだった。
うっかりうっかり。
知っていたのだから着いてきても可笑しくはないか。
それでもって対策なんて簡単に立てられる。
ローにとっては攻略サイトを見ながらゲームをしているようなもの。
リーシャは何もこの後の展開を知らないので彼に引っ付いていくしかない。
なんとも世知辛いトラブルだ。
ここにキッドも居たらまた展開も違ったのかな。
ジリジリと地面を擦られながら引きずられて行く。
ローが下なので己は擦ることはなかったが、とても安心出来ない。
ローだって短パンしか下半身に身につけていないので痛いと思う。
「ロー、ごめん……痛い?」
「半端な鍛え方してねェから痛くはない」
こちらに気を遣ってくれてるかもしれない。
しかし、ラスボスだから本当かもしれない。
――ズズズ
どちらを本当だと受けとれば良いのかはこの引きずりがなくなったら見れば良い。
どれくらい引かれていたのか、ローは瞳をぎらつかせて前方を見た。
一気に剣呑な雰囲気になる。
どうやら敵の前に着いたらしくゆっくりと滑って止まる。
とうとう着いてしまった。
どうなるのだろう、どうされるのだろう。
こういう体験をするのは初めてだからローが居ても緊張する。
知っている展開を見るのと知らない事を見るのとでは全く覚悟が違う。
まるでテスト前日に勉強してきてやるのと、全く知らない問題が出て焦るような感じ。
寝たら全て終わっていたという簡易な体質ならどんなに良いか。
「なんだ?男の方までついてきたのか」
ヌルヌルと粘着質な音と共に現れたソレ。
一見蛇に見える下半身に人間の上半身。
顔は爬虫類を彷彿とさせる。
半分ずつ違う生物だ。
とってもしなやかな筋肉をお持ちの生物で男のように凛々しい喋り方。
「犯人は半魚人か」
ローがこちらにしか聞こえない声でポソッと言う。
半魚人だったのか。
その種族は設定資料くらいにしか書いてないから詳しいことは知らない。
ツルツルした鱗があって爬虫類みたいな種族はファンタジー作品として取り入れたいと予定はされていたと思う。
だから水系統の魔法で足を拘束してきたのかと合点がいった。
厄介なのも。
水で効果が高い属性は氷なのだが、果たして彼女の魔法を止められる魔法が撃てるのか。
ローならどんな攻撃でもクリティカルヒットさせられそうだが。
「ちっ。おい、人間」
友好的でもないし、嫌悪感も感じ取れる。
「話しかけたのに答えないとは生意気だぞ」
誘拐された被害者になんという無茶を言うのだコイツ。
「なん、でしょう」
刺激しないように丁寧に言葉を選ぶ、が相手は快く思ってくれない。
眉をピクッと上げて不愉快に歪める。
「口の聞き方に気を付けろ。我は人間が嫌いぞ」
じゃあなんで誘拐した。
なんで、答えろって言ったの、ねえなんで?
「すみませんでした」
ここは従順なふりでもしとけばこのめんどくさいオバサンも優越感間違いなしだな、うん。
納得したものの、このままいけば確実に何かしらの攻撃をされるのだろう。
簡単に分かる事が想像出来て背筋が凍りそうになる。
冷や汗だって流れる。
「物わかりが良いな」
そりゃね、捕まってるんだし。
嫌でも従うしかない。
しかし、ここに従いそうにない大人が居た。
「ここから解放しろ」
そうですよね。
ローは最強なのだから従う理由なんてない。
しかも、団長だし。
プライドも人一倍で命令が何よりも嫌い。
「口を開くな劣等種」
負けず劣らず、半魚人も宣う。
「この女がどうなっても良いのか?」
と、こちらにまだ巻き付いていた水のヒモが急激に絞まりをキツくする。
「ぐ!」
「!……チッ」
ローは呻く声に反応し忌々しそうに舌打ちをする。
それ以降に文句など出てくる気配はなく、拘束が緩んだ。
「ぜってェコロス」
小さい呟きに玉の汗をかいたまま上を見ると見たことのないハイライトの消えた虚ろな瞳で半魚人を見ていた。
これが裏の顔なんだ。
「これごときでその女を気にかけるとは」
彼女はまたギュッと強く締める。