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- ナノ -
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今頃陸では捜索でもされているのか。
それとも気付いていないのか。
もし、己だけが被害者ならハートの人達は事件をなかったことにしたいかもしれない。
ここまで努力して互いに信頼を築いてきたつもりだが、急に強烈な不安が胸を押してくる。
その信頼は紙一枚のペラペラな薄さであるならば?
彼らは裏の顔を隠して人気を得ている。
そこに真の人情などなかったら?
それはそれこれはこれと割りきられて、捨てられても可笑しくない。
ハート団の顔はローだ。
ローがリーシャを見捨てると言うのなら彼らも従う。
キッドやキラーは見たままの仕事をしていて、そこに隠し事やらはない。

「ダメ」

今ここで疑心暗鬼になっている。
そんなの理不尽だ。
どこも平等ではない。
彼女達とあまりにも土俵が違い過ぎる。
考えないように蓋をしていた気持ちがどくりどくりと膨れ上がれば、お仕舞いなのに。
嫌だ、醜い気持ちが今にも。

「震えてる。寒いのか」

彼はこちらの気持ちに関係なく、指先で炎を宿す。

「ダメっ。火は敵に場所がバレて……おまけにローまで魔力を消費してる」

罪悪感もせめぎあい、ローの指を隠す。

「これくらいで魔力は枯渇しない」

ローのキスには疑心暗鬼にさせる作用でもあるのかもしれないと思わず思った。
そんなわけもない。
そもそもロー達はリーシャの事を紙の中の情報くらいしか知らない。
疑心暗鬼にさせる必要はないのだ。

「お願い、やめて。ローに何かあったら私」

思わず口をついた言葉。
しかし、本心だし。
気持ち悪いかな。

「シャチ達に申し訳ないよ」

これなら気持ち悪くない。
いつの間にか包んでいた炎は消えていた。
顔をあげるとぶつかったのは違う熱を宿す瞳。
消してと頼んだのに。
違うところを燃えさせては意味がない。

「海に引きずり込まれる時」

会話が噛み合わない。
さっきの会話と繋がらない突然さにえっ、となる。

「肺に水を入れた」

それはローの話だろうか。

「お前だ」

そんな記憶もないし、肺に水が溜まっている感覚だってないのだが。

「え、そう、なの?でも、今はそんな、こと」

戸惑う。

「今やっとかなきゃ後々肺炎になる」

脳裏に描かれるのは医療用のマスク。

「でも、今は」

「人工的に空気を送り込む」

今は医療機器がないから。
話を聞いていない上に未曾有の展開に手汗がヤバい。

「あの、でも、今は」

何度も繰り返す中、ローにギュ、と抱き締められた。
体に押し付けられて彼が水着のせいで胸板が。
オーバーフローしてしまいそうだ。
オーバーフローの意味が分からないけど使っている。

「な」

また急な展開にシナリオ特別冊子の強制イベントやべえ的な感想がひしめく。
その態勢で顔をあげさせられて上から徐々に距離が近くなる。
こんな時なのにドキドキしてる。
急がなきゃならないのに。
一ミリ一ミリと近付く気配に目が潤んでくる。

――ビュルッ

――ペト

「へ、ああ!?」

足元が急激に上へ上がり後ろから引かれる。
襲撃だと気付いたがローにも引っ張られている体勢なので間抜け。
しかも、向こうから引っ張られている力が凄く強いので当然痛い。

「いい!」

痛いと言葉にならない呻き。
ローは舌打ちする。
すまない、お荷物なせいで。

「ああああ!」

痛みに呻く中、ローだけでもなんとか逃がさねばと思う。
このままだと共倒れだ。
ローだけならなんとか逃げられて助けも呼びに行けるし。

「ロー、ロー、手、離して」

「ふざけるなっ」

「助け、呼んで……ああああ!」

もう無理千切れるマジ。
叫びでローも限界だと悟る。

「捕まっとけ」

手を離す事を望んだのに彼がした行動は共に連れていかれるというもの。
なんということを。
相手がどんな思惑で拐ったのか不明なのに。
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