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キラーと話し込んでいると急に何かがギュイインと高速で飛んで来た。
直撃するかと思いきや、キラーがスッと間合いに入り弾いてくれる。
脳震盪でも起こしてしまって倒れるまでを想像していたから良かった。
「うわ、キラーさん大丈夫ですか?」
「ああ」
キラーは前を見たまま答える。
「随分と小粋な真似をしてくれるな」
リーシャにではなく、違う人に話しかけている様子。
前方はキラーでいっぱいなので誰に向かっているのかわからない。
「手が滑っただけだ」
おっと、この声はローだ。
多分。
「それにしては、当たっていたら只ではすまなかったぞ今のは」
確かに、転んでいたと思う。
「もう話は終いならその女をこっちに寄越せ」
スッゴい悪党な発言した。
いや、スッゴい悪党なんだけども。
「女を物扱いとは感心しない」
「傭兵が倫理観語ってんな」
ローがキラーを詰る。
しかし、その挑発に乗らないのは流石。
「あの、キラーさん」
「あいつはああ言っているが、おれのことは気にしなくて良い。行く必要はない」
か、かっこいい。
――ゾ
背筋に氷を入れられたような衝撃が走る。
見てはならないと本能が赤色を点滅させた。
見たら食いちぎられること間違いなし。
「キラーさん。あの、私は」
「問題ない。お前は気にしなくて良い」
もう言っても良い?
すげえイケメン。
シナリオ書いたやつは絶賛されても良いと思う。
キラー派はちょろりと居たか、いかんせんあまり話さなかったキャラ故に、素敵さが伝わらないという。
リーシャも深くは知らなかった。
――スン
夕闇のどろりとしたものが空気を撫でる。
「おい、てめェ」
キラーにかけられたのでない、己にかけられた獣の吐息。
急所を噛まれるかと錯覚してしまう。
「なん、でしょう」
喉がひきつったものの、辛うじて呼吸出来た。
濃厚な殺気。
「……好きにしろ」
そう良いながらも凄く言いたげだ。
今すぐ骨をしゃぶられそうなくらい。
変な例えかな?
「好きにしまーす」
小声で宣言すると鋭利な視線で射ぬかれた。
好きにしろって今言ったのに酷い。
キラーに行きましょうと誘う。
ああ、とキラーもローを一切気にすることなく海の家のアイスキャンディ方面へ歩き出す。
「アイスキャンディ下さい」
ならばと選び、アイスキャンディを受け取る。
そして、ローの方へ歩く。
キラーも分かっていたのかこくりと頷いてくれた。
すげえ最高。
空気も読めるイケメン。
ごくりとなる空気に我慢してローの方へススス、と近寄る。
近寄れば分かる。
凄く不穏な空気になっていた。
アイスを渡す前にこの世が太陽に焼きつきそうな程の剣幕を感じる。
やはり、ローを憤らせてしまったらしい。
原因が己だという程自惚れてはいなかったが、流石に分かる。
「あー、アイスを買ったんだけど……誰か一緒に食べてくれないかなぁ?」
ローが反応しないので仕方なくキラーの方へ行こうとした。
だって、このままじゃ溶けてしまう。
タイムリミットもそれほどなかった。
――ギッ
「!?」
黒いヒモにアイスを奪われ驚きに固まっていると、それをした犯人がこちらへ話しかけてきた。
「まどろっこしい真似をする前にもっと賢い行動しろ」
なんのことかさっぱりだ。
ローが奪ったのだと知り、こういう魔法もあるんだなと感心。