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リヴァイアサンに攻撃が直撃してドゴンと海の中へ落ちる。
海で怪我を治されたらどうするんだろうと不安になる。
「お前ら」
ローが団員達を見て顎で示す。
すると、団員達は頷いて海へと潜る。
まだ倒せてないかもしれないのに。
慌てて彼らを引き留めようと走った。
しかし、浅黒い手に止められて叶わぬ。
見上げると太陽の光に照らされているからか、影になっているローだった。
まさか本人が引き留めにくるとは思わなかった。
「?、あの、なに?」
「解体作業をさせるからお前まで入る必要はねェ」
そう言われて脳裏にハート団の裏プロフィールが浮かぶ。
彼らは普段、自身の能力を隠して実力よりも押さえて行動している。
なので、解体作業の手並みを見られるわけにはいかない。
そこまで思い出して、眉を下げる。
「でも、まだ生きてるかもしれないし」
彼らが襲われるかもしれない体を装う。
聞き分けが良いと怪しまれるし。
しかし、ローは腕を放すことなく陸へ戻る。
やっぱり見られたくないらしい。
「手応えはあった。出る幕はない」
ぱしんと言われもう何も言い返せる材料はない。
大人しく海の家に行く。
まだ正式に着替えてもいない。
ハプニングがあったからこれから海に入るのだ。
ローに手を外される。
掴まれた腕が何故かごわごする。
気恥ずかしいのかな。
今さらローに触れられたくらいでそんな気持ちになるなど。
「私、着替えてくる」
そそくさと移動する。
なんせ、顔が見られないのだから。
「待て」
呼び止められるとは思わなかったが無視して更衣室に飛び込んだ。
「そこは男だ」
「いやあああああ!?」
ウーマンかリーマンかを確認せずに入った自分がとことん悪い。
なんとか女の方で着替えを済ませて漸く更衣室から出る。
その頃には先程のように変な感情も湧かなかった。
きっと、一過性のものだろう。
乙女特有のホレッポイ気持ちだ。
ちょっとなんかあるとチョロくなる。
二次元に生きると直ぐに他のキャラに浮わついてしまうので納得。
一時はちょい悪なキッドも良いかもと語り合ったものだ。
勿論、ほぼ悪役である登場人物達には一通り浮わついていた。
でも、実在しないんだからどれ程思っても自由なんだ。
他の仲間達だって同じようなところあったし。
「お、来たか」
出ると直ぐ入り口にペンギンが立っていた。
他の子達は見当たらない。
「どうしたの?」
「連れてきたり誘ったのに放置するのは失礼だからな」
「!……常識持ちは宝だ」
うっとりとペンギンを見る。
「うっ。それはそうと。日焼け止めは塗ったのか?」
どことなく気まずげに答えた相手。
いいや、日焼け止めは塗ってない。
「塗ってくれるの?」
そもそも日焼け止めさえ持ってきてない。
ファンタジー世界だから焼けないのではないかと勝手に思っていた。
「おれが?まさか!」
ははは、と笑う。
恩を忘れた笑い方しやがる。
「ペンギン、私は鬼になる。貴方に塗ることを求めまーす」
そんなに嫌なら嫌がることしてやる。
「あ?するか」
しかし、拒否権などないのだ。
「拒否出来ないのこれは。塗って、ほら、ほら」
背中を向けてぴたりと彼へ求める。
「いや、あのなァ」
「いや、塗るのっ」
――ドババババ!
「!?」
突然空間から大量の水が落ちてきた。
いや、これはしょっぱいから海水だ。
びしょ濡れになるまま、思いきりのある水圧。
鼻に入った。
「ごほっごほっ!ごほごほっ」
「あーあ」
ペンギンは呆れた声で大丈夫かの一言もない。
軽い言い合いによる攻撃ならペンギンは大人げない。
酷いなこいつ。
まるで他人事だ。
「もーなに?」
「そんなに塗りたきゃお前が自分で塗れ」
ペンギンは二歩下がっている。
ローが手前にいつの間にか出現していた。
もしかしてこの水圧攻撃は。
「なにすんの」
「くだらないことを言っていたからだ」
「くだらなくないって。じゃあローが塗って」
誰でも良い、この際。
「は?」
呆気に取られたのはペンギン。
ローはあまりの発言に絶句。
しかし、結局どちらかにさせる。
水圧の謝礼ってやつだ。
「ほら、塗って。あ、タオルで拭いてからね」
塗れた体で塗り込むのは困難。
ペンギンがさすがにと声をあげようとするがそれより先にローがタオルをリーシャの体に押し付ける。
「そこ座れ」
女に奉仕するとは想像もつかぬローにペンギンが驚きに見る。
「うん。座る」
リーシャは後ろを向いていたので雰囲気を掴めなかった。
そして、ペンギンはここ最近機嫌の悪いローが空気を凍らせていないのに気付きソッと離れる。