02
生臭い、生臭い!
生臭い。
それしかない。
やることもない、わけではないが、肛門から出ていきたくはない。
あと、出た時に飛んでいたら瀕死は免れない。
恐怖とあれやこれやと考えているといきなり浮遊感と落ちる感覚にめちゃくちゃ暴れた。
「うおー!?」
魚に食われながら可愛い声など出せるわけもなく、雄叫びを出しながら落ちていく。
え、落ちてるんだよね?
真っ暗だから分かんないけんども。
鈍い感覚と地面に落ちたのだろう感覚にドキドキしているとヌメヌメと共に体が外に向かって出る。
「は?人だァっ!?」
叫びは上から聞こえてきて、ん?と思っていると体が柔軟に動かせるようになった。
急いでヌメヌメを顔から取る。
もういやー!
「うっ、う!」
気持ち悪。
漸く目を開けられるんだと太陽の光に眩しさを感じゆるりと開ける。
数人の男達と目が合った。
皆無言。
この世界の人はいつから無口になったのかな。
もしかして人が魚から出てきただけでそんな態度になるというのかね?
ん?
黒い暗黒の気持ちが湧いてきそうになるが我慢する。
「こんにちは」
挨拶したのにしてくれない。
なんて人達だ。
「こ、ん、に、ち、は!」
「いやいやいやいや!?」
突然叫んだ一人が、まるでコントのように言う。
「意味わかんね!」
「なんでこんなとこから出て来てんだよ!?」
そ、そんなの!そんなのこっちが聞きたいわい!
好きで魚の粘膜にまみれてるとでも思ってんのか、ああ!?
内心キレッキレながら、ここで切れても仕方ないので隠す。
「乗り合い馬車に乗ってたら襲われたんです」
荒ぶる心よ、静まれ。
キャスケット帽子にサングラスをかけた、どこか見覚えのある男が突っ込んだ。
「フィッシュキングは雑食だぞ!?いや、今はそんな事はどうでも良い!」
確かにどうでも良い。
お風呂に入りたい。
ベットベットだもん。
「生臭い」
誰かがポソッと言ったのをしっかり聞きましたよ。
あーあーあー、言ったな、言ったな。
「乙女に向かって生臭いとか言ったな」
あの男だ。
「生臭アタック!」
魚の中で編み出した新技、しかと受けてみよ。
――ヌペッ
「うわあああ!?」
「こっちきた!」
「やべ!?」
周りから人が居なくなる。
まるでバイ菌みたいな扱いだ許さん。
「待てぇええー!」
こうなったら同じヌメヌメにしてやる。
ふっふっふ。
ぎゃーぎゃーと騒がしい一角がこうして出来上がった。
――ハアハア
息遣いが出来上がった頃、ヌメヌメを擦り付ける行為は大体終わった。
「お、おれらのこと、し、しらねェな」
行きも絶え絶え。
「うん。知らないね」
知っててもぬめらせたけどな。
「ハート団っ」
ぜぇはぁと吐く一団がまさかのお目当てだったとは。
「へェ」
空っぽな返事をする。
それがどうした案件だったし。
シナリオを手掛けたこちらとしては家族レベルで色々知っているし、寧ろ、恥ずかしい過去まで知っている。
まぁ、そのキャラクターだけだが。
「おま、そんだけか?言うことそんだけなのかっ?」
唾が飛ぶように叫ばれ、どうしろと。
「女に生臭いとか言う男だし?これ以上態度を改めろと?無理!」
ふふん、とどや顔する。
「もうぬめりさせただろ、おれらを!」
確かに体に付着している粘液は魚のものだ。