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今そんな状況なのではないか。
「先ずは誠意としてローから黙るのが紳士のやるこふぎゃ」
――トン
最後まで言えない。
壁にカラダを押し付けられている。
痛いけど呻く程じゃない。
え、やばくないか今。
「なに?え?なんなの?」
混乱している。
これヒロインがされるやつ。
「口塞ぐぞ」
手を頭上について、もう片方は肩をわし掴んでいる。
これっていわゆる壁に追い込んでいるやつじゃね。
うっわ、まじで。
フィクションの世界だけかと思っていた。
「やめて離して」
ポーズの意味で嫌がっておく。
良いよ、とか言って相手の興が冷めるのは嫌だ。
「へんたいっ」
あ、言うつもりのなかったこと言っちゃったー。
その言葉に凍らされたかのように固まる男。
もしやこういう類いのを言われたことないとか。
ぬーん、あり得る。
「へんたいっ」
反応が面白くて二度言う。
「おれが変態、だと」
「他になに言われると思ったの?」
寧ろ通報されないことに感謝してほしい。
しても勘違いの痛い女と決めつけられて村八分にされるだけだろうけど。
ハート団のトップだから信頼も厚いのだ。
どっちを信じるかなんて分かりきっている。
「ねえ、なんで怒ってんの」
「怒ってねェよ」
「いいや、怒ってる。誰がどう見ても怒ってる。怒ってないのにこうやって人を壁に押し付けるの?」
冷静になれば己を試みて何をしてきるのか自覚してくれ。
「ねー、教えて?」
お姉さんっぽく言ってみた。
うるっとした瞳とか出来ないけど、話しやすい雰囲気にする。
「お前を見ていると腹の底が煮え立つ」
「え!私の事そんなに嫌ってたなんて」
泣きそうな事を言われた。
泣かないけどね。
犯罪者がそんなこと言うことなんて予想していたし。
なんなら生ぬるい事を言うことを警戒せねばならない。
「もういい」
何が。
「行け」
「えー、結局なんだったの?自己完結しないでよ」
呆気なく解放された。
こちらが肩透かしだ。
「気にするな」
「いや、んなの無理っ。そういうのダメ!」
人に迫っといて今さら解放しますとか。