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話題を出したというのに、ローは急に眉を下げた。
険しくなる視線を受け止める。
彼の瞳は澄んでいるとは言いがたいが、強い何かを秘めている気がした。
ずっと見てみたい。
ジッと覗き込み続けていると自然と無言になる。
「瞳、私が写ってる」
彼の目にはリーシャが存在していて、自身の眼の中にも彼が存在している。
ゲーム画面で見たことも、見ることもあった彼。
やはり、奇跡だ。
一言呟くと男の目が徐々に開いていき、僅かに驚いている顔になる。
「あれ、何か言いたそうにしてたよね?」
いつまでも語ろうとしないので問う。
「お前が……言わせていないだけだ」
怒った空気で刺々しい。
「え?」
「なんでもねェ。構うな」
ふーん、何か言いたそうにそわっそわしてたのに気にしなくて良いとは、なんとも思わせ振りである。
病人に対してそわそわさせるのも如何なものか。
でも、ローだから仕方ない。
ゲームでも本心を見せないキャラクターなので、ヒロインでないリーシャに本心を見せてくれとは言えまい。
しかし、面白い。
ローが部屋に来て目覚めたら居ましたとか。
「そうなんだ」
彼の性格故に流しておく。
魅力溢れるイケメン。
妖艶な感じが伝わってくる。
若くともありだ、あり。
「あー、なんかしんどくなってかたな〜」
「何が望みだ」
ちょ、言い方!
「水飲みたいな」
「飲め」
「はやっ」
コップも水も瞬時に出して、瞬く間に渡される。
こういう所は持ってくるまでも楽しむものなので、パッと出されるとね。
なんか、ちょっとアレだ。
「ありがと」
優しい、とむにむにと微笑む。
勿論心の中で言う。
言葉にしても良いけれど出ていかれるかもしれないし。
照れ屋さんですね、分かります。
「ぷは。あ、美味しい」
「ただの湧き水だ」
「わー、新鮮なの汲んできたんだ。冷たくて熱い体がマシになる」
湧き水だ、とか言ってるけど普通水道水使う。
でも、わざわざ湧き水という敢えて手間のかかるだろう所から汲んできたところに萌える。
萌え殺すきかこの人。
優しさが若干散りばめられている。
「食え」
皆が買ってきてくれたという店の食べ物も渡される。
お腹空いてるけど食欲はないんだよなぁ。
どうしよっか、と悩む。
「後で食べるよ。もう一眠りしたい」
「今食え」
あろうことかぐいぐいと頬に押し付けてくる。
タレが付着したんですけど。
なんて、物理的に押しに強いんだこいつ。
病人汚してどうする。
「やだ。タレ付いたじゃんっ。拭くもの取って」
手で拭うなんて被害を拡大させるだけだ。