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「#エロ」のBL小説を読む
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逆だと言われ密かにあれは褒め言葉なのだろうか、というのをなんとなしに考えていれば、クローゼット越しにやんややんやという賑やかな宴会の音が聞こえてきた。
このダッカー海賊団はハートの海賊団と比べると縦社会だ。
それは人の性格ゆえというのもあり、人数が多すぎるというのがある。
だから、ハートに比べて纏まりが良くない。
他の海賊団と退治しているときは敵が共通なので一致団結出来ている。
けど、それだけだ。
しょっちゅう喧嘩や小競り合いもある。
小さな海賊団を集めて巨大にしたのだから。
それについて、ダッカーは血の気が多いのが海賊だから、とでも言う風に傍観している。
しかし、リーシャから言えばそれは立派な役割のサボり、怠慢だ。
纏め役がなにかしらの調整やガス抜きをしないと爆発したり調律が上手くいかなくなるのは海賊の世界だけの話ではない。
まだ仲が良かったりするのなら各自でやるだろうに、無理な話だ。

――ギィ

――コツコツ

「?」

クローゼットに隙間が生まれるのと足音が間近に聞こえたのは同時。
上を無防備に見たけれど、部屋が暗いのであまり人相が分からない。
辛うじて人だと言うのは分かるのだが。

「またクローゼットか」

この声は最近まで慣れ親しんだもの。
ローの声音に驚いた。
甲板で宴をしていると思っていたし。
その中心はローだろうし。
抜けたらいけないという先入観で、ここに現れるのはあり得ないと断定していた。

「さっきぶり」

なんてことはないと応えた。

「お前はなんで一番の功労者なのにこんな辛気くせェとこに居る」

彼からしたら宴の席に居ないのは考えられなかったと言わんばかりだ。

「それについてはごめんなさい。居ない事で気を使わせて」

「まァ、お前が派手なのを好む事はないと知ってたから、出ないのもありそうだったからな」

ローは短期間でも側に居たから気にかけてくれているのだろうか。
性格を短期間で理解してくれているというのは大変有りがたい。
しかし、出ないと分かっているのにどうしてここに居るのだろうか。

「ダッカーんとこの船の女どもが鬱陶しいんでな」

ああ、確かに、ダッカーに媚を売るという事を平気でする人も居るから。
モチロン、有望株のローに目を付けて言い寄るのもあるはずだ。

「でも、貴方には船員達が居るから防壁してもらえば良いと思う」

皆ローの慕いっぷりを見るにやってくれるだろう。

「くっ、そうだな」

あ、なんか笑ったのを初めて見たかもしれない。
少し可愛いと思ったのは秘密。
あどけないとは正反対だが、暖かくなる笑み。
船員達を見ている時もこんな顔をするのだろうかと想像する。
しそうだ。
とっても優しく本人的に柔らかく態度で示しそう。

「戻らなくて良いの?あ、トイレ?」

お酒を飲んだのなら場所を探しに来たのかもしれない。
それなら、それくらいなら案内してあげられる。

「トイレなら自分とこでする」

違う、と言われて首を傾げた。
クローゼットに住む面白味もない場所に来るのは何か用があるとか、なのだろうか。

「どうしているのか、気になった」

「私を?」

信じられないが、そこはやはり僅かでも同じ船で暮らしたのだから、気になるのだろう。

「何もないクローゼットの中なのに、変わってる」

「お前がそれを言うのか。構うな。おれは好きでここに居る」

また笑いそうな空気に、若干気恥ずかしさも加わる。
おもてなしも満足に出来ない。
もどかしい。

「紅茶、飲む?」

お酒だけじゃ喉を痛める。

「いや、いい。お前も知らない船にずっと乗って疲れたろ」

いやいや、ダッカー海賊団だって場所を間借りしている不馴れな空間であるからどっちも同じ。

「ハートの海賊団は団欒で暖かくて、居心地良かった」

「あいつらと波長が合ったんだ。こっちもお前で良かったと思ってる」

そうなら嬉しい。
安眠させてもらえなかったけれど、皆世話焼きで、目まぐるしかった。

「色々、ありがとう。お礼を言うのも変だけど」

思い出はとても鮮やかで繊細だ。

「確かに変だな」

フッと笑ったように見えたが、真っ暗で見えない。
ローの笑う所なんて想像出来なかったし、さっきのも見間違えかもしれないのだ。
頻繁に笑みを見せてもらえるとも思わない。

「お前はこれからもこんな風に過ごすのか」

問われて、当たり前だと頷く。
功労者と言われて担ぎ上げられるのは真っ平だ。

「もったいねェ」

派手に触れ回るのがもったいなくないのなら、もったいなくて結構だ。

「目立ちたくないから」

「だろうな。だからあいつらが必要以上に構いたくなったんだろう」

ローの褒める内容に、なんだか競り上がってくる気持ち。
むずむずとするそれに、蓋をする。

「ほら、主役がいつまでもここに居てはダメ。甲板に行って同盟相手を接待しないと」

「同盟はそういうノリのもんじゃねェ」

うーん、そういうやつだと思う。
何度か説得して漸く去っていった。