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引っ張った先にあったのは洋菓子の生クリームたっぷりのものだった。
甘くて美味しそうだったそれをぱくりと食べる。
二口と食べていくとローも同じ様に隣で食べた。
嫌がると思っていたら、そうでもなかった。

「美味しいですね」

「ああ」

ローは真顔で同調してくれる。
彼女なので女友達に見えてくる。

「船長さん。食べたらどうします?」

「華のメインストリートに行く」

ローが今の体で言っても無駄では?
しかし、思っていたのと違う展開になった。
入ったらローに客の男性の視線と、ローに声掛けという事案が発生した。

ヒイ!

喉から絶望が出た。
ローに!声を!かけた!
しかも!エロい声掛け!

「なんて美人……君は……いくらですか?」

敬語だろうと下世話な視線と内容は隠せない。

「やめてください。私達は観光客です」

こういうときは私の出番。
こういうから守るためのもの。
そのためについてきたんだがら。
勇気を振り絞って庇う。

「あァ?」

ローと比べ物にならない冷たくて見下した声。
明らかに私をバカにしている。

「邪魔してくれるな。あっちに行きな」

どう見ても連れなのに、よくそんな態度に出られたなー。
逆に頭が冷えた。
今にもこちらになにかしようものなら、相手の男がどうなるか。

「失せろ」

そう言ったのは男ではなく、女のソプラノ。

「なんだと……!」

男はカッとなっているらしく顔色が変わる。

「頭まで悪い癖におれに声をかけるな」

凄む顔はキレイなのに怖い。
そこは男であろうと変わらないが。

「く」

男はローの威圧に耐えられずスゴスゴ逃げていく。
見送るが、直ぐに男の集団に取り囲まれる。
本人は「なんだってんだ」と要員が分からなかったらしいが、私には分かる。

(女体化した青年が美女になる。お約束だ)

男達は危険な香りがする蝶のフリをしたドラゴンにふらふらと近寄ってきている。
ローはプロポーションだけではなく、雰囲気にもこの辺にない女の人に見えるのだ。
危険な橋を渡りたい男達が来るのは、あわよくばと、それでもいいということか。

私は男なので推察もここまでしか無理だった。
男心も女心も差はそこまでないような気がするけど。
男達に囲まれては蹴散らす。
眼光で退散しない人には刀を見せる。
しかし、猛者だって居るわけで。

「華の街の領主の息子まで」

たまたま視察に来ていた領主の息子。
七光くんはローに一目惚れしたのだと。
まさしく目で惚れた。
そこに中身を見ようという確認を早く追加してくれ。

「どうか私の妻に」

「無理だな」

問答など愚問と切り捨てる。
うん、そのとおりだ。
彼は変身してても男だから、結婚は不可能。

それよりも男に求婚された不快感にローは男を切ってしまおうと考えていた。

「おれの妻になれば富も権力も手に入る」

残念ながらあるんだよね。
全部。
名声まであるし。

「うるせェ男だ」

女声でズバリというので領主の息子は驚き顔を赤くする。
領主の息子という立場なのに沸点が低い。
男はローの手を掴もうとし動いた。

ーードス

ーードタッ

ローが男を突いて転がす。

「貴様!アウシル様を!」

「捕らえろ」

護衛の男達がローへ襲いかかる。
馬に乗った護衛が居ないので良かった。
居たら乱闘も更に激しくなるから。
でも、戦いは困る。



「うぜェ」

「ぐは!」

男はいとも簡単に跳んでいく。
刀を使うまでもなく伸してしまう。

「強い……!」

「なぜ……?」

「く、領主様、お逃げにッ」

護衛達がそう告げるのに領主の息子さんはよたよたとローの所に這っていき目を輝かせる。

「……ひえ」

アウシル、なにかに目覚めた。
気持ち悪さに後ずさる。
ローの顔は気持ち悪いものをみる目をしていた。

「妻が無理ならば、うちに泊まっていかないか?」

護衛が後ろでうめいているのに、構わず攻撃してきた人を家に招く神経よ。
護衛に悪いと思えって感じ。
無駄に受け身したってことでしょ。

「りょ、領主、さま」

「その女は危険です」

「ええい!煩いッ」

領主の言葉に悔しそうに俯く。
ローは鼻で笑って男を避ける。
リーシャに行くぞと進む。
護衛たちに不憫な視線を送ってからローの後ろに付いていく。

「良かったんですがね。あとを追いかけてきませんように」

「追いかけてきたら今度は切り刻む」

「お願いします」

あの人なら切り刻まれても気にならない。

「フフ、任せろ」

男は薄く笑う。
ブリザードが吹雪いている幻影が見える。

「華の街なのに興がそがれちゃいましたね……ここで泊まるんですか?」

「こんなところに泊まったらなにかを無くして朝を迎えそうだ」

船で泊まるのだと。
華の街なのにローが女だから本来の楽しみが出来ない。
船員達ともここへ来ても違う扱われ方するわけだよ。

「女でも女性を指名出来るんですから、してきたらどうですか?」

「女扱いされて終わりだ」

ローはうんざりした様子。
リーシャはふふ、と笑ってしまった。



ローとメインストリートを歩いていると辺りが暗くなってきた。

「この街の本番が近付いてきたな……寝に帰るか?」

普段とてつもない出不精なので、ローに気遣われて問われ、こくりと頷く。

「知らない人についていっちゃ駄目ですよ?今の船長さんは美人なので」

「ガキじゃないから付いていくわけないだろ」

私は胸が大きいのは見ていて羨ましいが、好きでもある。
その胸に飛び込みたくなる気持ちは分からなくもない。
誘惑に負けてしまうとローに切られる。

「そんなに気になるなら……風呂は一緒に入れば良い」

なんて、女の顔で流し見てくる。
反射的にごくりと喉が動く。
やだなぁ、喉が乾いたから動かしたんだよ。

(それにしても、女でもこの色気)

色々負けた。
もとから負けてるからもっと遠くなった。

「いくら船長が女でも心は男。アウトです」

「ダメか」

残念そうだが、ローは男なので当たり前である。

「それよりもあの人達に付き合えば喜ぶと思います。今のアナタは女の人ですから」

「入るのは良いが、切らねェ自信がない」

舐めるように見られること必須だろう。
切らないでは居られない気持ちは分かる。

ローがどこまで行くのかは知らないが、と付いていっていると立ち止まったのは男の人が居る区画。
つまりは女性達が利用するところだ。
結構歩いた。

「ま、まさか……」

なんとマニアックな。
よち、と足元がふらつく。
ローは勘違いするな、と睨みつけてくる。
疑われるのが嫌だったみたいだ。
説明してくれれば勘違いなぞしなかったのだが。

「入るぞ。お前の為に来てやった」

「わわ、私!?」

必要なんて言ってないけど!?

「海賊らしく遊べ」

「ひ、嫌です!」

逃げようとするがローに手を引かれて強引に参加させられた。





楽しかった。

思ってたのと違って、ただお話とかしてくれた。

あれ、じゃあ、ホストクラブ……。

海賊の居る時代版じゃん。

「どうだった」

「むっちゃ楽しかったです。また行きたいかも、です」

「お気に召したようで」

ローは茶化すように言う。
そうはいうが、ローはホストクラブin女体はかなり男性が横を取る為に争ってたけど。

私なんて義理レベル。
1人.2人がちょこんって座って。
裏で絶対ローを巡って言い合いが発生しているよ。

「ローさんはひたすら飲んで食べてましたね」

男達に愛想を良くするはずもなく、いつものように無表情で無視をして時間を潰していた。
つきてきてくれたとの言葉はマジである。

「なにが悲しくて隣で男に口説かれて喜ばなきゃなんねーんだ。おれは男だ。忘れるな」

忘れそうになるくらいのプロポーションなんだもん。
正直、嫉妬しまくってるし。

「その大きさが欲しい」

ほぼ掠れた声でローへ唱えて、暗くなった空を見た。