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ローの部屋に枕を忘れたので取りに行くと、中にその住む男が居た。
見かけなかったからもしやと思ったが。
戸を叩き声をかけるとすんなりいれてくれた。
枕を忘れたのだと簡潔に述べて潜りこもうとすると、視界に彼の手に握られたきらりと光るコインが見えた。
そういえば彼の趣味だったなと古くておぼろ気な脳内記憶が浮かぶ。

「昔、私も記念コインとか買ってた」

「大体土産屋にあるからな」

「そして地味に高い」

そう結論つければローはくるりとコインを回す。

「場所は挟めばとらねェ」

「切手とかも他の人が集めることが多かったな。あ、枕」

「……寝るのに忙しいのか?」

ニヤッと分かりきったことを聞く男。
モテるのに女に興味がなさそうなところとか、ポイント高く感じる人多そう。

「うん。忙しい」

彼のふざけ口調に乗り、頷くと今度はくすくすと喉を震わせる。
なにがそこまでツボに嵌まるんだろう。
男は気が済むまで笑うと次は立ち上がる。
食堂へ行くぞと声をかけられて嫌いなものを見せられた顔を反射的に浮かべた。
そんなに嫌なのかと今更なことを言われ、ムッとする。
酷い男だと内心ふてくされる。

「機嫌を治せ、特別に良い布団を買ってやるから」

「え?布団を!?」

最高級の布団を思い浮かべて悦に浸る。
それならば飛びきりを選んでもらおう。
こちらの弾けたような笑みに喜んでもらえたようでなによりと受ける。
良く好きなものを理解してもらえていることは大変嬉しいです。
良く見ていてくれていることだからね。
るんるんと食堂へ一緒に赴くと船員達の驚いた顔が見えて、すんなりここへ来ることが珍しいことを窺える。
そんな視線をものともせず、しゃなりしゃなりと進む。
普通に着席するとローのとなりに座っていることに気付き、ちらりと団員達を見る。
ここへ座りたい人は居るんではなかろうか。

ローが好きでこの海賊に入った人達だけで作られたものなのだ。
年期が入っているに決まっていた。
黙って立とうとしたら横に居るローに腰を強く締め付けられて固定される。
どういうことですか!
いたいですっ、ていうか。

「何故に」

「ここに座らせとかねェと誤魔化すだろ」

今までの行いでそう予測されたのは少しショックだ。
まぁ反省はしないが。
結局圧を真横から受けての食事となった。
寝たい気持ちがあって、食がおざなりになるのは生態である。
ご褒美に良いものを約束通り買ってもらえて、ご満月になった私は早速移動して寝た。
快眠過ぎて質良いものを使うと良いのだとほくほくした。

明くる日、どこを寝床にしようかと吟味していたら遊びに興じていた団員達に捕まりお喋りの相手をさせられた。
ここの人達には賑やかだ。
暖かいなと思う。
それはローの人徳もあるのだと思っている。
ふわふわと聞いていると団員がローはお前に甘いよなと疑問な事を突然言うので首を傾げる。
どこら辺が甘いというか?
もしや船長は砂糖で出来ていて、というファンタジーなことを想像する。
この世界だと妄想も現実としてあり得そう。
唯一の女団員である姉さん、イッカクも途中から入ってきて、なにやら盛り上がる。

良く人の感情を想像してにやけられるなとメインの話にされているこちらとしては違う話題に移行して欲しい。
流し聞いてもやはり気に入られているとか、拐ってきたもんな、という証拠が積み上げられていく。
気に入られているにしては扱いが雑くないか。

「なに話してる」

クールなイメージを持たれやすいかもしれない男、トラファルガー・ローが部屋に入ってきて皆テンションが上がる。
船長船長とムーブ。
うんうん、分かったよ。
長年共に居るのにその気持ちを持ち続けられる熱が凄い。
ローがアイドルなら彼らはコアなファンみたい。
例え的に填まり過ぎてる。

「船長、しつもーん。こいつのこと気に入ってますよね??」

団員がこいつ、と言って指差したのはリーシャ。
なんとなく気まずいので止めてくれ。
目の前で答えを聞くのとか勇気が居るぞ。

「あ?お前達はそんなことを話題にそんなに盛り上がってたのか……」

飽きれ気味に言うローに心臓が鳴く。
え?これ答えもらえない感じ?
それから一番初めの質問と関係ない会話が繰り広げられる。
やはり答えられないので肩透かし。

「もしかして私、好かれてない?」

結局ロー達が盛り上がっている間に外に出てぽつり言う。
考えても考えてもどろどろな気持ちになるので寝ることに限る。
そうして思考を凍結すれば悩む必要もない。
ぐっすりぐっすり、10時間も寝た。
しかし、何故か胸のモヤモヤが晴れない。

「水飲も」

喉も乾くしで気分も落ちたままなので立ち上がって扉を出て廊下に出る。
もうすっかり夜で船は静か。
誰かしらは起きている筈。
ゆらゆら揺れる中、蛇口のあるキッチンへ入る。
コップに水を組んでごくごくと飲む。
そのまま息を吐くと誰かの足音が聞こえて耳を澄ませる。
今は誰かと話す気分ではないからキッチンに来ないように祈る。
しかし、相手はなにかを感じ取ったのか扉を開けるのでばっちり目が会う。

「お前だったか」

ローからすればこちらは居ても可笑しくないし気まずさなんて無いのだろうが、こちらからすれば気まずい。
なんせ、あの質問についての無回答にもやもやして上手く心を整理出来ないのだから。

「水飲んでただけ」

「おれも飲みに来た」

「そっか」

それ以降こちらからなにも言わず水をチビチビ飲んでいる。
こうしていれば無言でも違和感なく行ける。
そこまでもりもり話すような二人ではないので無言でも変ではない。

「今日は無口なのか」

「普通普通」

「普通にしてはこちらを見てきてないか」

見てないけど、ローが居るからローを見るしかないような。
二人なので只見ているだけだ。

「なにか言いたいのか?」

単に気になるから聞いているだけなのだろう。

「私って……いや、やっぱり良い」

水をクッと飲み干してコップを置いてさっさと去る。
しかし、途中で打ち切ったのが悪かったのだろう気になると顔に書かれた男が肩を掴む。

「なんだ、途中で切るな」

おっしゃる通り。
もごもごなる口の中。
言わなければずっとモヤモヤしたまま消化されないのかも。
そうなるのは困るのでローを見ないまま、声を震わせる。

「あの、私……必要?」

「はァ?」

「私は根っからの海賊じゃない。戦える訳でもない。一般人」

言いたいことが伝わったのか彼は目を細める。
怒ったのかな。
怒るような言葉を選んだつもりはない。

「私、ダメな事言った?」

本当に分からない。
私が役に立てている場面なんてないから。
ローはこの言葉に苦いものを食べてしまった様に顔をしかめる。

「っ」

唐突に目の前の距離を詰めると言葉なく掴んだ肩をそのまま引く。
距離はもうなく、胸板がぼやけている。
こんなに近いのなんて寝ている最中の足くらいしかない。

「なに」

「……なんでもねェ」

肩の手を退かして男は少し間を取り出す。

「5日後島についたらおれと来い」

「うん?うん」

寝ていたいがモヤモヤがどうなるか分からないので気分転換にも良いだろうと頷く。
呆気なく許可する姿にローはこういう時だけ聞き分けが良いんだなと笑う。
人の悪い笑み、他の人に言わせてみればエロスを感じる。
後にローに色気があると言えと注意されたが。

5日後、モヤモヤも消え失せだした頃。
なくなるのなら行かなくても良いかもしれないとローに話しかけたのだが、先手を打たれて睨まれた。
インドアなのを知られ過ぎているので己の心など簡単に予測できるのだと少し嬉しいような複雑さだ。

「行くぞ。必ず来い」

甲板にて待ち伏せされて朝御飯を掻き込んで無理やり服を着せられた。
イッカクの服らしい。
制服以外あったんだと変に関心した。
制服しかないのかと団員達を疑ったけど外では割りと私服を来ている。
でも、全て団のマーク入りなので意味がない。
皆マーク好き過ぎる問題を垣間見た。

「行くぞ」

甲板に出ると腰を持ち上げられてびょーんと飛び降りる。
ダイナミック。
ローはそのまま歩こうとするので流石に目立つのではと服を引く。
歩けると何度も訴える。
町に入る前には解放されて安心した。

「どこ行くの」

「適当にどこかのレストラン」

ローは簡潔に言われて困惑。
宣言の通りレストランに黙々と入る相手になにを聞けないまま共に行く。

「好きなモン頼め」

「うん」

頼んだのは塩気と甘いもの2つに飲み物。
待っている間何か話せばならないと気付いて水をちまちま飲む。
前の夜を彷彿とさせる。

「水を飲んで誤魔化すのが癖なんだな。フフ」

「なんのこと」

ちみちみ飲みつつ尋ねる。

「動揺してるぞ。お前は自分が必要かとこの前聞いてきたな?」

「え、あ、う、ん」

今その話をするの気なの、と驚く。
何故レストランに直行して?

「おれの息抜きに付き合え」

「息抜き」

「ああ。おれも相手を選んで話す。先ずはお前がおれの相手になれ」

それはクルー達も入っている。

「私は新人で古株じゃないのに」

知っている方が良いと思う。
ベポ達の方が気心が知れているのだろうに。

「おれが選ぶ奴に新しいも古いもねェ」

衝撃に息が詰まる。
正論になにも言えなくなるので水を飲む。
飲んでいる途中で食事が運ばれてくる。
餌を得た人間なので有りがたく食べた。
モヤモヤは無くなっていた。