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- ナノ -
ロッカーに二人は辛すぎ。
もうこれ以上は挟まりきれぬので抗議の為に動く。
固いけど弾力のある上半身を押し退ける。

「そんなんじゃおれは動かねェ」

なんだかとても楽しそうな声音。

「ん。せんちょーさん鍛え過ぎでは?」

確かに固い。
指が露出部分に沈む。
しっとりしているのは彼の汗かこちらの手汗か。
考えないようにしよう。

「えっと。せんちょーさん。汗拭いた方が良いんじゃ」

ローが外に出さえすれば解決するのでは。

「拭いた」

いや、ロッカーを覗いた時から拭かれていないのを見ていたから。
嘘だと直ぐバレるのになんでつくのか。

「拭いてない」

辛うじて言えた。

「じゃあお前が拭けば良い。おれはもう拭いた」

それはなんとも俺様な発言だ。

「なんで、私が」

「お前の汗がおれについたんだ」

そう言われてしまうと自信がなくなる。
やはり、これは己の分泌物なのだろうか。

「そんなの、まかり通らないけど」

うだうだと言っていると扉が開く音が聞こえて、眩しさが戻る。
腕が見えたので辿るとローが開けたのだ。
漸く出てくれるのだろうとホッとする。

「ちょっとは時間潰しになった」

彼が見下ろすとこちらは見上げる。
最初の抵抗が嘘のようにするりと抜ける。
出られたのではないかと文句を言いたくなったが、そもそもこのロッカーは彼の私物のようなものなのだ。
寧ろ明け渡すのが正解なのかもしれない。

「せんちょーさんが気に入ったのなら渡すけど」

いつからこの人をしたったらずな呼び方にしたのか。
呼び方に迷ったからどうとでも言い訳がつくものにしたのだ。

「おれにそんな趣味はない」

リーシャが明け渡す姿勢を見せたものの、断られて良かった。
もし、これで分かったと言われては安静の土地が一つ減るのだ。
それに、ローの身長では狭いのだし。

「変なの」

彼は扉を閉めることなく、また鍛え出した。
それを眺めるなんてことはせず無言で閉める。



また違う日。
今度は他の船員達が鍛えたりしてダンベルをガションガションと動かしているのを見て、皆鍛えるのが好きだなと感心。
かといってもそこに混ざるつもりはないけれどね。
ムキムキになりたいわけじゃない。
しかし、あの時のローの色気は半端ではなかった。
汗の匂いがまた鼻腔からよみがえる。
だめだめと不埒な思考をかきけす。
他所のところの船長に対してこんなは不適切と言わざるおえない。

「どったんだ」

うーんうーんと悩んでいると良くしてくれる船員の一人がこちらを眺めているのに気付く。
ああ、こんなところでくるくると動いていたら通行の邪魔だ。
急いで脇に寄り彼が通るのを待つ。

「なんでもない」

「あ、分かった」

相談しなかったのに勝手に予測される。

「船長のことだろー」

意地悪男子な空気になる。
女の子を泣かすような口調のアレだ。

「下世話」

ぽつりと溢す。

「下世話って、なー」

へらへらしている。
リーシャは男というのは古今東西、こういう話題に食いつくなと思わず凄んでしまう。

「貴方達の船長に対する態度に比べたら、大分大人しい対応になるけど」

船長、船長と皆ハートを撒き散らして歓喜し過ぎだと思う。
アイドルとファンクラブを見ている気分になる。

「だっておれら船長のこと好きだもん」

「結ばれるように祈っておくよ」

華麗にばっさりいく。
大丈夫、偏見を持ってないから。
男は焦った顔で違うしー!と否定した。

「船長には男力は勿論のことある。だが、それを越えた船長におれは憧れてるんだ」

「リンゴーンリンゴーン」

定番のBGMを口ずさむ。
チャペルにライスシャワー。
なぜライスシャワーを浴びさせるのか今でも知らないけど。

「だからちげーって。そんなことよりお前の悩みだよ悩み。聞いたろ?」

なんでもないって言ったのに突っ込んでくるそのメンタルに拍手だ。
そして、何よりも言うつもりは一切ない。

「枕をそろそろ干すか干さないか悩んでる」

「いや干せよ」

そうして解散と相成った。

その日からなぜかローが汗を弾けさせながらリーシャにぶつけてくるという事案が発生した。
流石に己の体に分泌物をつけたままでいるのは嫌なので風呂に入ったことで、彼はこちらが風呂に入る原因を作り出そうとしているという結論に至る。
取り敢えずやめてほしいことナンバーワンだ。